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プロ店長の育成・派遣事業を核に
職文化の向上に挑む経営者

株式会社リンク・ワン 代表取締役社長 

河原 庸仁さん

誰もが活き活きと働いて、人と人がつながりあえるような組織が作りたい。リンク・ワンという社名に込めた思いは、河原社長が実現したい組織・働き方のあるべき姿である。いつかは起業することを志して入社した日本エル・シー・エーでは、人事部門のアウトソーシングという新たなビジネスを開拓した。さらに顧客と喜びを共有するため、プロ店長派遣のシステムを考案し、リンク・ワンの設立につなげる。職業は文化であるという考えで、外食産業における働きがいを追求する。設立わずか3年で上場企業の育てあげた経営手腕で、店舗を持たない外食のプロとして活躍する、ビジョナリ-な経営者に話を聞いた。
Profile
88年に大学を卒業し日本エル・シー・エーに入社。人事部長を経て人事機能のアウトソーシング事業を立ち上げる。さらに外食店舗の店長を育成し派遣する事業を起案して、01年にリンク・ワンを設立する。人材関連事業とFC・直営関連事業で拡大して、04年に東証マザーズに上場し現在に至る。

— 少子化時代を迎え人材不足が顕著になる中、外食関連企業はどこも人の確保に躍起です。貴社のプロ店長育成・派遣というサービスはとても市場ニーズに合致した、ユニークなものですね。
2001年7月に起業して、プロ店長候補の第一期生はその年の11月に入社しました。現在160人いる社員のうちの100人ほどがプロ店長です。それでもまだまだ足りないくらいのニーズがあります。

プロ店長事業とは、当社で採用・教育した店舗経営のプロ人材を、お客様の店舗に派遣するサービスです。いわば実践型のコンサルタントで、自らが店長として現場に入り込み、知恵と汗を出しながら店舗の収益改善、風土の改革、パート・アルバイトの教育などを行うものです。

お客様はホスピタリティ産業で、そのうちの90%が外食関係です。残り10%は小売などの店舗になります。業務委託契約の形式で各店舗に行っており、現場で成果をあげるしくみを作ることがミッションになるわけです。

お客様に提供する価値としては、ルールやツールなどマネジメント基盤の構築、顧客満足度を高めるオペレーションの確立、そしてリーダー候補の人材を育成することです。月次に目標設定をして、そこで決めたアクションを100%消化していきますから、高い信頼を得ています。
— 貴社の中心となる独自性の高いサービスですね。外食産業は店長が生命線といえますから、とても顧客価値の高い事業です。その他にはどのようなサービスをされていますか。
当社の事業は大きく分けて、人材関連事業とFC・直営関連事業の2つがあります。それにより外食を中心とするホスピタリティ産業の職文化、つまり職業としての位置づけの向上に貢献していきたいと思っています。
人材関連事業としては、まず前述のプロ店長事業があります。2つ目が教育コンサルティング事業です。教育・研修プログラムの提供や、コンサルティング活動によりお客様を支援しています。多摩大学と連携して、「チェンジリーダー育成塾」なども立ち上げました。

人材関連事業の3つ目は人材採用支援事業です。新卒・中途・パートアルバイトの採用において、全面的にサポートしています。この分野は創業当初よりお客様のニーズが強く、力を入れてきたサービスです。採用・教育については多くの現場で蓄積したナレッジをデータベース化しています。
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ー 外食業界では人の問題ではどこも頭を抱えていますね。これから少子化の影響で、よりニーズは強くなるでしょう。もう一つのFC・直営関連事業はどのようなものですか。
こちらの事業は2つに分けられます。まずはフランチャイズ支援事業です。フランチャイズ業界では、1企業が複数のヒットブランドを生み出したケースはとても少ない。だから複数の企業を結び付けて、新しい価値を生み出すことを実現したいと思っています。

実績ある繁盛店を全国に多店舗展開する支援などが主な事業内容で、自社で独自開発したチェーンをやるつもりはありません。前面にはあくまで繁盛店のオーナーに立ってもらい、黒子として関わっていきます。時には新たな業態での展開を提案することもあります。

支援のパターンとしては3種類あります。まずはその営業権を受け取り、当社で展開すること。次に資本参加をして共同出資型で展開すること、最後にコンサルタントとして加わり、エクイティペイメントのしくみなどで報酬を受け取ることです。それぞれ場合によって使い分けます。

2つ目の直営店舗運営事業に関しては、あくまでも店長育成やOJTでの教育の場として自社で店舗を運営しています。フランチャイズ事業の実験の場ということもあります。しかし当社はあくまでも店舗を持たない外食のプロとしてやっていくので、直営店に力を入れて、収益を得ることを目標とするつもりはありません。
ー 河原社長はとても自分の事業や、やるべきことを見据えながら経営されている印象です。どのような経緯で起業に至ったのでしょうか。
学生時代から将来起業したいという気持ちはありました。だから多くの経営者と一緒に仕事ができるコンサルティング会社、日本エル・シー・エーを就職先に選んだのです。子供の頃から生徒会長や役員になることが多かったのですが、クラスによってまとまりがあったりなかったりすることが不思議でした。

大学のサークルも同じですね。盛り上がるサークルとそうでないものがある。就職するにあたり、活き活きとやりがいを持って働ける企業を選びたいと思っていました。多くの企業に就職活動を行った結果選んだのが日本エル・シー・エーでしたが、その組織文化はとても気に入りました。

最初はコンサルティングの仕事をしていたのですが、どうしても第3者的なかかわりで、もっとお客様と一体化して喜び合える仕事をしたかった。自分が人事部長をしていたときに、人事部門のアウトソーシングビジネスを思いついて、その事業計画書を書いたのです。

当時の小林社長(現会長)からは「できるのであればやってみたらいい」といっていただき、スタートしたのですが、当初2年くらいはなかなかうまくいきませんでした。そんな時にレインズ(現レックス・ホールディングス)の西山社長とお会いして、意気投合して人事部長のアウトソーシングを任されることになりました。それがリンク・ワン設立のきっかけになるのです。
— やはり自分のやりたいこと、ビジネスマンとしての方向性を強く意識して就職したから、周囲がやりたいことを後押ししてくれるような仕事人生になるのでしょうね。今の学生達にもぜひ教えてあげたいものです。そこからは順調でしたか。
レインズの採用活動を代行させてもらいましたが、それがとてもうまくいき、他の外食企業をご紹介いただけるようになりました。どの企業も採用が最大の課題であり、強いニーズを感じましたね。しかし外食業界では離職率も高く、半年や1年くらいで辞めたいと相談してくる人も多かった。

自分だけが事業としてうまくいくのだけでは満足できません。みんながハッピーな状態にしたいと思いました。企業の目的は人の採用ではなく、採った人が現場でがんばり、業績が伸びることです。個人としても目的は、入社した後にやりがいを持ってがんばれることです。

そこまで手伝えて、その結果として出た利益を、お客様と分け合えるような事業はできないかと考え、その結果考えついたのがプロ店長事業です。それを事業計画書として提出して、別会社化する承認を得ることができました。

最初は日本エル・シー・エーから5000万円出資してもらった100%子会社でした。人材ビジネスなので場所にこだわり、渋谷の一等地にオフィスを借りた結果、場所の投資だけで預かったお金が全て消えてしまいましたが(笑)。
— 2001年7月に創業して、2004年7月に東証マザーズ上場というスピード公開ですが、上場のメリットはやはり大きいですか。
日本エル・シー・エーで人事部長をしていたときに、採用活動では優秀な人をどうやって採るかということに、いつも頭を悩ませていました。そんな時に東大で国家公務員のキャリア試験に合格した学生に内定を出すことができたのです。

本人も来たいといっており期待していたのですが、翌日断りに来られてしまいました。理由を聞くと親に猛反対されて、考え直さざるを得なかったということでした。当時はものすごく悔しく、残念に思ったものです。
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しかしその後日本エル・シー・エーが上場して、同じような学生に内定を出すことができました。前回の轍を踏みたくなかったので「親に相談してきなさい」といったところ、翌日に親も喜んでくれたという報告があったのです(笑)。

同じ企業でも上場と非上場では、これだけ見られ方が違うのかと思いました。せっかく就職するなら親や家族に喜んでもらえることは、とても大事なことです。そのための一つの手段として上場の効果は大きい。だからリンク・ワンでも、迷わず上場を目指しました。もちろんビジネス上の認知向上のメリットもあります。
— 私も多くの企業から採用に関する相談を受けていますが、現状はかなりの採用難時代ですね。安定志向の若者が増える状況下で、上場効果は大きいでしょうね。
そうだとは思いますが、それでも採用は楽ではありません。対象がはっきりしている新卒採用に関しては、応募者に対してきめ細かなコミュニケーションがとれていますので、予定通りの人材が確保できています。

しかし不特定の対象である中途採用に関しては、そういうコミュニケーションがとれないので、当社の良さが伝え切れていません。どのようにして中途の転職市場の方々とコミュニケーションをとるか、それが採用上の大きなテーマです。

採用もマーケティングと同様、最初に対象を決めなければ効果的な活動はできません。どういう人生を送りたいと思っている人を対象とするか、自社のありたいと思っている姿をどのように伝えるか、そのコミュニケーションの場を作らなくてはなりませんね。上場したとはいえまだ一般的な選択肢の中に、当社が入っていないと思います。
— 上場はゴールではありませんね。理想や目指すものを強くお持ちの河原社長だけに、社名に込めた思いはとても強いのではないですか。どのような意味が込められているのでしょうか。
リンク・ワンという社名に込めた意味は、人(ONE)をつなぐ(LINK)というものです。人と人をつなぐことによって、新しい価値を生み続ける企業でありたい。新しい価値の環(LINK)を拡げ続ける企業でもありたいですね。

私は職業を文化だと思っています。前にも述べましたが、それが“職文化”という言葉で、それを向上し続けることが当社の使命だと思っています。そのために重要なのは、働く人が誇りをもてるかどうか、成長実感が持てるかどうかであり、それをサポートするのが当社の事業です。

そのためには人材教育には特に力を入れたいと思っています。教育プログラムを充実させ、一種の学校のような機能を身に付けていきます。外食産業は人の流動性が高いので、個人の実力を明確化できるような、資格制度も作りたいと考えています。それにより人と仕事のマッチングが、より正確なものになるでしょう。
— 自社での人材育成では、どのようなことをされていますか。
私自身が新入社員などに話をするときは、ものの考え方などについて、自分の若い頃の話をしています。周囲の考え方などを取り入れながら、自分を常に振り返ることが大切ということなどを伝えます。時には課題図書などを使って、自分の主張を伝えることもありますね。

私自身も本はよく読みます。ある先輩から新入社員の頃に「給料の10%は自己成長に投資しろ」とアドバイスされてから、律儀に毎月2万円くらい本を買っていました(笑)。とても全部は読みきれませんから、積んでおいて読んでいくのです。それがすごく勉強になりました。

社員に読書を勧めると「本など読んでいる時間がない」とか「どんな本を読んでいいかわからない」などといいます。だから課題図書を決めることにしました。読書感想文を書かせて、書いた人には2000円のご褒美を出しています。それによってずいぶん読書が推進されましたよ(笑)。
— うまいこと社内に読書促進のしくみを取り入れましたね(笑)。これからの成長戦略についてはどのようにお考えですか。
当社の事業としては、人の分野に特化していくつもりです。もちろんそれ以外にもシステムやマーケティングなど、お客様のニーズはいろいろありますから、そこは専門家と組んでいきたいと思います。その時々において、最高のパフォーマンスを発揮できる会社と組みます。

企業としては一芸に秀でることが大事です。当社の場合それが人の分野です。まずは外食産業の人事部としてポジションを確立し、さらにサービス業・小売業などに横展開していきたい。

プロ店長の配置や教育・採用といった分野は、お客様である外食企業では、当然各社とも社内で実行していることです。でもリンク・ワンのパフォーマンスが高いから使ってくれる、そんな状態にしなければなりません。他社にはない強みを伸ばすことが基本です。

現場でがんばる社員の一人一人ができることは、どうしても限られてきます。それを蓄積して企業としてのノウハウを作り上げ、知識集約型の参入障壁を作ることが、今後の最大の戦略になります。すでにプロ店長に関するナレッジ(知的資産)は、相当高度なレベルまで高まっています。

ナレッジの仕組みを作る上で、いろいろな企業の経営者の意見も聞きましたが、それを重視する評価のあり方が大事だと感じました。成果を上げている人が、それを自分だけで囲ってしまわずに、オープンにしていくことで評価され、周囲からも感謝されることです。

当社では成果をあげることは当たり前のことです。それを組織のナレッジとしてこそ高い評価となる。ナレッジの共有ではノウハウだけでなくノウフー(Know Who)も大事なことですね。いろいろな業態の支援をしていますので、ビジネスの勝ち負けの差などもわかってきます。そういったナレッジはお客様とも共有したい。
— 河原社長にとって挑戦とは何でしょうか。
一番実現したいことは、リンク・ワンで経営や生き方を学んだ人が、日本のいたるところで、外食産業の一員として活躍しているということです。金融なら野村證券、ITならIBM、人材ならリクルートといったように。リンク・ワンで勉強した人たちの力で、外食産業の職文化を向上させていきたいと思います。

すでに独立して飲食店を経営している人もいます。もちろん今でも付き合いがありますよ。そんな人を育てる“道場”のような会社にしていきたい。お世話になった日本エル・シー・エーの小林会長はから「経営者とは聖職者でなければならない。コンサルタントは聖職者と共に仕事をするのだから、常に自分を高めなければならない」と、新入社員のときに教わりました。私も同じよう社員を育てていきたいと思っています。
目からウロコ
経営者には理想を掲げて一気に攻めるようなカリスマ型と、現状を見極めて不断の改善により事業を進めるリアリスト型があると思うが、河原社長はその両方の良さを併せ持つ経営者だ。強い現場志向を持ち、顧客や社員にとってよしとすることを追求し続ける柔軟な姿勢と、自分のやりたい夢、ビジョンに向かって組織を進めていく力強いリーダーシップを、絶妙のバランスで発揮している。企業に就職して社会人としてのスタートをきって以来、じっくりと自分を高め、事業の構想を進めてきた着実さと、起業後に上場に向かう一気呵成の攻撃力の両立が、河原流経営といえるものではないだろうか。

日本の外食産業は、上位企業が全国規模のチェーン店に占められて、その比率が上昇し続けていると聞く。魅力ある個店や新業態が出現しにくくなっているかもしれない。外食産業を支援するプロとしてのリンク・ワンの存在は、業界全体に新風を吹き込み、活性化を生み出す、大きな役割を果たそうとしている。少子化の進展は外食産業に、人の確保の面で大きな打撃を与えるものだ。河原社長の目指す外食産業の”職文化“の確立が、その突破口になる可能性は高い。これからのリンク・ワンの活躍は、外食・小売などの業界にとって大きな追い風になるだろう。
(原 正紀)

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