2014-05経営者132_リコレクト_森川様②1

メンタルトレーニングの技法で
ビジネスマンをサポート
世界進出を目指すリーダー

株式会社リコレクト 代表取締役社長

森川 陽太郎さん

サッカー選手としてヨーロッパでプレーしていた頃、メンタルトレーニングに出会う。足首の故障を抱えながら、26 歳までプレー。日本に帰国後、いったんは就職するが、メンタルトレーニングの可能性を感じて起業に踏み切る。株式会社リコレクトを設立し、既存の理論に頼らない独自の「OK ラインメンタルトレーニング」を開発。さまざまなスポーツ選手やミス・ユニバース・ジャパンなどのメンタルトレーニングを担当し、各種メディアに取り上げられる。大手企業を中心に、社員研修やストレスマネジメントの分野でも事業展開。オリジナルに開発した日本発のメンタルトレーニング技法で、世界への進出を目指すリーダーに話を聞いた。
Profile
1981年東京生まれ。元サッカー選手。スペインやイタリアでプレーし、引退後は心理学やメンタルトレーニングを学び、27歳で(株)リコレクトを設立。「OKラインメンタルトレーニング」という独自の手法を開発、スポーツ選手のメンタルトレーニングやビジネスマン向けの研修などを展開し、メンタルの分野で活躍中。

OKラインとは、自己肯定感と自己否定感の境目となるライン
できることとできないことを把握し、そのラインを見極めることが大事です

— 森川さんはもともとサッカー選手で、いまはメンタルトレーニングのビジネスをされているそうですね。事業内容をお聞かせください。
当社の事業は、大きく3つに分けられます。1つ目はスクール事業で、当社独自の「OKラインメンタルトレーニング」の認定アドバイザーとオフィシャルトレーナーという、2種類の資格を設定しています。認定アドバイザーは結構増えているのですが、オフィシャルトレーナーは、卒業後にプロのメンタルトレーナーとして活動することを視野に入れているため、難関資格となっています。

2つ目はメンタルトレーニング事業で、トップアスリートを中心に、ミス・ユニバース・ジャパンファイナリストや管理職の方、主婦の方や小学生年代の子どもまで、幅広い層のお客様をサポートしています。3つ目は講演や執筆など、多くの方々に発信する事業で、森ビルや NHK などの企業研修も行っています。

メンタルトレーニングには、無理やりポジティブでいることを強要されたり、心の弱い人が受けたりといった、あまり良くないイメージがあるようです。実際は、多くの方に役立つ身近なものなのですが、私たちはOKラインメンタルトレーニングを知ってもらうことで、誤ったイメージを変えていきたいと思っています。中には、メンタルトレーニングを受けた結果、トレーナーに依存を起こしてしまうケースや、トレーナーがお客様の中にある答えではなく、トレーナー自身の答えに導いてしまうなど、過度に影響を与えてしまうケースもあると聞きますが、それではメンタルトレーナーとしては失格です。

要は、自分としっかり向き合うことが大切で、そのための効果的な方法として、独自のOKラインメンタルトレーニングを生み出しました。「OKライン」とは、自己肯定感と自己否定感の境目となるラインのことで、自分で「これでOKだよ」と認められるラインのことです。日本人にはストイックな傾向があるせいか、なかなか自分にOKを出せずに悩む人が多いのです。

ストイックなこと=良いことと思われがちですが、そのために自分になかなか満足できず、自己否定感を感じてしまう人も少なくありません。たとえ完璧ではなくても、自分の「できたこと」にOKをあげることで自己肯定感が積み重なり、それが自信につながるのです。

一方で、「苦しいけれど頑張っている」という過程に満足する人もいますが、それは本質からズレている可能性があります。いまの自分に「できること」と「できないこと」をきちんと把握し、自分にOKを出すラインを見極めることが大事です。

大事なのは、感情を良い・悪いと評価しないこと
できたことにOKをあげることで、結果につながるのです

— たしかに、ストイックに頑張ることを、私たちは美点として捉えています。スポーツも文化も商売も「道」と捉え、そこで自身を鍛えることが大切ですね。
自己否定感を持ちながら頑張っている人も多いですが、そうすると自分ができないことを気にしすぎてしまうんです。私がメンタルサポートをしているプロゴルファーの横峯さくら選手の場合、ドライバーが飛ばないと、バーディを取っても自分にOKを出すことができませんでした。飛距離が落ちても、バーディが取れれば十分OKに値するのですが、それがなかなかできなかったのです。

そうした日本人の感覚は、昔は時代にフィットしていたのだと思います。仕事もスポーツもそうですが、たしかに新人などが力をつけるには、ストイックな部分も必要です。でも、ある程度力をつけてからは、どのように結果を出すかなど、強みの発揮が大事になります。そのためにはストイックであるより、自分に自信を持つべきです。

ポジティブシンキングや、前向きであることを求めすぎている人が多い気がします。その結果、うつ病などが増えているのでしょうが、絶対的にネガティブだから悪い、うまくいかないというわけではありません。大事なのは、プラスの感情(ポジティブ)もマイナスの感情(ネガティブ)も自然と湧いてくるものなので、感情を良い・悪いと評価しないことです。誰にでも、マイナスの感情を感じていてもうまくいったことはあるはずです。その際、できたことにきちんとOKをあげるように心がけることで、どのような場面でも自分の力を発揮でき、結果につながるのです。

そうした力を養うには、マイナスな感情を持ったままで、やるべきことに取り組んで成功体験を重ねていくことです。本当は不安や緊張があるのに、それを振り払ってポジティブに考えようとすると、感情と思考が不一致を起こし、ストレスの原因になってしまいます。ありのままの感情を受け入れ、その中で思考し、行動することが大事なのです。
— 私はメンタルトレーニングを受けたことがないのですが、どのようなやり方で行うのですか。
私たちはマンツーマン形式で、期間を区切って行っています。日本でメンタルトレーニングを行っている方々は、おおむねアメリカから持ってきた理論に基づいていることが多いのですが、私たちは経験から生み出した独自の理論で行っています。メイドインジャパンのメンタルトレーニングを、世界に発信したいと思っています。

やり方は、個人や集団、お客様の相談内容によってさまざまです。一例として、「自分がほめられて一番嬉しいことは?」などのテーマを投げかけ、それを掘り下げていくことで、満たされている部分とそうでない部分を自覚してもらうトレーニングがあります。これは、自分と向き合うための質問を投げかけるやり方です。そのほか、OKラインの設定の仕方やモチベーションの育て方をアドバイスしながら、ワークを通して身につけてもらうやり方もあります。

現在は、企業の研修などに呼ばれることが増えていますが、ストレスマネジメントやモチベーションに関する依頼が多く、私たちのやり方はビジネスマンにも多く取り入れられています。提案力を高めるため、一歩踏み出せるようになるため、といった要望もあります。中には、新人から出る質問の質が低いので、何とか高めてもらいたいというテーマをいただいたこともありました(笑)。

対象は特に若手社員だけというわけではなく、管理職や幹部などすべての階層です。ある大手企業では、会社全体に浸透させるために 60 回も講演しました。企業だけでなく、高校や大学からの依頼も増えていて、だんだんとOKラインメンタルトレーニングが一般の方にも認知されてきているのを感じます。これまでのメンタルトレーニング業界ではやっていない仕事にも、積極的に取り組んでいくつもりです。最終的には、海外で自分たちのスタイルを広げることを目指しています。

そのためにも、まずは日本でベースを作ることが必要と思ってやってきました。おかげ様で、個別企業だけでなく、商工会議所などの団体から呼ばれることも増えています。アドバイザー契約を結ぶケースや、講演に呼ばれるケースも多いのですが、実績はかなり積むことができましたので、来年には海外進出を実現したいと思います。

やりたい仕事を得るには、どのように見せるかが重要
その分野でのサービスを作り、それを発信することが有効です

— スポーツ界ではよく聞きますが、メンタルトレーニングは企業にはあまりなじみのない分野だと思います。どのように拡大してきたのですか。
いまは、こちらから営業に行くことは一切していません。会社を立ち上げた頃は頑張って営業をしましたが、たとえ決まっても「やってあげるよ」という感じで、あまり価値を感じてもらえませんでした。「君にメンタルの何がわかっているの? 私がメンタルトレーニングをやってあげようか」などと言われたこともあります。

このときに、お願いをしてやってもらってもうまくいかないことを痛感したので、それからは仕事の見せ方を工夫するようにしています。具体的には、自分のプロフィールに書き込める仕事をやっていくことです。たとえば、2012 年からミス・ユニバース・ジャパンのオフィシャルトレーナーを務めていますが、きっかけはミス・ユニバース・ジャパンを取り上げたテレビのドキュメンタリーを見たことでした。
その番組を見て、「彼女たちのメンタルトレーニングを担当できれば、効果を出せる」と思い、「女性に強い」というイメージを植えつけるために、ダイエットを支援するサービスを作りました。そして、その事例を積極的にアウトプットし続けていたら、2年ほど経ってミス・ユニバース・ジャパンから連絡があり、オフィシャルトレーナーに選ばれたのです。

自分がやりたい仕事を得るには、どのように見せるかが重要です。もちろん、自身の力がそれにふさわしいかどうかが大事ですが、その分野でのサービスを作り、それを発信することが、仕事を増やすうえでは有効だと思います。
— 独自のメンタルトレーニングを生み出すには、森川さんのこれまでの経験が大きく影響しているのでしょう。サッカー選手として、ヨーロッパでプレーされた成果ですね。
学生時代はサッカー強豪校にいて、サッカーのうまい人にコンプレックスを感じるようになってしまいました。そのコンプレックスを克服しよう、自分でもプロになれることを証明しようと、高校卒業後すぐにスペインへ行き、サッカーチームに入りました。中学の頃から「海外でやりたい」と宣言していたので、親も応援してくれました。ただ、日本人ということで、随分と差別を受けましたね。マジョルカ島にいたのですが、差別用語を投げかけられたり、パンを投げられたりしました。

でも、左足首を5回手術するなど、プレーを続けるのが難しくなり、26 歳でやめることを決断しました。当時、日本の友人は皆、就職していて、「おまえは甘い」、「社会のことを何もわかっていない」などと指摘されたんです。そこで、何とか就職しようと、学生に混じって就活イベントなどに行き、面接を受けまくった結果、合格したのが営業の仕事でした。その会社では3ヵ月ほど働いたのですが、以前から興味のあったメンタルトレーニングの仕事がどうしてもやりたくなり、独立しました。

メンタルについて勉強しようと、スクールにも通ったのですが、どうもピンと来るものがなく、フリーのトレーナーとしてスタートを切りました。当初は、いま思えば恥ずかしい営業資料で説明していたものです(笑)。

最初の半年ほどは相手にもされませんでしたが、前の会社でお付き合いしていたスポーツクラブからメンタルトレーニングの相談が来るなど、徐々に浸透していきました。

そうしてフリーで1年やった頃、私1人では手が回らなくなり、もっと影響力を高めたいと思ってリコレクトを立ち上げました。これからはトレーナーとしてよりも、経営者としての仕事を増やしていきたい。メンタルトレーニングだけでなく、事業の幅も広げていきたいと思っています。

プライベートの充実も大きなテーマです。サッカーをやっていた頃は、100%サッカーに打ち込もうと思っていましたが、実際はサッカーに依存していただけでした。自分が力を発揮できるのは、プライベートが充実しているからこそと、いまは思っています。気持ちのうえではプライベートが9、仕事が1くらいの割合でしょうか(笑)。

個人としてやりたいことはだいぶ達成できました
いまは会社が認められることのほうが嬉しいですね

ー 海外でのご経験が、いまの事業や経営の考え方に大きく影響しているように見えます。経営者は、自らのメンタルのコントロールも大事ですね。
仕事を始めてしばらくは、自分が認められていくことが嬉しかったのですが、個人としてやりたいことはだいぶ達成できましたので、いまは会社が認められることのほうが嬉しいですね。企業として世界に受け入れられるような、素晴らしいサービスを開発したいと思っています。

会社を設立してから3年ほどは苦労しました。社員は2人でしたが、自由な会社にしたいと思い、出社などは自由にさせていたんです。ヨーロッパでサッカーをやっていた頃のような雰囲気の会社にしようと思ったのですが、そのうち社員が会社に来なくなった。でもルールを決めたら、今度は反発されてしまいます。そのような状況ですから、売上も上がらず、社員に給与を払うためにアルバイトをしようと考えたこともあります。このように、最初こそ試行錯誤を重ねましたが、その後は順調に来ています。

設立時から意識していたのはブランディングです。最初は「リトレーニング」という名称にしましたが、あまり響かなかったので、「OKラインメンタルトレーニング」にしました。そのために、収入にならない仕事もしてきましたが、いまはきちんと収入を得ながらブランディングができています。そのうえで、メディアとのつながりなども考えてやってきました。

社員も、当社のサービスを受けて共感した人たちが集まってきています。その1人が、2013 ミス・ユニバース・ジャパンのファイナリストです。彼女は、日本大会前のメンタル講習でOKラインメンタルトレーニングに影響を受け、大会後にリコレクトメンタルスクールへ理論を学びに来ました。その後、彼女の強い希望で社員として迎えることになりました。そのほか、サッカーのスペイン女子リーグ初の日本人としてプレーした選手や、元プロフットサル選手など、当社が長期間サポートしてきたアスリートも入社しています。当社に興味を持つ人が増えているのも、ブランディングがうまくいった結果でしょう。
ー メンタルトレーニングは、日本ではまだ新しい領域で、これから一般の方々に広がっていくのでしょう。現在、どのようなサービスをお考えですか。
最近、「+ ( プラス ) メンタル」というサービスを開始しました。これは、メンタルトレーニングに何か1つを加えていくものです。たとえば、親子でフットサルをしながらメンタルトレーニングを行う「フットサル+メンタル」や、ダンスを通して親子のコミュニケーションを図る「ダンス+メンタル」などがあります。夏には、「キャンプ+メンタル」も計画しています。テーマは親子のコミュニケーション、子どもの自立、恥ずかしがりの克服などです。

そのほか、学生の就職活動をテーマにすることもあります。チームで活動してもらい、自己満足に走るのでなく、チームのために何をするかを意識してもらいます。そのほうが、結果的に自身の力を発揮できることが多いのです。ゲームの要素なども取り入れたりしますが、こうした手法は企業研修などでも効果的です。

また、中小企業大学校の後継者研修では、1年間かけて経営の後継者に研修を行うプログラムの中で、メンタルトレーナーとして面談などを担当しました。プライベートの話なども含め、心の状態をいろいろと話してもらうことで、自分と向き合うことを促します。このように、組織の中でメンタルトレーニングを促進させるためのサポートをする機会が増えていますが、組織システムを機能させるためにも、メンタル的な対応が重視されるようになりました。

背景には、うつ病やメンタル不全の人が増えているという、企業側の悩みもあるようです。新たな仕組みを取り入れる企業も増えていますが、それぞれの企業文化をベースとしてやっていくことが大事です。私は、文化がしっかりとしていれば、メンタル不全にはなりにくいと考えています。

そのような企業文化を明確化して、定着させるサービスも行っています。そうすると、個人の動機づけや自信、人間関係などに向上が見られます。パワハラを防止する目的での依頼もあります。パワハラは、本人が自覚していないケースも多いのですが、自身を振り返ることで気づいたりする。こうした場合には、メンタルトレーニングの技法が有効なのです。

私の中で埋まっていない不足感は、「世界で結果を出すこと」
それを埋めることが、私にとっての挑戦です

— 最後に、森川さんにとっての挑戦とは。
メイドインジャパンのOKラインメンタルトレーニングを、世界に広げることです。ヨーロッパに対するコンプレックスがあるのかもしれませんね(笑)。これまでは何でも1人でやることが多かったのですが、皆で挑戦するのは楽しい。モチベーションは、自分の中の不足感から作られるものだったりもしますが、私の中で埋まっていない不足感は、「世界で結果を出すこと」です。それを埋めることが、私にとっての挑戦です。

株式会社リコレクト DATA

設立:2008年7月4日、資本金:500万円、事業内容:アスリート専門メンタルサポート、リコレクトメンタルスクール、こどもメンタルトレーニング、ストレス相談サポート、企業メンタルサポート
目からウロコ
私は、物事に取り組むにはポジティブシンキングが大事だと考え、心にネガティブな感情が現れたら、頭の中をポジティブへ切り替えるようにしていた。そのやり方になじんでいたので、森川さんが提唱するネガティブシンキングの勧めは、とても新鮮に思えた。自分の感情はネガティブだと自覚しつつも、しっかりと行動につなげて結果を出し、自信を深めていくことはたしかに実践的だし、誰もがそうやって問題解決をしている。俊敏な行動が求められる現代社会で、いちいち思いを切り替えるのは難しいだろう。ネガティブを受け止め、かつ力強く行動する習慣は、有効な処世術と言える。ポジとネガの使い分けが理想だ。

もう1つ、森川流の基軸となる考え方が、OK ラインの設定だ。ビジネスにおいて結果を出すことは大事だが、ストイックに頑張り続けることだけがやり方ではない。多くの企業は、できるだけ高い目標を置いて努力するという、ストレッチゴールの考え方で業績を拡大している。私も若手ビジネスマン時代には、そのような考え方をたたき込まれた。こうしたプレッシャー型マネジメントは、過去の遺物なのだろうか。メンタルヘルスの問題は近年、企業経営にとって避けて通れない大きなリスクとなった。それでも企業は、株主のために高い業績を上げ続ける義務がある。その中で個人が壊れてしまわないよう、メンタルトレーニングのニーズは高まるだろう。森川さんが海外に飛躍する日は近い。
(原 正紀)

この記事を共有する

コメントは締め切りました