IT活用による
地方ビジネスのモデルを目指す
地域創生アントレプレナー

株式会社コンシス 代表取締役社長

大浦 雅勝さん

青森県弘前市に生まれ、高校卒業後に東北学院大学(宮城県仙台市)に進学。就職先には、子どもの頃から好きだったゲーム業界を選び、インターネットの世界と出会う。その可能性にひかれ、地元でのインターネットビジネスを行うために退社し、いくつかの仕事を経て念願の起業を実現する。ITによる地域産業の振興を成し遂げるために、アグリビジネスやグローバルな事業を展開する。プロモーション活動を中心に、自ら農作物の生産や、地域にITを浸透させるためのNPO設立など精力的に活動。保守的な環境下で、新たな地方ビジネスの確立に挑戦するアントレプレナーに話を聞いた。
Profile
青森県弘前市出身。仙台で学び、大学卒業後にゲーム会社に就職。インターネットの世界と出会い、その可能性にひかれる。地元に貢献できるビジネス展開を考え、弘前に戻ってITや教育関係の仕事を経験。2009年に(株)コンシスを設立し、地域に根ざしたIT、アグリビジネス、グローバルを事業ドメインとしてビジネスを展開する。

残念ながら、青森はインターネット利用最低県
成功例を作るために、ローカルとグローバルをつなぐ仕事に取り組んでいます

— 地域で存在感のあるビジネスをされているそうですが、事業内容をお聞かせください。
当社は、青森県弘前市にあるWEBコンサルティング会社です。青森では、まだこのような会社は少ないのですが、ビジネスで結果を出すためには、WEBマーケティングに基づいたホームページの企画制作・運営まで、すべてに高い品質が求められます。私たちは、その一連の流れに基づくサービスを提供しています。

また、WEB関係に限らず、商品のプロモーションやブランディングなどもサポートしています。地方でこそできるWEB関連ビジネスがあると考え、これまで事業を展開してきました。残念ながら、青森はインターネット利用最低県と言われており、そのような状況下で成功例を作るために、県内の産品を活かしてローカルとグローバルをつなぐ仕事に取り組んでいます。

地域の産品を活かすには、一次産業のフィールドに取り組むことが必要です。農業や漁業とインターネットをつなぐ仕事などですね。当社が運営するハーベストマーケットというサイトには現在、250軒の農家が参加しています。スタッフが農家と直接コミュニケーションをとりながら、その数を増やしてきました。

WEBを中核において、グローバルやアグリビジネス、そしてコンサルティングを行っているのが当社の特徴です。ローカル地域にいながらも、首都圏などのバイヤーとのつながりも増えてきています。グローバル展開では、インバウンド観光への取組みや、県産品を海外に輸出するサポートなどを行っています。
— 青森からのグローバル展開など、ローカルの良さを活かしながら、新たな領域に事業が広がっていますね。地域振興にもつながりそうです。
海外に対しては、マスマーケティングの戦略は使えませんので、インターネットの出番となります。ですから、当社の制作するWEBサイトは、海外仕様を意識して作成しています。東南アジアへの輸出を考えたときに、国によってサイトの仕様が異なってきますが、そのような展開を意識することで、本格的進出に向けてノウハウを蓄積しているところです。

そのほか、高校や大学での講座をサポートする仕事などもしており、教職員や留学生との関係性もできてきましたので、そのネットワークによって、県外からもオファーが来るようになってきました。仕事の広がりはあるのですが、まだまだ未開拓の部分が多いですので、さまざまな経験を積んでいるところですね。

青森で起きることは、東京の10年遅れくらいの感覚ですので、東京の様子を見ていると先読みがしやすいですね(笑)。青森では、今年になってインターネット販売をしたいという人が増えてきていますが、ちょうど東京の10年前の状況と同じです。東京でのこれまでの展開を見本としながら、地方の良いところを取り入れて、自社ならではの事業を展開しています。

組織的にはWEBコンサルティング、アグリビジネス、グローバル、クリエイティブ、管理部という事業部編成にしています。社員に事業の採算性に対する意識などを持ってもらうために、事業部ごとに独立採算制をとっているんです。会計的な面でのメリット追求だけでなく、当社のフィロソフィーの理解も促進しています。

当社の収益としては、WEBコンサルティングとプロモーションなどのクリエイティブ分野が柱となっていますが、事業を拡大している農業やグローバルの分野は、現在は赤字ですが、未来への投資として行っています。地域において家族経営でなく、あくまでも事業会社として存続するために、小規模ながらもそのような事業部体制にしているのです。
— 起業までの経緯を教えてください。
私は弘前市の出身なのですが、大学進学で仙台に行きました。子どもの頃からゲームが好きで、自分でもプログラミングをしていましたので、就職にはゲーム会社のタイトーを選びました。ところが、配属されたのはゲームではなく、インターネットカラオケの事業部門です。1年ほど東京本社で仕事をした後に、仙台へ転勤になり、南東北を中心に営業活動などを行いました。

インターネットにはとても興味があり、その分野で仕事をしていきたいと強く思うようになったのですが、そのためには仙台で仕事をしていてもあまり意味がないと考え、3年で退職することにしました。
その後1年くらいは、いわゆるニート状態でしたね(笑)。北海道から沖縄まで、国内を旅して回っていました。

勤めてみてわかったのですが、社会人になって仕事を持つと、自由に各地を見て回るなどということはできません。学生の頃は遊んでばかりいて気づきませんでしたが、思い切ってサラリーマンから抜け出さないと、そういった経験もできないんです。幸い、退職金ももらえましたので、1年間は充電期間と思い、各地を放浪しました。
とは言え、その間に将来について考えたり、インターネットやパソコンについて勉強しながら過ごしたりしていましたので、その後のキャリアにとっては良い準備期間になったと思います。その後はいくつかの仕事を経て、青森で働きたいと思ったため、実家に戻って今後の計画を考えました。

まずは、地域での人的ネットワークなどがほしいと思い、職業訓練校でパソコンを勉強することにしました。それまでも勉強してきていましたので、パソコンには結構詳しく、講師から「なぜ来たのか」と聞かれたりもしましたが(笑)、そこで地域の状況などを学ぶことができたと思います。

同時に、青森という地域でのPCスキルの現状や、それを学ぶ機会が少ないことなど、さまざまな課題も見えてきました。ネットワークもでき、その関係で、県立の農業高校でPCについて教える機会をいただくことになりました。そこでは、一次産業に関する情報を得たり、その分野での人脈を作ったりすることもできました。

講師の方からは、県内でITを展開する会社の情報なども教えていただきました。人材募集をしているかどうかはわからなかったのですが、その会社に直接連絡して、雇っていただくことができました。そのような経験はすべて、いまのビジネスに活きています。

現在力を入れているのは、ITを活用した6次産業化の仕事
自分たちで育てて刈り取る農産物の生産まで行っているほどです

地域の産業が自立して生き残っていくために、必要な仕組みを作っていきたい
突出した事例や仕組みで、生産者の意識を変える取組みをしなければ

— 非常に紆余曲折のあるキャリアのようにも感じますが、一貫してインターネットという領域が中心だったのですね。
現在、ITを活用した6次産業化の仕事に力を入れており、自分たちで育てて刈り取る農産物の生産まで行っているほどです。当初は公共事業の受託を行いながら展開し、将来的には独自のビジネスとして成立させることを目指しています。自分たちで生産まで行っているのは青森毛豆ですが、インターネットの検索数では、枝豆は外国人に人気の食材第2位です。第1位は寿司ですが、それに次ぐほどの人気なんですよ。

自分たちで青森毛豆を栽培・収穫し、それをインターネットで販売する準備をしています。自ら成功事例を作ることで、農業関係の方々に6次産業のイメージをふくらませてもらいたい。青森毛豆研究会を立ち上げ、美味しい毛豆を発掘するための「最強毛豆決定戦」を開催したり、さまざまなアイデアを出しながらブランディングを行っているところです。青森という地域の視点で考えたら、1次産業の分野はもっとも重要なんです。インターネットは道具にすぎず、それを利用して地域を活性化するような取組みをしていきたいと思っています。農業高校とのご縁で、農業について学ぶ機会がありましたので、県内の農家にインターネットを浸透させていくのはとても難しいことと自覚していますが、そうしなければ地域の一次産業の自立は難しい。

そのような活動は、前述のハーベストマーケットという当社が企画したインターネット上のマーケットプレイスに集約されていきます。ITは、いまだに多くの人が頼りにしておらず、これまでどおりのやり方で良いと思っています。長年の歴史と技術がある農家ほど、その傾向がありますね。外から来た人や若い人など、ITの重要性に気づいている人は、すでに6次産業化への動きを強めています。

当社の事業としてもそうですが、地域の産業がこれから自立して生き残っていくために、必要な仕組みを作っていくことを目指しています。行政による展開もあるでしょうが、広く浅く取り組んでいても変化は起きません。私たちが突出した事例や仕組みを作り、生産者の意識を変えていくような取組みをしなければなりません。まだまだ始まったばかりですが、少しずつ手ごたえも感じているところです。
— 人材マネジメントにも力を入れていらっしゃいますね。
当社のようなビジネスですと、コストにおける大きな比率は人件費で構成されることになります。ですから、会社立ち上げの際は、国の支援制度を利用して、できるだけ負担を軽減しながら始めました。青森県の緊急雇用系の制度を利用し、補助を受けながら2名を採用して、その人たちを育てるところから始めているんです。人を育てながら仕事を獲得し、会社を拡大してきました。

従業員は女性の割合が高く、最初は独身で入ってくる人が多いのですが、その後結婚して、それでもありがたいことに主婦として働き続けてくれています。一定以上の経験を積んだ人は、在宅で仕事ができるような制度も考えています。能力のある人がリタイアしてしまうのは、会社にとって大きな損失ですからね。

青森では、まだWEB系の産業は発展していませんので、未経験者の応募が多いのですが、半年くらい働いてもらうと、当社と合うかどうかがわかってきます。緊急雇用系の制度を利用すると、一定期間社員を雇用しながら、そうした相性を見ることができるのです。資本力がない中で事業をスタートさせましたので、国の制度などを有効活用することで、起業から成長につなげてきました。

人を育てるには時間も手間もかかりますので、どうしたら育つかということを、経営の仕事のうちの40%くらいをかけて取り組んでいます。経営者側の気持ちをわかってもらうことが大事だと考えていますが、若い人にはなかなかわからないものです。私は、高校や大学などで学生への教育にも取り組んできましたので、基本をしっかりと教えることから始めて、社会や仕事のことなどを教えていくようにしています。

学生時代は個人戦でやってきていても、会社に入ると団体戦になるものです。ですから、チームワークなどは教える必要がありますね。若手教育には、良い先輩を見習わせることが早いやり方だと思います。研修などOff-JTの時間はあまりとれませんので、OJTを中心に教育をしていますが、入社時と失敗したときが一番の教育の機会だと考えています。そのような機会にしっかりと振り返りをして、どうしたら改善できるかなどを考えさせることです。経験が少ない若手時代には、自分の立場からしか物事を見ることができませんので、上の立場の目線を教えることを重視しています。人の立場がわかると、おのずとコミュニケーションをとれるようになるものです。

新しい仕事を生み出すのは簡単ではありませんが
難しいことに挑むチャレンジ精神は、若いうちに醸成するべきです

— 社員の成長=会社の成長。人材育成に力を入れる企業は、必ず成長しています。
人づくりに関しては、昭和的なやり方をしているかもしれません(笑)。事業部制で独立採算にしていますので、2〜3人単位で業績がわかるようになっています。ですから、数字はドライに出していますが、それだけではなく、人に対するフォローもしっかりと行います。人の力が向上してくると、会社も自然に良くなってくるんです。

新しい仕事を生み出さないと、地域経済は疲弊していきます。他社の仕事を取ってきて自社が潤っても、新しい仕事を生み出すことができなければ、全体の経済は成長しませんので、結局は共倒れになってしまいます。新しい仕事を生み出すのは簡単ではありませんが、そのような難しいことに挑むチャレンジ精神は、若いうちに醸成するべきですね。

人材育成とひと言で言っても、人はそれぞれにライフステージが異なり、働く理由も異なりますので、それに応じて仕事の任せ方や育成のやり方も変わってきます。本人が10年後にどうなっていたいのか、そのためにいまはどのような努力をすべきかを考えてもらいたい。事業の目標と自分の目標を意識して行動していく必要がありますので、それを促進することが大事です。

地方は人材が不足していますので、当社では積極的にUターン組を採用するようにしています。
自治体としても、人材の受入促進は積極的に推奨していますので、その流れにも乗っています。WEBの仕事を経験する機会も少ないため、東京などから戻る人材は貴重です。Uターンの人たちがチャレンジできるステージを作っていくことで、雇用の受け皿となり得る企業でありたいと思います。
— 今後の展開について教えてください。
青森県内でのITの普及も重要と考え、県内の事業者とともに「NPO法人青森IT活用サポートセンター」を立ち上げ、理事長を務めています。県全体のIT利用促進を目指して、個人事業主などに参加してもらい、一般会員も含めると大きな組織になってきました。この分野に関しては、行政と連携しながら進めています。

具体的には、子どもやお年寄りにIT教育を行ったり、障害者などにモバイルを教えるような取組みで表彰されたり、電子書籍づくりのためのセミナーを実施したりしています。もともとは、県の事業で地域内のITリテラシー向上を行ったのですが、事業終了後の2012年に有志で立ち上げ、NPO化して運営してきました。

まだまだやることはたくさんありますが、着実に進展していると思います。会社を大きくすると、経営的には大変ですが、それでも成長を目指していくつもりです。東京では、WEB業界でも淘汰が始まっているようですが、青森ではまだ市場を作っている段階です。

いまでは、農家とのリアルなつながりも増え、東京など都市部の企業との連携なども可能となっており、当社の活躍のフィールドは広がっています。現在の取引先は地元企業が多いのですが、県外の会社、やがては海外の会社ともつながって事業展開をしていきます。地方でビジネスを作る成功事例になっていきたいですね。

青森という地域で、新しい価値を作ることにチャレンジし続ける
ハーベストマーケットを発展させ、新しいモデルにしていきたい

— 最後に、大浦社長にとっての挑戦とは。
現在がまさに挑戦の最中ですが、この地域で新しい価値を作ることにチャレンジし続けています。ITをベースとして、地域の基幹産業である一次産業に取り組み、自らが見本となって推進していくことで、地域の産業が発展していく仕組みを作りたいと思います。

ハーベストマーケットを発展させることで、ローカルからグローバルまで展開できる新しいモデルにしていきたい。そのためには、社内外の人づくりがポイントですね。学校と連携したりしながら地域の人づくりを行い、同時に自社でも活躍できる人材の育成に力を入れていきます。

株式会社コンシス DATA

設立:2009年7月23日、資本金:100万円、従業員数:17名、事業内容:WEBコンサルティング事業、WEB制作事業、WEB関連研修・教育事業、WEB関連コンテンツ事業、グローバル戦略事業、農業サポート事業、広告代理店事業
目からウロコ
地域創生は、現在の日本のキーワードの1つだが、少子化に加え、人口流出にも悩む地方の疲弊は楽観視できない。青森は人口減少幅が大きく、地域産業が低迷し、かつ震災の影響もあるため、苦しい状況にある。たとえ遠隔地でも、インフラが整っている限り、ITの活用は可能であるから、いまの日本では概ねどこでも、ITを利用した産業振興ができるはずだ。むしろ、都会以上に活用すべきだが、地方の保守性がそれを妨げているようで、遅々として進んでいない。

そうした環境下で、大浦社長はITをコアにした地域産業振興のモデルに挑戦している。IT活用が当たり前となった都市部とは異なり、青森では従来のやり方を変えるために、その普及活動からスタートしなければならない。自ら農作物の生産活動や6次産業化への展開、地域住民のIT活用促進活動への地道な取組み、グローバル展開や都市部と連携したプロモーション活動などを並行して行うことで、ビジョンの実現を目指している。

その戦略のキーとなるのは、社内と地域の人材育成だ。社内の人材育成に自らの仕事の半分近いパワーを費やし、かつ高校や大学などでの地域人材育成も精力的にサポートしている。地域の資源は、自然や地場産業、そして人にほかならない。青森の地域資源を活かす、新たな地方ビジネスモデルの確立は近いだろう。
(原 正紀)

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