2017‐05経営者168_衆議院議員_大岡様

中小企業診断士の資格を持つ
唯一の衆議院議員として
効果ある中小企業政策を生み出すリーダー

衆議院議員

大岡 敏孝さん

早稲田大学卒業後、自動車メーカーのスズキに入社し、国内外の営業を経験。政治家を志し、27歳で浜松市議会議員に当選したが、次に挑んだ同市長選では落選する。浪人中に診断士資格を取得し、中小企業支援を行ったことが現在の職務に活きることになる。その後、静岡県議会議員としての復活を経て、滋賀県から衆議院議員選挙に出馬し当選、国政へ。診断士資格を活かして中小企業政策等に取り組むリーダーに話を聞いた。
Profile
滋賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社スズキ入社。1999年浜松市議会議員初当選。2003年の浜松市長選挙に挑むも、落選。浪人中の2005年に中小企業診断士資格取得。2007年に静岡県議会議員に初当選し、以降2期を務める。2012年に滋賀県第1区にて衆議院議員選挙に初当選。2014年に再選を果たす。地方創生に関する特別委員会、厚生労働委員会などの委員を経て、2015年財務大臣政務官就任。2017年3月現在、厚生労働部会と経済産業部会の副部会長を兼務する。

中小企業政策をライフワークの一つにするために

— 衆議院議員であり、中小企業診断士である日本唯一の政治家・大岡さんには、ぜひ中小企業政策をお聞きしたいと思って参りました。 
私が診断士資格を取ろうと思ったのは、浜松市議会議員から市長選挙に挑戦して、落選した時です。良い区切りだと気持ちを切り替えて、自分が本当にやりたいこと、やれることを棚卸ししようと思いました。市議会議員になって4年間、それなりに頑張ってやってきたけれども、それが体系的にできていたのかを確認するために、一度、振り返りたかったからです。 

その中で出した答えの一つが、日本の中小企業をしっかりと支援して、これを地域の活力、さらには国の活力につなげることでした。しかし、言うだけでは説得力がないため、自身が診断士になることを考えました。プロのコンサルタントの目で中小企業を診て、政策を考えられる政治家になりたいと思い、中小企業政策を自分のライフワークの一つにするために診断士を目指しました。
— ビジネス経験があったため、「中小企業政策で地域を元気にする」という発想に結びついたのでしょうか。 
そうですね。私は大企業の元社員でしたが、子会社への出向も経験しています。選挙や政治活動を通じて、中小企業に課題がたくさんあるとわかりました。そこで、「中小企業を元気にすれば、地域も日本も変わるんじゃないか」という感触を持つようになりました。受験は大変でしたが(笑)、診断士の資格も役に立ちました。 

「中小企業に詳しい」というのは、意外と政治家が持っていないスキルなんです。国会では中小企業が大事だとよく聞こえてきますが、現在、診断士資格を持っている議員は私一人だけです。新規事業開発やコーチングスキルなど、診断士特有の教科科目は大変勉強になりました。 
結局、政治家がやることはコーチングのようなことが多いですからね(笑)。プロのコンサルティングや助言技術は、政策を考えて進めていくうえでも当然、必要です。
ー 自動車メーカーのスズキに入社されたのは、なぜですか。
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自動車が好きだからです(笑)。社会人としての最初は、自分の好きなものに関連した仕事に就こうと思っていました。自動車やオートバイなどが好きだったため、それを扱える自動車会社と商社しか受けませんでした。そして、受かった企業の中からスズキを選びました。メーカーで働いたほうが、仕事の1から10までが学べると思ったからです。
 
スズキでは、国内営業3年と海外営業1年を経験しました。海外はマレーシアとフィリピンの担当でしたが、国内と海外では仕事のやり方が全然違います。海外では現地の提携企業に向けて営業をかけるのですが、セミノックダウン生産という方式で、国内からエンジンなど完全にユニット化したものを海外に送って、現地で組んで塗装したものを国内に納める形態でした。いわば、プラモデル状態ですね(笑)。
ー なぜ、政治の世界に転身されたのですか。
もともと政治の世界に行きたかったため、27歳で市議会議員になりました。その時は、一発当選だったのですが、その後にチャレンジした市長選には落ちて、浪人中に診断士の資格を取ってから、県議会議員として政治の世界に出戻ることになりました。今では選挙に出馬する時には、勝ち目があるかどうかをしっかりと分析するのですが、当時は勢いだけでやっていました。まだ若かったからですかね(笑)。
— 今振り返ってみて、当時の決断はいかがでしたか。
大いに勉強になりましたが、良い面と悪い面があったと思います。30代前半という一番働くことができて経験を積まなければならない時期に、ブランクができたことは損失が大きかったと思います。しかし、そのおかげで診断士になることができましたし、政治家としてのキャリアは詰めなかったけれども、診断士として経営の現場を回ったことが今に活きています。 

診断士活動は、ちゃんと報酬をもらって仕事をしていました。中小企業の知り合いが大勢いたため、助かりました。その時のコンサルティングは、とても面白かったですよ。新規事業立ち上げや人事労務の相談、行政がらみの補助金・助成金の申請、商店街の活性化など、さまざまな経験をさせてもらいました。後々、県議会議員、国会議員になってからも、当時の経験が活きています。
— 市政、県政、国政とステップアップされていますが、その違いはなんでしょうか。
やはり、現場との距離ですね。市議会議員はずっとその市にいるし、県議会議員も比較的地元にいますから、現場に近い所にいるわけです。問題は国会議員で、国の一番根幹を所管しているのですが、一方で現場から一番遠ざかってしまう。ですから、意図して現場を回って社長さんや従業員さんの声などを聴き、一番根幹なのに一番遠いという矛盾を克服しないといけないのです。
現在も、できるかぎり時間を見つけて現場を回ろうと思っています。この部屋を訪ねてくれる中小企業の社長さんも大勢いらっしゃいますし、面白いことをやっている企業はインターネットで検索したり、中小企業庁に聞いたりすればいくらでも出てきます。そのような企業に「少し、お話を聴きたいので、現場に行かせてください」とお願いすると、まず受けていただけます。 

現場では、「ものづくり補助金はどうですか」、「今後の成長について、どう考えていますか」、「IT投資はどうやっていますか」、「働き方改革について、どう思っていますか」など、政策にかかわる話を聴きます。今はどちらかというと、アドバイスするよりも、話を聴いていることのほうが多いですね。しかし、同じことをやっている議員は少ないため、もっと現場の声を聴かなければならないと思っています。
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選挙はSWOT分析と差別的競争戦略を駆使して勝利

— 選挙の話もお聞きしたいのですが、たとえば、戦い方において勝つ秘訣などはあるのですか。 
政治家には2代目、3代目など基盤のある老舗的な方もおり、それはそれで事業承継がなかなか難しいらしいです(笑)。私の場合は初代として、市議会議員や県議会議員の時は浜松で地盤を作っていましたが、国会議員になるために引っ越して、滋賀というまったく新しい地盤でスタートしています。 

滋賀での相手はベテランの大物でした。そこで、診断士的に言うと、「SWOT分析」をしっかりと行いました(笑)。自分はどういう立場で、何が強みか、相手の弱みは何か、地域が期待していることは何なのか、国が期待していることは何なのか、それぞれのニーズを分析して、それに対して自分がやるべき戦略を考えました。 

相手の方は国会議員を30年以上されていますが、こちらは国会議員としてはまだ選挙に出たばかりです。まずは知名度だけでも同じ土俵に上がれるくらいにしようと目標を立てて、ポスターなどをたくさん貼りました。「ここまでポスターを貼った人は、今まで見たことがない」と言われるくらい貼りまくりました(笑)。また、相手が年配の方だったため、私は若さをアピールしようと考えました。
— 差別的競争戦略ですね。 
そうです。冬にも上着を着ずに駅前に立ったり、夏には半袖のシャツを着たりしました。私は普段はフォーマルな格好が多いのですが、選挙の時は色つき半袖シャツで街頭に立ちました。日向に立ったり、雨のかかる場所にも構わず立ったりなど、見た目で若々しい印象を持ってもらえるようにしました。 

ベテランの相手の方と比べて、政策面での自分の強みは、市議会議員も県議会議員も経験してきたことで、現場を知っていることです。政治団体の経験はないけれども、診断士としても経営の現場を知っています。子育て世代として、PTAの会長もやりました。相手にできないことをPRしていった結果、1回目の選挙から勝てたため、戦略が当たったと思っています。 

その後も含め、国会議員として2回当選させていただきました。しかし、資金は相手に比べると圧倒的に少ないため、どう活動していくのかはとても大事ですね。経営資源の不足は、まさに中小企業の悩みでもあります。できるかぎり無料のものを使う、中古品を使う、もらえるものはもらう、など中小企業の経営のようにムダを引き締めて活動していました。

働き方改革や福祉の合理化に診断士のノウハウが活きる

— 「大手にいかに勝つか」という中小企業の成長戦略をお聞きしているようですね。現在の取組みについてお聞かせください。 
2017年3月現在の肩書は、厚生労働部会の副部会長と経済産業部会の副部会長です。テーマは、社会保障分野と働き方改革です。これは自分が与えられている仕事でもあるため、自分なりに一定の答えをしっかりと見つけて、その方向に向けて議論を進めていきたいと思っています。働き方改革や一億総活躍などもかなり浸透してきましたが、経済産業部と厚生労働部のダブルで役職を頂いているのは、「そこに力を入れろ」ということだと思っています。 

働き方改革では、生産性の向上や残業の抑制、女性の活躍などが言われていますが、まだ全部が有機的に結びついていない感じを受けます。たとえば、単純に労働時間規制だけを行うと、GDPに影響しますよね。日本の産業は過剰サービスで、お金が取れないのにもかかわらず、サービスだけし続けている会社が山ほどあります。それで国民が便益を受けているため、その状態がよしとされている面があるのも事実です。そこに労働時間の抑制だけを入れると、サービスが低下して、売上も低下し、結果的に縮小均衡になってしまいます。そうさせないためには、合理化を進めながら労働時間を抑制していくことが重要です。これは順番を間違えると、大失敗すると思います。 

社会保障の分野も、それに応じた税収が得られていない状況です。合理化を進めるのと同時に、見合った税収を確保していかなければなりません。それを消費税から確保するのか、あるいは他の税収の見直しをするのか、などは今後の検討ですが、適切な負担が必要になるとは思っています。医療や介護の世界も診断士の目で診てみると、やれることはまだまだたくさんあります。 

合理化は単に節約するだけではなく、持続可能な制度を作れるかどうかがカギです。医療などは毎年1兆円ほども経費が増えているのに、税収は増えていません。これは、まったく持続可能な体制ではありません。制度を維持するためにどうすべきかを、自分なりに答えを出して国民に説明していかなければならないと思っています。
働き方改革や福祉分野の合理化などは、体制の持続可能性を高めるためで、これにも診断士のノウハウがかなり活きています。福祉の世界の社会福祉法人や保育園、老人ホームなどは、ほとんどが中小企業です。合理化はできる形に落とさないと意味がないため、しっかりと工程表を作って実現していくつもりです。 

こうした取組みを進める際、国会の予算委員会などでは感情的な言葉の応酬になりがちですが、それではあまり意味がないと思っています。具体的にどう実行するのかというところまで見据えた、本当の議論がしたいです。感情的な言葉のぶつけ合いは、バラエティとしては面白いかもしれませんが、真剣に考えている国民は政治家が具体的にどのようなことをするのかを、しっかりと聞きたいと思っているはずです。
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— 地方創生のお話もお聞きしたいです。かなり進みつつあるとは思うのですが、評価はいかがでしょうか。
心配していることが2つあります。1つは、国民の関心が若干薄らいできたのではないかということ、もう一つは「国は何をしてくれるのか」という他人任せの期待感のほうに流れつつあるのではないかということです。 

私も診断士活動をしていたため、よくわかるのですが、「俺はやる気がない」と言っている社長を支えるのは本当に難しいことです。ほとんど不可能に近いですね。「やる気はあるが、何をやればよいのかがわからない」と言われたら、これは我々の腕の見せどころになります。 

地方創生で絶対に必要な条件は、「地方のやる気」です。自分でもがく気があるかどうかです。この分野では頑張っているところと、頑張れない、頑張る気がないところとの差がつきつつあると感じています。

政治が答えを出すスピードを上げていきたい

— 最後に、大岡さんにとっての挑戦とは。
私は政治の仕事をしているので、政治の世界の生産性を上げていくことと、政治が具体的な答えを出すスピードを上げていくことですね。 

「国民に寄り添う」という言葉をやたらと聞きますが、単に国民と寄り添っているだけではしょうがないと思っています。「こうあるべきじゃないか」、「こうしたほうがよいのではないか」、「私はこう考える。だから、応援してほしい」と、国民に呼びかけ続けるのが政治だと思います。国民の声も聴くし、国民にも呼びかける。国民にそのような向かい方をすることが、政治家の仕事ではないかと思います。単に寄り添っているだけでは、その程度の生産性しかないと思います。 

アジアを含めて途上国が、これからさらに台頭してきます。世界の中で日本をどう光らせるかを考えると、政治の生産性、先見性、新規性、スピード、実行力、それから諸外国に対する説得力や交渉力が、今まで以上に大事になってきます。 

たとえば、「今まで、外交などはアメリカ任せだった」というのは一面の真実だと思います。これからの時代はそういうわけにもいかなくなるでしょうから、その時に政治に何をさせるのかは国民にも考えてほしいし、私も国民に対してメッセージを出し続けられる政治家でありたいと思っています。
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目からウロコ
大岡さんにお会いするのは2度目だったが、前回同様にそのお考えにはとてもシンパシーを感じた。経営者視点を持って政治に取り組むところが、官僚等出身の政治家にない現場感覚につながっている。ビジネス経験だけでなく、中小企業診断士の資格を取って経営の現場を診て、コンサルティングを対価を得ながら行ってきたという経験が大きいのではないか。 

中小企業をこの国の変革の起爆剤にしたいという考えは、同じ診断士としてもろ手をあげて賛同したい。日本の事業所の99.7%は中小企業であり、世界の中でも中小企業比率の高い国である。ものづくり日本の多くの技術は、下請け中小企業が支えている。そもそも大企業というのは、中小企業が成長した姿であり、多くの中小企業のチャレンジが日本の経済や雇用を支えているのだ。大岡さんのインタビューを通じて、中小企業経営者でもある私は、この政治家に日本の中小企業の未来を担ってもらいたいと感じた。 

その現場感覚から導かれるスタンスは、確信に満ちている。政治のスピードを上げていくというコメントが印象的だったが、経営の世界でもスピードの重要性が増している。スピードを上げることは早く結果を出すことであり、効率を上げることでもある。うまくいかない場合はやり直すことができる。よく「拙速は巧遅にまさる」といわれるが、スピードは戦略の基本である。もちろん「巧速」がベストだが。 

大岡さんのように中小企業経営を、現場感覚を持って理解できる政治家がいることは、日本の中小企業にとってラッキーなことだ。今後のご活躍に大いに期待したい。
(原 正紀)

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