2016‐02経営者153_ファースト・コラボレーション_武樋様

「社員が主役、会社はステージ」
全員参加型経営で会社を伸ばす
サーバントリーダー

株式会社ファースト・コラボレーション 代表取締役社長

武樋 泰臣さん

高知県出身。高校卒業後に、安定就職先として自衛隊を選ぶが、組織風土になじめずに2年で除隊。その後、理想の職場を求めて転職を10回以上くり返す。高知に戻って始めた不動産営業が性に合い、理想の会社を創るために起業。社員の起案で、顧客満足のランキングを行っていた賃貸仲介業・エイブルの加盟店となり、顧客満足度日本一を目指して見事、3年連続通算4度目の受賞。引き継いだ以前の会社の風土を引きずり、当初は苦労したものの、改革のために経営理念を社員全員で策定し、女性活躍促進のための「働くママさん計画」などにも取り組む。従業員満足を高め、顧客満足へつなげる経営で業態を拡大するサーバントリーダーに話を聞いた。
Profile
高校卒業後、自衛隊に入隊。その後、多数の仕事を経て、不動産業で理想の会社を創るために起業。賃貸仲介業・エイブルの加盟店となり、店舗および個人の顧客満足度で日本一に輝く。社員を主役とする組織づくりに注力して、ダイバーシティ経営やおもてなし経営としても表彰され、賃貸仲介以外にも業態を拡大中。

顧客満足度の全国ランキングで1・2位を独占

— 顧客満足度が非常に高いと伺っていますが、事業の現状について教えてください。
不動産賃貸のエイブルのフランチャイズ加盟店を4店舗経営していますが、ずっと増収が続いており、赤字になったことはありません。エイブルでは毎年、顧客満足度調査を行っており、そのアンケートをもとに全国ランキングを発表していますが、当社は店舗部門では3年連続4度目のNo1を獲得し、特に今回は全国1・2位独占でした。

売上規模ではなかなか都会の店舗に勝てませんが、顧客満足度の全国ランキングがあることがエイブルの魅力です。自分たちの置かれているポジションがわかりますからね。最初は、社員がエイブルのフランチャイズへの加盟を提案してきたのですが、「それはいい。日本一を目指そう」ということで加盟することにしました。

その提案をした女性社員は、個人としても有言実行で全国1位を取りました。しかも、2年連続です。そのこともあって、会社の女性活用のイメージも広がりました。

ですから、当社は女性活用で知られるようになりましたが、私自身が特別に意識して活用してきたわけではないんです。若手女性は非常にしっかりとしていますので、男性の採用やリーダーシップの養成がいまのテーマと言えます。

男性と女性では、伸び方が違うと思うんです。一般的に女性は、若い頃から器用でコミュニケーション力が高いため、すぐに戦力になりますが、その後に生活面などの壁にぶつかることも多いものです。一方で男性は、どちらかというと若い頃は不器用で、最初はいろいろと苦労しますが、すぐにではなくても後から伸びてきます。

若手の女性社員が頑張って、若手の男性社員を引っ張ってくれる。そのうちに男性社員が育ってきますが、その頃になると、女性社員の中には結婚や出産で一時離職する人も出てきます。その間は男性社員が組織を引っ張り、職場復帰した女性社員の力を得て、より強い会社になっていく。そんな流れをイメージしています。
— なるほど、大変うなずける組織論ですね。私も実感としてそのように感じています。特に中小企業は、そのような図式になりがちですね。
顧客満足度調査では個人のアンケートの集計結果が店舗の評価となりますので、個人単位と店舗単位での成果が表されます。当社の強みは、個人だけでなく、チームで接客する点です。店舗単位のチームが協働で顧客と向かい合い、お互いに高め合っています。いまの若手の風潮として、そのようなチーム意識が強いように感じます。
私が営業だった頃は、できるだけ早くお客様に決めてもらうという商売のクロージングを意識して向かい合ったものですが、いまはお客様と一緒になり、同じ目線で物件探しを行う。「営業」と「お客様」という距離感ではなくなっているようです。また、そういった人ほどお客様からの満足度が高く、評価されていて業績も良い。

こうしたことを先輩から教わったり、自分で考えたりしながら、自然と皆ができている。こちらが一生懸命に教えようとしても、そのことの重要性に本人が気づかないと結局はできないものです。その根幹になるのは会社の理念で、それが浸透しているからこそだと思います。新しいメンバーを迎える採用の場面では、こうした会社の風土がマッチするかどうかを見極めて決めています。
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強みは社員1人ひとりがお客様と向き合う現場力

— 業績だけでなく、さまざまな賞で表彰もされていますね。どのような点が評価されているのでしょうか。
ありがたいことに最近、さまざまな表彰を受けることができました。日本でいちばん大切にしたい会社大賞、おもてなし経営企業選出、ダイバーシティ経営企業選出、などです。

いちばん大切にしたい会社大賞では顧客満足度や従業員満足度の高さ、おもてなし経営企業では社員がワクワク仕事をしていること、ダイバーシティ経営企業では女性の活用、などが評価されたようです。それぞれ評価されているのは社員で、社長が評価されているわけではありません(笑)。

現在、不動産賃貸事業のほかに新事業として、不動産売買仲介のERAのフランチャイズ1店舗と直営の管理センターを1ヵ所運営し始めており、工事やメンテナンスなどを行っています。良い組織ができてきましたので、どのような事業を行っても実績を上げる自信があります。会社が伸びている理由をよく聞かれますが、当社の強みは社員1人ひとりがお客様と向き合う現場力です。組織として統制をとった活動というよりも、1対1で向き合う現場の力が強い。

当社は役職などのないフラットな組織で、チームワークやコミュニケーションを大事にしてきました。これまでの体験からピラミッド型の組織が嫌いで、階層を作りたくなかったんですね(笑)。役職を導入したこともありますが、それが重荷になったり、とらわれすぎてギクシャクしたりしたこともありました。

大事なのは、社員がのびのびと、ワクワクするような仕事をすることです。組織が大きくなってきましたので、階層別の組織づくりも想定していますが、これからは変なこだわりを持たず、会社の状態に合わせて最適な組織を作りたいですね。競争やマーケットシェアなどが関係なければ、フラットな組織でいきたいところですが、若手の社員も増えてきて、事業の過渡期かもしれません。

個人の幸せの延長に会社の未来がある

— 女性活用や採用について、もう少し詳しくお聞かせください。
女性活用については先ほども申し上げましたが、自然にそうなってきたんです。あるとき、子育てで辞めてしまう人が3人ほど続いたのですが、その中に「辞めたくない」と泣きながら辞めていった人がいまして。それまでは私も、出産して女性が会社を辞めることは当たり前だと思っていたのですが、もっと長く勤めてもらうほうが良いのではないかと考えました。

そこで、まずは女性同士でその課題や解決策を話し合ってもらいました。その後、私や周りの男性社員も理解を深めて、ともに解決策を考えるようになったんです。それを「働くママさん計画」と名づけ、いくつかの施策を決めました。いまでは、結婚や出産などの計画を社員が自主的にオープンにし、会社とも共有するようになっています。

それによって、個人にも会社にも最適な人員配置ができるようにしました。産休・育休からの復帰後には勤務時間や勤務地を選べるようにしたほか、親子出勤、昼寝、子守りの依頼、必要に応じた外出などを認める制度も作りました。こうして、会社と個人が情報を共有する風土と働きやすい制度により、女性の活躍を推進できました。

採用は新卒が主体ですが、当社の仕事を体験してもらうために、インターンシップを重視しています。興味を持ってくれた学生には会社に来てもらい、2~4時間程度の座談会に参加してもらいます。社員と複数の学生がいろいろと話をする形で、経営者からミドル・若手までの幅広い社員と接してもらい、本音で話す場としています。

学生には、これまでの人生や未来の計画を表にし、仕事や家族のことなども入れて、時間軸で未来予想図を仕上げてもらいます。なかなか埋まらないこともありますが、とにかく考えてもらうことを求めます。それを発表してもらい、意見交換をしながら、その学生のことを皆で理解していくのです。社員たちは、毎年1回の合宿で同じく未来やこれまでのことを共有していますので、そのやり方に慣れているんですね。

当社は、社員がお互いに理解し合うことを大事に考え、会社の発展と個人の幸せを重ねて目指すことを理念としています。個人の幸せの延長に会社の未来がある、という考えです。当社では毎年、数名の新卒採用を10年近く続けてきましたが、これまでに辞めたのは2人だけです。
— そのような会社を創ろうという思いに行き着くまでのキャリアをお聞かせください。
18歳のとき、大学への進学を家庭の事情であきらめ、できるだけ大きく安定した所に就職してほしいという親の気持ちに応える形で、海上自衛隊を選びました。しかし、そこでの生活は、日常の行動も1分単位で決められるほど厳しく窮屈感があり、役職登用など先のことも見えてしまったため、もっと自由に自分の人生をデザインしたいと2年ほどで除隊しました。

当時は広島県呉市にいたのですが、親に除隊したことを言いづらく、地元の高知に帰れなかったため、知人のつてをたどって兵庫へ行きました。退職金はわずか7万円で、ホテルに泊まりながら仕事を探し、フルコミッションの歩合セールスの仕事に就きました。そして、とにかくお金を稼ごうと、家庭向け教材の訪問販売を1年半ほど続けましたが、だんだん面白くなくなってきたんです。

その後は次々に職を変え、10ヵ所ほど転職をしました。大阪新地のクラブの店長や街角でのビラ配り、泥んこレスリングのレフェリーもやりました(笑)。そんな折、母が呼んでくれたこともあって、25歳で高知に戻ることにします。

母が作ったお弁当を売る弁当屋を開業し、朝から晩まで働き詰めでしたので、そこそこ儲かりました。しかし、非常に大変だったため、弁当屋を売却し、食堂経営をしながら友人のオーナーの誘いを受けて、スナックを手伝うようになりました。

そのスナックは従業員の仲が非常に良く、その延長でお客様との仲も深まり、県内一と言えるような繁盛店になりました。社員同士が仲良くなり、良い空気感ができるとお客様も来てくれるというそのときの成功体験が、いまの仕事の原点になっています。

その後、28歳での結婚を機に、不動屋に勤めることにしました。仕事はとても面白く、のめり込みましたが、歩合制だったことから競争意識が強く、仲間との関係はあまり良くありませんでした。営業への違和感はありませんでしたが、5年間働いても社内の雰囲気が良くならず、お客様に対するスタンスにも疑問を感じていました。
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結局、その会社はつぶれてしまい、私は先輩が1人でやっていた会社で、フルコミッションで働くことになりました。その頃から、いつかは独立して自分の納得できる不動産会社を創りたいと思っていましたね。そして40歳のとき、赤字部門の賃貸仲介を引き継ぎ、さらに別の方からも1店舗を引き継いで賃貸仲介事業を始めました。

とは言え、賃貸仲介で儲けるのは難しく、創業してすぐに給料が払えないような状態になってしまいましたので、交渉して賃貸以外も任せてもらう代わりに、利益の一定比率を渡すことになりました。最初はそれが近道だと思って事業を継続したのですが、結果的には重荷になってしまいましたね。最初の10年ほどは、出資者の要求と、社員にできるだけ多くの給料を払いたいという思いの間で葛藤の連続でした。
— 不動産業に出会うまでは目まぐるしい展開でしたが、反面教師としても含め、経験を活かされていますね。
中小企業家同友会の勉強会で、経営理念や顧客満足・社員満足の大事さを知り、経営理念づくりを手がけました。組織のベクトル合わせをしなければどうにもならないと思い、8ヵ月ほどかけて全社員で作ったのです。皆で作った理念ということで発表会を行ってスタートしましたが、これがいまの会社の形ができる第一歩でした。

社員皆で作りましたので、理念はすんなりと受け入れられたのですが、時間が経つと、たとえば理念の「互いの個性を活かし合う」という部分の解釈が個人によってずれてくるなど、ギクシャクし始めます。そのため、意味づけなどについては、話し合いとすり合わせをくり返し行いました。

採用活動の際、社員たちが学生に対し、自身の体験を通じて理念を話してくれるようになったのを見て、ようやく伝わったなと思いましたね。その後、評価制度や就業規則なども社員皆で作りましたが、法律的に難しいものもあったため、最終的には社労士と相談して決めました。当社の社員は、本当に会社のことを考えてくれていて、最初の段階では残業手当なども法定基準より低めだったりしたんです(笑)。

ピラミッド型の組織には、上位からの指示命令という官僚型で窮屈なイメージがあったため、フラットな組織を創り上げましたが、「役職があったほうが良い」という意見は常にありました。今後、皆でもっと話し合い、近い将来にまた設定してみようかと思っています。

フラットであることの良さを保ちつつ、個人とその成長のために役職づくりに挑戦したい。大事にしたいのは役職の有無ではなく、個人が幸せを感じながら仕事ができるかどうかですから。

仕事を通じて皆が幸せになれるような会社経営を

ー 会社は発展段階に応じて組織や風土を変え、人を活かすことが必要ですね。今後の展開はどのようにお考えですか。
トップの役割は理念の実現に向けて旗を振ることと、社員の可能性を最大限に活かすサポートをすることだと考えています。皆が気づいていないことや、潜在的な課題を伝えることも大事ですね。

引き続き、仕事を通じて皆が幸せになれるように会社を経営していきます。女性も男性も、家庭で子育てなどの役割が終わると、夫婦2人になって働き方が変わってくるもの。そのような個人の幸せを支えるのが会社であり、経営者でしょう。

私の幸せは、お金を追求することではありません。これまで多くの職業に就きながら、自身が没頭できる仕事を探してきた結果、引っ越しを十数回経験しましたので、人の住む家を探すいまの仕事はとてもやりがいがあります。仕事に一生懸命に取り組むことが幸せにつながることを、社員にも体感してもらいたい。使命感や生きがいまで感じられる仕事の場を創りたいと思います。

私にとっては、社員が主役の組織が理想で、現場がいきいきと頑張っている姿が一番好きなんです。会社は、社員の活躍を支えるステージですね。

これからも目指したいのは、お客様や仲間との親密性を何よりも大事にする当社らしさの発揮で、それをとことんまで高めたい。それによって事業範囲は自然と広がってくるでしょうが、他の事業でも十分にやっていけます。売上を伸ばすために出店をしたり、事業を広げるために他地域へ行ったりするのではなく、当社の強みを磨き、理念を追求することを中心に経営をしていきます。

数字的な目標ばかりを追い求めると、本質的にやるべきことがおろそかになりますので、目の前のお客様と誠心誠意、向き合うことが大事です。「目標を考えるな、数字を追うな」と伝えたほうが、理念の実現につながると思います。

トップのメッセージは重要ですね。メッセージを明確に打ち出したときのほうが、結果にもつながっています。顧客満足度も「1位を目指す」と明言したときは取れましたが、そのメッセージが弱かった時期は3位にとどまったりしていました。

自分自身の改革が最大の挑戦

ー 最後に、武樋社長にとっての挑戦とは。
自分自身の改革が最大の挑戦ですね。自分の器を磨き、信念を貫いていきたい。

人に影響を与える立場だと思いますので、常に自分を高めていかなければなりません。社員から「社長、成長していますね」と言われたこともありますよ。どうして上から目線なんだ、と思いましたが(笑)。謙虚さが身についたとか、自分とは異なる意見も受け入れられるようになったとか、そういった部分は社員からもよく見られていますね。出来の悪い父親のようなものでしょうか(笑)。
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目からウロコ
若い頃に職を転々とした武樋社長は、その経験を見事プラスに転換させている。同社の成長・発展の要因は、従業員満足を高め続ける風土と制度づくりが効果を発揮していることだが、そのコアになるのが武樋社長の強い思いだ。社員にとって働きやすい職場を創りたいという一念は、武樋社長がさまざまな職場で、良い雰囲気で働きたいという願望を持ちながらも裏切られ続け、会社の衰退を見てきた経験から生み出された独自の真理と言える。

武樋社長の起業は、自身の働いていた不動産会社から、賃貸仲介という採算性が良いとは言えない部門を引き継いだもの。理想の風土からはほど遠い、業績至上のギスギスとした雰囲気の中での苦しいスタートだった。そこで、自らの思いを言語化するために理念策定・浸透から風土改革へと乗り出すが、常に社員とともに創り上げる姿勢を貫き、その後の就業規則や、女性活躍促進の「働くママさん計画」などの制度づくりもすべて社員の主体性に委ねている。

このように強い思いを持ち、社員の幸せを支援してくれるサーバント(奉仕型)リーダーに対し、社員たちは必然的に顧客への努力で報いようとする。それが顧客満足につながり、業績として会社に還元され、社員への支援もさらに強まっていく。好循環のサイクルを生み出し、社員を支え続ける経営は、若き日からの苦労の果てにたどり着いた経営の黄金パターンと言えるのではないだろうか。
(原 正紀)

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