2018‐02経営者177_エンファクトリー_加藤様

専業禁止の人材ポリシーでスモールビジネスを支援
「生きるを、デザイン」する経営者

株式会社エンファクトリー 代表取締役社長

加藤 健太さん

リクルート社にて、管理業務や資本政策等に携わり経営のリスクを実感。オールアバウト社の立ち上げに参加し、CFOとしてIPOを成し遂げた。2011年にエンファクトリー社を設立。ローカルプレナーの自己実現支援を事業化し、社内では専業禁止の人事ポリシーを打ち出した。かかわる人々の「生きるを、デザイン」を使命として活動する経営者に話を聞いた。
Profile
名古屋大学卒業後、株式会社リクルートに入社し、管理部門で仕事を網羅的に経験。株式会社オールアバウトの創業メンバーとしてCFOに就任し、株式公開を実現。2011年、株式会社エンファクトリーを分社し、代表取締役社長に就任する。ローカルプレナーのための自己実現ターミナルの創造を目指す。

ローカルプレナーとは自己実現をめざす新しい働き方

— 「専業禁止」という人材ポリシーが話題ですが、まず現状のビジネスをお聞かせください。
一言でいうと、私たちがやっていることはローカルプレナーのサポートです。これは造語で、アントレプレナーでは仰々しいので、「ローカルプレナー」と呼んでいます。

独立・起業して、資金調達して、会社を大きくして、世界に出ていく……というと、ハードルが高そうですよね。でも、そうではなくて、自分の人脈やスキルを生かして、やりたいことをやる。そういう視点でショップを開いたり、専門家になって何かしらの事業を始めたりする。
 
つまり、ローカルプレナーとは、専門家やフリーランス、つくり手はもちろんのこと、企業に勤めながらパラレルワークやNPO・ボランティアなどを通じ、自己実現に向けて自ら生活や、働き方や生き方をデザインし、実行する人々を総称する造語なのです。
 
働き方・考え方が多様化してきている時代の中で、そのような仰々しくない事業を立ち上げようという人たちのことです。複業で一緒に何かをやる、といったケースもあります。
 
ローカルプレナーが今、どんどん増えていますが、そういう価値観の時代が来ているのだと思います。インターネットやテクノロジーの発展でハードルが下がっており、今後もますます増えてくるでしょう。そこを私たちのドメイン(事業領域)として事業を進めています。
— どのような方々に、どのようなサービスを提供しているのでしょうか。

お客さんはスモールビジネスをしている人たちがほとんどです。会社の方針として専業禁止をうたって、社員に機会提供をしているのも、社員にとって職場であるエンファクトリーという会社は、1つのプラットフォームにすぎないと考えているからです。社員もそのプラットフォームを活用するローカルプレナーの1人という位置づけをしています。 

実際の事業としては、ローカルプレナーの人たちにマーケティングのお手伝いをしているのがメインで、さらにソーシングの支援も行っています。スモールビジネスの人たちは、資金をはじめスキル、知見、社会的信用、人脈などの資本が限られるので、その調達の支援をするということです。
ー たしかに、フリーランスの方々が増えていて、そのサポート市場は広がっていますね。具体的な事業を教えて下さい。
私たちの事業の柱は、3つあります。

1つ目は、Eコマース(EC)の「スタイルストア」です。インテリアをはじめ、暮らしにかかわる選りすぐりの9,700以上のアイテムを、個性的かつ想いの強い、さまざまな人たちが紹介することで、皆が自分のモノにこだわって、自分だけのスタイルにもっと気軽に、気楽に出会えるような、そんなお手伝いをしているお店です。
 
全国累計で約3,000社のつくり手がいて、常に約500社と取引があります。10年以上も各地方のつくり手さんと連携し、販売を続けています。商売自体は地道に伸びている感じですが、昔からやっているので意外とプレゼンスがありますね(笑)。
 
自治体などからも手伝ってくれとか、つくり手さんの支援をしてくれとか、さまざまな依頼が来ます。2017年だけで見ても経産省、中小企業基盤整備機構、佐賀県、東京・台東区などから地域振興の依頼がありました。
 
ただし、ベースになっているのは、そのようなBtoBのビジネスではなく、あくまでも実際にモノを売っているところです。リアルショップもやっていますが、基本はECです。このスタイルストアや専門家プロファイルといった事業は、オールアバウト社の時からやっていることで、分社した2011年以来、ずっと続けています。
 
オールアバウト社では、「ガイド」と呼ばれる各種テーマにおける専門性を持った人たちの知見をコンテンツにして、そこに集まる人たちに広告を展開しています。私たちが、スモールビジネスや専門家の人たちを直接、お客さんにつなげるビジネスです。モノづくりの人たちへの支援だったら、私たちがそのモノを売るということです。
 
2つ目は、専門家プラットフォーム事業です。プロマッチングとして、多様なジャンルの専門家の皆さんのPRのお手伝いをしています。展開しているジャンルは、マネー、不動産、人材、教育、法律、趣味などと幅広く、これまで累計で支援したプロの人数は4,000名を超えます。
 
これはユーザーに直接つなぐもので、BtoB、BtoCにかかわらず行っています。さらにBtoBのお客さんに対して、プロが隙間時間を使って指南する顧問派遣のようなこともしています。
 
3つ目は、これまでに培ったWeb開発力を生かしたECの仕組みや、サイトの開発などを行うクリエイティブ事業です。当社の内部に開発エンジニアやデザイナーがいますので、当社事業内部だけではなく、外部の開発のお手伝いもしています。私たちのコンセプトは、社員も含めて人の「生きるを、デザイン」するということです。

「専業禁止」で自立と成長の機会を提供する

ー 専業禁止などの人事組織制度について教えてください。
2011年4月にオールアバウト社からスピンオフしたときから、「専業禁止」というキーワードを掲げています。
 
狙いを簡単にいうと、機会提供です。個人が自立して働く時代を迎えている中で、「やりたい人はやればいいじゃん」という発想から始まりました。キーワード的に「複業可」では面白くないので、「専業禁止」という言葉にしました(笑)。
 
よく複業が前面に出されますが、それは1つの手段でしかありません。昭和から平成にかけて、環境が成熟し、選択肢の幅が増え、テクノロジーも進化してきて、個人でやれることのハードルが下がり、何でも参加できるようになりました。
 
昭和の頃は、多少は失敗したとしても、成長の波に乗ることができた。レールに乗って、そのまま課長になって、部長になって、退職金や年金をもらって……といった真面目に働いていればよい、といった時代でした。
 
ところが、平成になると、ダメな企業は潰れてしまう。私たちはそういう時代の真っただ中にいるんです。リクルート社に勤めていた時、財務、経理、経営企画、人事、事業企画などスタッフ系の部署にずっといました。リクルート事件の後始末などをしながら、大きな会社こそ危ないと思うようなことを、目の当たりにしてきました。
 
平成になって機会は増大していますが、リスクも同じ分あります。企業の存続リスク、AIなどによる単純労働の減少、給料は二極化して低い人はずっと低い。公的年金も制度疲労になっている。退職金制度もなくなってきています。
 
その一方で、支出はどんどん増えている。人は100年生きるといわれる時代を迎え、年金や医療費などの社会コストは増え、先行きは不透明です。個人が自分で自身の将来を考えなきゃいけない、自分で舵取りすることが大事になっている時代です。
 
そのためには自分が何に向いているか、まずは気づくことが大事であり、そういう機会をちゃんと提供しようと私たちは考えています。新卒採用の説明会のときから同じことを話しています。
— 実際に「専業禁止」の制度を進めてみて、いかがですか。
現在は社員30人ですが、10人強がパラレルワークをやっています。実際にやってみると、ビジネスの難しさ、大変さがよくわかる。自分ごとでやってみると、ビジネスパーソンとしての目線がグッと上がります。セルフマネジメントができない人には、やはり複業はできません。
 
当社の給料よりも稼いでいる人は、役員やリーダークラスの人たちに多いです。この会社じゃなくても自分で生きていけるといった、良い意味での覚悟があるため、管理職になっても指示待ち的なことはなくなります。
 
ルールはたった1つ、副業についてオープンにするということ。コソコソやらないことです(笑)。当社では半年に1回、皆の前で発表会をやります。自分が何をやっていて、今はどれくらい稼いでいて、今後はどういうことをやっていきたいか、という自身の思いを発表してもらいます。
 
そうすることで、社員の副業に対する懸念は、ほぼ払拭されます。経営者が心配するような、「会社の仕事に身が入らないんじゃないか」、「情報漏洩するのではないか」といった懸念が、社員が副業についてオープンにすることで払拭されるんです。
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会社のほうも応援しようという雰囲気になり、提案したり相談に乗ったりするようになる。同時に、副業をやっているほうも、正業も副業もサボれないし、ちゃんとやらなければカッコ悪いから一生懸命やるという、正の循環のようなものも生まれます。成果とミッションをしっかりと見て評価していくことが大事だと思います。
 
いわば、ビジネスの疑似オープンイノベーションのようなイメージなんですよ。パラレルワークの人たちは、軸足は会社の中にあるのだけれど、外に活動が広がっていく。触手が外に広がっているため、タコツボ化しない。
 
優秀な人は、フェローという形で複業が練習台になって、これまで何人も起業しています。会社はそこと連携することで、新たに事業や案件がたくさん入ってくるんです。

プロが集まったほうが会社の収益も上がる

ー まさに働き方改革ですね。ただ、まだあまり事例はないのでは?
可視化されていないだけで、こうした取り組みをしている企業は結構、見受けられます。

「副業を認めた結果、優秀な人材が会社を辞めてしまったら困る」と心配する声もありますが、人的資産が中にいてノウハウを持つ状態から、外での関係性の資産に代わるだけです。一方で中のポジションが空くので、若手がそのポジションに就いて、飛躍的に伸びます。
 
たとえば、当社の副社長は28歳のときに就任しているほどです。若くても背伸びしたポジションに就いて、成長機会を得ることができています。
 
また、起業してうまくいかず、当社に戻ってきてWebディレクターをやっている人もいます。私は人的資産や関係性の資産を、一緒に事業をやるとか、出戻りOKとか、ゆるやかな同心円上のリソースとして捉えています。
 
昔と違って、人的資産は企業価値の大部分を占めるものになっています。昭和の時代は、工場を持って大量生産を行うことができる会社が強かったのですが、今の時代、世界の時価総額トップ10で工場を持っているところはほとんどありません。人的資産をどうマネジメントしていくかが、企業価値の増大に深く関連します。
 
人材が自立していれば会社でも活躍できるし、自分でも何かできる。会社としても自立したプロが集まったほうが、楽しくて良い職場になり、収益も上がるのです。
— 加藤さんご自身のキャリアについてお聞かせください。
リクルートが新入社員を毎年1,000人を採用していた時代に、私は新卒で入社しました。事業の統括を含めた管理部門であらゆる業務に携わりましたので、会社の仕組みや裏側を知ることができました。
リクルートに勤めて10年くらい経った頃から、事業を経験したいと思うようになりました。さまざまな経緯で声をかけられたのがリクルートと米国About.comの合弁会社であるオールアバウト社でした。私は最初からCFOでしたが、スタートメンバーは7人ほどで、皆がリクルートからの出向組でした。
 
2000年当時は、インターネットの世界でもバブルがはじけて、事業環境は大変に厳しい状態でした。しかし、2005年にはIPO(株式公開)を行うことができました。オールアバウトでは、経営の実践をやらせてもらいました。今のエンファクトリーは、私にとっては自己実現期です。自分の思い描く考え方を、具現化していく時期だと思っています。
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フリーランサーをチームとして組織化する

— 自己実現期にあたって、さらに新たなサービスを始められたそうですね。
はい、2017年5月からフリーランスやパラレルワーカーがチームを組みプロジェクトに参加できる、新しい働き方を支援するためのプラットホームを「チームランサー」と名づけて、フリーランサーの組織化を始めています。
 
一般的に、企業にはさまざまな資産があるし、安定度や信頼度も高い。しかし、社員は、役割とか、異動とか、部署とか、そういった組織の事情にどうしても翻弄されてしまうため、企業のことを自分ごととして捉える意識が希薄になりやすい傾向にあります。出来上がっているものに乗っかっていれば、放っておいても企業は動いていく、といった感じになってしまいがちです。
 
一方で、フリーランサーになったものの、再び組織に戻ってくる人もかなりの数で存在します。フリーランサーは自由度があると同時に、仕事が細分化されて付き合う人が限られてしまいやすい傾向にあります。広がりがなく、新しい発見や学びの機会が少ないと感じる方も多いようです。
 
そこで、フリーランスやパラレルワーカー、個人事業主など、会社といった組織に関係なく、オンライン上でチームを結成することができる「チームランサー」を始めました。ミッションやプロジェクトに対して、「こういう人を探している」、「自分はITの開発ができるので任せてほしい」と補完し合いながら、一緒にそれに向かうような新しい組織体、チームのプラットフォームを構築していきます。現在、すでに約50のチーム、約1,000人が登録しています。
 
また、企業もこのプラットフォームにプロジェクトを乗せていくことができます。私たち自身のプロジェクトも3つ乗せており、1,000人の中から適任者を選びました。
 
大企業の中にも、このプロジェクトに乗って、社内外から人を集めて新規事業の開発をやろうというところもあります。

スモールビジネスの活性化に貢献したい

— 最後に、加藤さんにとっての挑戦とは。
今は個人がそれぞれのキャリアを考えていかなきゃいけない時代ですから、その後押しをしていきたい。個人やスモールビジネスをもっと活性化させていくことが、私にとっての挑戦なのかもしれません。現在はまだ小さくて、お金があまり動かないマーケットではありますが、結果が出るまで続けていくことが必要だと感じています。
 
地方活性化など大事なテーマを掲げて、せっかく思いを持って仕事を始めても、それがなかなか続かないというケースをこれまで何度も見てきました。私たちがうまく工夫をして、そこに貢献していくことができれば面白いし、もっと良い社会になっていくのではないでしょうか。スモールビジネスが独り立ちしていくことで、社会のコストが下がり、国も豊かになっていくと思っています。
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目からウロコ
私自身のホームグラウンドは“人材”なので、加藤さんが打ち出した「専業禁止」という言葉には、とてもそそられるものがあった。
 
インタビュー中に「そういう時代になってきた」といった発言が何度かあったが、まったく同感である。個人が自分の生き方を、会社の中だけで閉じて考える閉塞的な時代は、バブルとともにはじけ飛んでしまったと思う。
 
たしかに、「複業可」という言葉では弱く、「専業禁止」というインパクトのある言葉だから強く印象に残る。いやはや、言葉の力は大事だと再認識した。ローカルプレナー、チームランサーなど、加藤さんが生み出してきた言葉は、それぞれ新たなあり方・生き方を象徴している。
 
それは同時に、ビジネス的には新しい市場創造を表す言葉でもある。新しい着眼点、価値観をそのまま言葉にしてビジネスにしているところが、同社の可能性を感じさせるユニークな要素となっている。
 
日本を支えているのは大手企業でも中小企業でもなく、個人企業を中心とする零細企業(スモールビジネス)という見方がある。それが発展して中小企業になり、大手企業になっていくのだ。スモールビジネスがたくさん生まれ育つことで、日本の強みである中小企業の層が厚くなり、大手企業のビジネスが成り立っていく。
 
「専業禁止的なことをしている企業は結構、見受けられる」という言葉があったが、たしかに考えてみたら私の会社でも10人近く複業者がいる。やはり、それが時代の流れなのだろう。
(原 正紀)

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