2016‐01経営者152_デルタマーケティング_平井様

果敢なM&A戦略で
強い事業モデルを創造中
「プロ経営者」を目指す第二創業型の起業家

株式会社デルタマーケティング 代表取締役

平井 健一さん

大阪市立大学卒業後、(株)新京葉リクルート(現・((株)リクルートジョブズ)に入社。求人広告事業において、営業部、編集部、営業企画、コーポレートスタッフ(人事部)など多彩な職務を歴任する。2007年に同社を退職し、かねてより親交のあった(株)第一広栄社(現・((株)デルタマーケティング)の創業者社長から会社を引き継ぎ、代表取締役に。同時に(株)HRIを設立し、同じく代表取締役に就任する。社員18名で引き継ぎ、リーマンショックを経ながらも構造改革を推し進め、積極的なM&Aなどで230名の規模にまで成長させる。現在は、アウトソーシングや派遣などへの事業領域拡大と全国展開を推進中の、「プロ経営者」を目指すリーダーに話を聞いた。
Profile
大学卒業後、人材ビジネス分野にかかわり、営業からスタッフまで多様な職種を経験する。2007年に退職し、知人であった(株)第一広栄社(現・(株)デルタマーケティング)の創業者社長より会社を引き継ぎ、M&Aなどによる拡大路線を走る。その後、18名で引き継いだ会社を230名の規模にまで成長させ、アウトソーシングや派遣に事業を広げ、全国展開を実現して現在に至る。
— M&A戦略でスピード成長をされているそうですが、現在の事業について教えてください。
メインは求人広告の代理店事業で、企業向けの訪問営業活動を行っています。従来は東京を中心に、中堅中小企業向けに営業をしていましたが、大手企業にも提案したいと考え、全国への拠点網を整備しているところです。現在は7カ所に展開中で、チェーン店の本部などに、全国店舗の採用に関するメディアの提案活動を行っています。

通常の採用活動は、店舗ごとに地域の状況に合わせて行いますが、本部が全体の管理をしている場合もよくあります。弊社では、そのようなチェーン店の一括管理に対応するワンストップサービスを9年前から行っていました。採用広告の費用負担は各地の加盟店ですが、データベース化したうえで、本部に対して最適なサービスを行うことで、全国での受注につながります。

弊社では、すでに数十万件の採用データを保有していまして、チェーン店舗採用のノウハウもたまってきています。アルバイト採用などのメディアを主体とし、ターゲット顧客はコンビニ・流通・外食など、とにかく店舗数がたくさんあるところです。現場と直接やりとりをしてその情報を本部に送ると、信頼性が高まります。この手法は、弊社が初めて行ったものです。

事業の2つ目の柱は営業のアウトソーシングで、営業スタッフを派遣する事業と、営業のプロジェクトを請け負う事業を行っています。こちらも顧客は大手企業が多いのですが、弊社の強みとして、短期でのプロジェクトにも対応できることが挙げられます。

この場合、短期間でプロの営業マンを用意しなければなりませんが、それができることが弊社の優位性になっています。また、普段から社内でやっているKPI(Key Performance Indicator)を使った数字によるマネジメントができることも、代理店を本業とする弊社ならではの強みです。数十人規模で受注できる会社はあまりありません。

“お傍感”で顧客企業とかかわり、付加価値を高める

— 営業強化を狙う企業は多いと思われますが、そのサポートをする企業が少ないのでしょうか。
多くの営業マンを抱えなければならないということで、負担に感じる企業が多いのでしょう。弊社は70名ほどの規模で用意できますので、短期集中型のプロジェクトなどにも対応できます。そうした特長から次々と声をかけていただけるようになり、ここ3年ほどは増える一方ですね。

さまざまな商品を扱い、多様な顧客と接することで、弊社の営業力が高まるというメリットもあります。また、若手でもプロジェクトリーダーなどを経験できますので、本人のキャリアパスとしても有効ですし、新卒採用時なども「さまざまな商品を扱うことができて面白そう」というイメージにつながり、採用へのメリットも出ています。さらに、事業領域の拡大につなげることも考えています。

3つ目の柱が派遣領域です。現在は集中的に投資を行い、M&Aなどに積極的に取り組んでいます。代理店事業では、顧客に欠員が出ると声をかけていただけますが、人員が充足されると弊社の役割は終わります。一方、派遣では継続的な取引になりますので、こちらのほうがお客様のお傍にいる感覚が強いですね。

このような“お傍感”で顧客企業とかかわっていると、複合的にさまざまなサービスを提供できるようになります。派遣は長い取引に結びつきやすいですし、現場とのつながりもできますので、提案のチャンスが広がります。多様なサービスを提供することで顧客のコストを抑え、付加価値を高められるモデルになってきました。

このモデルが、弊社とお付き合いいただく価値になると思います。今後は、コールセンターや販促支援のサービスを強化していきたい。異なるモデルの組み合わせに見えるかもしれませんが、コストを効率化し、価値を高められる仕組みです。求人広告の代理店事業を行う弊社は、効率的な採用ができますので、このようなモデルにも取り組むことができるのです。
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ありそうでなかったビジネスモデル

— 代理店の営業力を活かしたアウトソーシングと、顧客基盤を活かした派遣という、シナジー効果のある多角化です。しかも採用に強みがあるだけに、どのモデルも推進しやすいですね。
弊社の顧客にはベンチャー企業も多いのですが、成長企業には営業の課題がたくさんあるものです。新商品を市場に広めるために営業は必要ですが、直接人員を雇うのはコスト的に難しい。そのような企業には商品サービス開発に特化してもらい、我々が営業を担当することで、成長を支援できます。伸びる企業が必要なときにだけ、弊社のパワーを使うことができるのです。

弊社がベンチャー企業の営業やコールセンターなどの販売促進を担うことで、それらの企業のインフラになっていく。自社で商品を持ってはいませんが、インフラを持つことで、代理店営業の発展形ができ上がると考えます。このようなモデルは、ありそうでなかったと思いませんか?(笑)

営業のインフラを作ることは、部隊の整備に多くの時間と手間がかかりますので、とても難しい。でも、代理店営業をやっていますと、商品力だけではない営業をしなければなりませんので、自然と営業力が鍛えられます。代理店営業は商品がはっきりとしていて、短期で結果が出やすいのですが、営業マンがそれを超えたいと思うかどうかが大事ですね。

人に関するニーズのない企業は、ほぼ存在しないはずです。ですから、求人に関するビジネスをしていると、さまざまな企業との接点ができる。求人広告をトリガーに使うと、自社にリソースさえあれば、チャンスが広がっていくのです。これが、多角展開の大きな狙いですね。そのスピードを高めるために、M&Aに注力しています。
— 平井社長は、どのような経緯で独立をされたのですか。
社会人になる前から消去法で、経営者になることを考えていました。私はわがままで、人にコントロールされたくないため、会社勤めが難しいと思ったのです(笑)。社会に出た当初は、実は人と話すのが苦手で、それを克服するために営業の修業をしたほうが良いと思い、営業力が身につく会社を就職先に選びました。入社した新京葉リクルート(現・リクルートジョブズ)では人材系の商品を扱っていましたので、さまざまな経営者と出会うことができました。

その1つが、弊社の前身である第一広栄社の社長との出会いでした。初めてお会いしたのは社長が60歳の頃で、そろそろ引退したいとのお話から、事業承継の形で会社を引き受けることにしたのです。インターネットが主流になって広告のあり方が変化し、従来のやり方では厳しくなることが予想できたため、会社として形があるうちにバトンタッチをしたい、とのご意向でした。

代理店渉外の仕事で知り合い、社長とは気心も知れていましたので、お互いの考えは一致しました。そして経営権―株式の100%を私が買い取り、承継した時点から社長になりました。

このとき、純資産を減らし、簿価を下げて買い取ったのですが、それによって内部留保がなくなり、銀行の信用を失う事態に陥ってしまいます。いま思えば、もっと賢いやり方があったでしょうね(笑)。

2007年に引き継いだ時点で18名だった社員数は現在、230名ほどになりました。数字だけを見ると順調のようですが、なかなか大変な展開で...。当初、BS上のマイナスはありませんでしたが、ビジネスとしては結構傷んでおり、収益性も非常に低く、PLは数年間赤字でした。業界内の激しい価格競争による値引き合戦で、商品によっては仕入額で売っているような状況だったのです。

苦しいときにもチャレンジが大事

— 結果的には事業承継の模範的ケースですが、リーマンショックなどもあった時期ですから、大変だったでしょうね。
引き継いですぐに人を採用し、2008年には社員を40名にしたのですが、直後にリーマンショックがやってきます。業界全体の業績が冷え込み、最悪の状況でしたね。でも、リストラは一切せず、人は自然減少だけでした。当時は、求人系商品の営業が冷え込んでいましたので、他の商品販売を手伝うことになり、そのときに現在の営業のアウトソーシングの原型ができ上がりました。

また、赤字脱却を目指し、人を増やして体制を強化するために、引き継いでからすぐに銀行からの借り入れも行いました。信用を得るために、銀行に呼ばれる前にこちらから月次報告をしたのですが、それが功を奏し、月次の進捗・予実管理がしっかりできていると評価されます。厳しい状況ではありましたが、後から聞くと、「逃げずに返すだろう」と評価され、資金調達ができたようです。

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2009年上期までは赤字だったものの、下期にわずか34万円ですが、ようやく黒字になります。このことで、銀行との約束を果たすことができ、自力で危機を乗り越えた自信も生まれました。

でも、月末にずっと銀行残高を見ているのは、精神的に良くありませんね(笑)。いま思えば、経営者になった直後は、深く考えないままに人を増やすべきではありませんでしたが、最初につまずいたことは、結果的には良かったのではないかと思います。

苦しいときにもチャレンジが大事で、安易にリストラなどをすると後が大変です。投資の必要性を肌で感じましたね。当時の求人市場は66%ダウン、つまり3分の1になってしまう惨状で、倒産企業も続出しました。最低限の体力は保持しておかないと、危機をしのいでも、その後に終わってしまいます。そんなアクセルとブレーキのコントロールができるようになったのも収穫でした。
— 逆風から学ぶことは多いものですが、スタートから濃密な経験をされましたね。M&Aで投資をし、事業を育てる方法を教えてください。
基本的には良い企業を見つけることが大事です。派遣会社でも利益の出ている会社を買収するのですが、そこに我々が関与すれば、もっとうまくいくかどうかを考えます。利益が出るようになりましたので、投資は内部留保資金の一部でしか行っていません。現在は、手元のキャッシュを潤沢にしようとする中で借入額も増えていますが、M&Aの際もキャッシュで即決できますので、交渉では他社よりアドバンテージのある状況です。

株式は100%買い取るようにしています。利益の出ている企業を買収すると、その利点を学ぶことができますね。一方、利益の出ていない企業は、すぐに結果を出さないといけませんのでハードですが、そこにもチャレンジしているところです。

自身の経営のスタートも“落下傘社長”でしたので、その経験が現在のM&Aに役立っています。その点で弊社は、異文化を受け入れることに柔軟な会社です。今後の課題は、経営チームづくりですね。買収した会社に経営者として人を送り込むと、そこでの経験で成長していきます。

現在は、M&A案件をたくさんいただくようになりましたので、知見もたまってきました。積極的に間口を開き、キャッシュを手元に用意していて決断が速いため、オファーが多いのでしょう。

M&A先は結局、直感で決めているかもしれません(笑)。いろいろと検証をしても、結果はあまり変わらないように感じています。でも、買収をして結果的に失敗したことはあまりありませんね。

対象としては、派遣やコールセンターに注目しています。派遣の仕事には職住近接ニーズがあり、都会では時間をかけて通勤もしますが、地方では違います。近所の仕事へのニーズが高いため、狭い範囲でのマッチングが多く、時給での競争があまりない。都会と地方では、ライフスタイルが分かれるようです。弊社の規模では、まだ大都市で大手企業との勝負はできませんが、人口数十万人ほどの都市だとちょうど良く、そのような狭域派遣モデルでやっていきたいと思っています。

M&Aは世界を視野に入れて展開

ー 人材ビジネスには都市型産業のイメージがありますが、これからは地方の時代でしょうか。
地方企業には、ビジネスとして仕組み化されているところが少ない。そういった企業を買収し、仕組み化していくことを狙っています。

地方企業の買収には、拠点展開というメリットもあります。地方といっても、まずは都市度が高い地域での展開を考えており、八王子の派遣会社が買収第1号になりました。目指すところは弊社の持つ営業リソースの提供で、ゆくゆくはBtoB企業のインフラになりたい。

中小企業では、営業などすべてを自前で行うことが難しいため、事業スピードを上げたいときにその外部リソースになりたいと思っています。人を育てるのに時間がかかる営業は、スピードアップが課題ですね。事業スケールを大きくするのは大変ですが、業態を増やすことで適材適所が生まれ、人の育成スピードも上がります。

事業展開のスピードアップを目指し、経営陣を求めてM&Aを行うケースも出てきています。弊社では、M&Aを成長戦略のコアに置いていますが、日本だけでは小さい展開にしかなりませんので、世界を視野に入れています。特に、東南アジアに関しては投資の必要性を感じており、ミャンマーのオフショア開発事業も展開しています。

画像開発をする事業で、作業は現地で行っていますが、日本で技能を取得してから現地に戻って働いてもらうという、ミャンマーの人々のキャリアパスも考えたモデルです。日本に来て技術や資産を蓄え、ミャンマーに戻って現地企業への紹介を行うものです。今年中に現地に会社を設立しますが、マンダレーに日系企業を作るのは弊社が初めてのようです。

これをきっかけに、海外事業をしっかりと伸ばせるようにしたいですね。海外視察をした若手マネジャーたちが大いに刺激を受けていましたが、ミャンマーの人々は、自身の将来像を国内だけでなく、アセアン全体で見ているのです。アセアン市場が伸びる前提で事業を考えるという発想で、国内だけしか見てこなかった私たち日本人には良い勉強になります。

すべての業種業態で結果を出せる「プロ経営者」へ

ー 最後に、平井社長にとっての挑戦とは。
業種業態を超えた価値提供をしていきたいと思います。

たとえば、町のレストランが「新規顧客を獲得していきたい」とコンサルタントに相談をすると、大体の場合は「原価率を下げましょう」とアドバイスをされます。でも、安易にコストを下げると、顧客の満足度を下げてしまいますので、弊社であれば、リソースを活用してリピーターを作ることを支援します。このように、小規模な町のレストランであっても、経営の仕組みを整えることで成長できるのです。

自らの経営マネジメントが別業態でも役立つことを証明していくことが、私の挑戦です。そのためには、会社のステージアップとともに、自身も脱皮していかなければなりませんね。創業期、成長期、成熟期と続く会社の全ステージにおいて、自分にできることをしっかりとやっていきたいと思います。

自分が直接経営できる会社は数社程度でしょうが、出資することで多くの経営にかかわることができます。私もそうでしたが、経営者は孤独で、話し相手を求めています。出資をすることでメンター的な役割も担うことができますので、今後も増やしていきたいと思っています。どのような業種業態でも結果を出せる「プロ経営者」を目指していきます。
P29-Ph 5NOV1137@
目からウロコ
企業買収という言葉には、何となく受け入れがたい響きがあり、「乗っ取り」や「ハゲタカ」などの言葉に通ずるマイナスイメージがあるかもしれない。しかし、M&Aという経営手法は、スピードある企業成長に資するばかりでなく、事業承継にも効果がある。平井社長は、そのようなM&Aの利点を活用した経営者である。

ゼロから起業して組織を創り上げる「0→1型起業」には時間もパワーもかかるが、既存の企業を承継して成長させる「1→10型第二創業」は迅速な成長が実現しやすい。前経営者と血縁がある後継者の場合、口出しをされたり思いに縛られたりして、自由に経営できないこともあるだろうが、しがらみにとらわれずに経営できることもメリットだ。

平井社長は、代理店という比較的自由度が制限される業態から、営業アウトソーシングというシナジー効果のある多角化へと乗り出した。代理店では扱う商品が限られるため、その市場性に業績が大きく左右される。不況にも強い経営のための英断であるが、成長につながっただけでなく、多様な経験による人材育成という効果も表れた。業績を高めながら組織を強くする一石二鳥の戦略で、自社のコアである営業力を強化しながら、アウトソーシングによって対応の幅を広げ、さらに派遣などにも領域を広げることで顧客との距離感を縮め、課題解決力を高める。一石で二鳥どころか、三鳥も四鳥も狙っていくような合理性とスピードが平井社長の強みだ。M&Aをはじめ、今後の成長への舵取りに注目したい。
(原 正紀)

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