2017‐01経営者164_ベネフィット・ワン_白石様

膨大な可能性がある
サービス市場を見据え
雇用改革の推進をリードする経営者

株式会社ベネフィット・ワン 代表取締役社長

白石 徳生さん

大学在学中より起業を志して、アメリカでのインターンシップを経験。卒業後は、パソナジャパンに入社し、グループの社内ベンチャーとして、現在のベネフィット・ワンを設立。福利厚生サービスに始まり、人事関係のBPO、個人会員向けのサービス提供など、ビジネスの領域を拡大してきた。大きな構想で進化し続けるビジョナリー経営者に話を聞いた。
Profile
拓殖大学卒業後、パソナジャパンに入社。社内ベンチャー第1号として、株式会社ビジネス・コープ(現株式会社ベネフィット・ワン)を創業、2000年に代表取締役社長就任。2004年にJASDAQ上場、2006年に東証2部上場を果たす。サービスの流通創造を目指して、積極的に新規事業を展開中。

目指すビジネスは、サービスの流通

— 「働き方改革」の流れもあり、貴社の事業領域はとても注目されていますね。まず、現状の事業についてお聞かせください。 
私たちの事業内容について、単なる福利厚生のアウトソーシングだと思われている方が多いのですが、実際は最初から福利厚生をやろうと思っていたわけではなく、ネットを使ったサービスマッチングの会社を創る考えでした。ですから、類似事業というと、じゃらんさん、楽天トラベルさん、食べログさん、ぐるなびさんなどを想定しています。 

通常のサービスマッチング会社は、サプライヤーサイド(提供企業)から手数料を取るモデルがほとんどです。それに対して、手数料でなく利用者(個人)の会費制で行う、生活協同組合に似た事業をイメージしていました。会員制ホールセールクラブのような感じです。手数料なしでサービスが買えるサイトを創ろうと思っていたのです。 

しかし、個人から直接会費をもらうのは難しいという判断をした結果、目を付けたのが福利厚生でした。日本の企業は社員に福利厚生としてさまざまなサービス、人間ドックなどの医療、英会話学校、旅行関係などを安く提供しており、これはマッチングのチャンスにつながると考えました。 

サービス提供企業の代わりに、私たちが福利厚生をアウトソーシングで受けることで、さまざまな企業の職域販売の代行をするといった構想です。創業時の1996年はインターネット(ネット)がデビューして間もない時期でしたが、現在主流となっている多くのサービスマッチングビジネスは、大体1996年にできています。
— そうでしたね。大手なども含め多くの企業が参入してきましたが、残ったのは一握りですね。 
私たちの構想とは別に、企業から見た当社はまだまだ福利厚生のアウトソーシングというサービスの範疇です。この10年間くらいで10種類ほどの新規事業を立ち上げてきて、顧客のニーズを汲み取ってきた結果、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)的なサービスが多くなりました。たとえば、出張精算や健診予約、カフェテリアプラン方式の福利厚生、財形・持株会といったオペレーション系の仕事です。
気がつけば、かなりの人事データに絡むBPOをやっていたため、2~3年前からそれを意識して、足りないパーツを増やすためにペイロール(給与計算)を始めました。今後は、タレントマネジメントや評価制度も開始するため、企業の人事部門が人を雇う際にやらなければならない業務を、ワンストップで受託できる体制にしています。 

本来、やろうと思っていた個人向けのサービスも始めており、パーソナル事業としてOEMで供給しています。たとえば、現在はソフトバンクさんが一番大きい顧客ですが、「とく放題」という名前の携帯電話のオプションや、「ヤフー!BB」というネット回線のオプションとして提供しています。個人会員が急増してきて、福利厚生と同じ会員数まで伸びてきました。
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ー サービスの流通というもともと目指したビジネスも形になって伸びてきているのですね。
私たちの事業は大きく分けると、人事データ周りのBPOと、個人に対するユーザー課金型のサービスマッチングを行うBtoCビジネスとなります。後者はこれから急激に伸びると想定していますが、現在ネットで販売されているサービスは、航空券やホテルの予約くらいしか見当たりません。しかし、もう間もなく飲食も、ネットで予約決済されるようになるでしょう。 

おそらく、最終的にはほとんどのサービスで、ネット経由の販売が主流になってくると思います。モノの世界にはネット以前から流通がありましたが、サービスにはそもそも旅行会社くらいしか流通形態がありませんでした。直接的にサービスを提供する会社が販売していましたが、ネットの普及により予約行為が発生して、販売されるようになってきています。 

これらの動きで一番早かったのが航空業界、次いでホテル業界でした。最近、急激にネットで販売されるようになったのがタクシー業界で、空車情報がIT化され、ネットとつながったことで可能となりました。ネットでのサービスマッチングは、急速にグローバルレベルで成長する産業です。先進国においては、モノよりもサービスのほうが消費総額が上回っていますから、膨大なビジネスチャンスですね。
ー サービスは在庫を持てないため、従来型のeコマースでは不向きでしたが、クラウドやIoTの登場で大きな市場ができつつありますね。 
サービスがネットで販売されるようになると、価格が変動相場制になってきます。空いているときは安く、混んでいるときは高く、需給バランスによるサービスの市場ができるわけです。ネットにアクセスしていない人は高い値段で買わざるを得なくなるため、いずれはほとんどがネット経由で取引されるようになるでしょう。 

現在は、引っ越しや人間ドック、保険、英語学校でも、あまり比較検討がされずに買われています。その結果として、一番良いものが売れているわけではなく、広告量が多い会社のサービスが売れてしまう。広告費をかけている高い価格のものが売れている状況です。モノの世界では、安くて良いものが必ずトップシェアを取っています。

ネットに残された大きなマーケットはサービス業

— ネットにはまだまだ新たな価値創造の可能性がありますね。 
ネットがデビューしてから20年経ちましたが、そこに残された大きなマーケットはサービス業です。これまでは広告モデルのマネタイズが多かったのですが、私たちが目指しているのは広告以外のモデルで、ネットの世界での新たなトレンドになるでしょう。これはeコマースよりもはるかにマーケットが大きい。eコマースがどんなに発展しても、コンビニエンスストアやスーパーマーケットが主流であり続けることに変わりはないと思います。 

人事データ周りのBPOも、ここ最近は力を入れていますが、3年ほど前までは日本でまったく普及していませんでした。それは基本的に人が余っていて、アウトソーシングしにくかったからです。現在は人材不足状態になってきたため、アウトソーシングしたほうが合理的という判断になってきました。 

これからは、本業部門以外は極力外に出していく流れになるでしょう。給与計算BPOのアメリカのADP社では、約2兆円の売上があります。日本のペイロールのトップシェア会社は約60億円ですから、まだまだ伸びる余地は大きいといえるでしょう。
— 個人向け・企業向けとも、市場の先行きはとても楽しみですね。その中でどのようなポジショニングを狙いますか。
BtoCの世界では、当社の競合はほとんどいません。手数料をサプライヤーサイドからもらおうとしている企業は多いですが、ユーザーから会費をもらう企業はほとんどありませんでした。しかし、ここに来て出始めましたね。 

現在、アジア、ヨーロッパ、あるいはシリコンバレーなどで当社をベンチマークした企業が出てきて、非常に評価されています。全米のITベンチャーでもっとも有名なAnyPerk社は、当社をそのままモデルとした会社です。社長もよく知っていますし、当社にも出資要請がありました(笑)。海外で話題の企業ですが、実はこれは日本発のビジネスだったんです。 

福利厚生という側面で見たら、当社のサービスの要素はBPOのワンストップソリューションです。ヘルスケアやインセンティブ、出張精算など、ここまでトータルでやっている会社は見当たらないですね。当社では福利厚生とヘルスケアに合わせて、インセンティブ・ポイント管理も行っており、それらが完全に一体化しつつあります。それは、奨励金などをポイントで付与するものですが、その3つを一体でやっていないと生き残れなくなると考えています。
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ビジネスモデルとしては、ポイントプログラムを顧客企業に無償で提供する代わりに、景品は必ず当社から買ってもらうようにしています。物販事業やサービスの販売と同じような事業でもあり、ポイントカードのサービスと同じようなスキームです。 

また、先進的な企業や健康経営企業では、福利厚生だけでなくヘルスケアと融合した健康ポイントを扱い始めています。従業員が禁煙したり、マラソンを始めたり、体に良いことをするとポイントがもらえる制度です。医療費削減が大きなテーマとなっている政府の方針でも、健康保険組合に健康ポイント制度を導入するように指導しているくらいです。
— BPO事業で法人側から、パーソナル事業で個人側からと、両面から会員を増やしてサービスの流通のプラットフォームを担う構想ですね。 
そうですね、BPOから入っていくと金融商品や健康商品に関して、社員の方向けの商品をレコメンドすることができるのです。健診データ、給与データ、人事考課データが集まってくると、そのビッグデータを活用した利便性を提供できるようになります。どの金融商品を運用するのか、年金はどうしたらよいのか、などを相談できるフィナンシャル・アドバイザーのようなことも可能となります。 

この1月からは、401kの確定拠出型年金の販売をスタートします。金融ではビッグデータを活用したレコメンドが間もなく始まりますが、さらにヘルスケアの分野でも活用できます。 

また、データヘルス計画という国策がありますが、これはビッグデータを活用して医療費を下げることを目指すものです。すでに、当社はこのデータヘルス計画もいくつか受託して進めており、レセプトチェックにより未使用者にジェネリック薬品を勧めるなどしています。国の動きと歩調を合わせることにより、社会貢献と同時にビジネスの成長も可能となるのです。

CtoCの個人間売買の時代がやって来る

— 市場化することにより、サービス業の進化にもつながるでしょうね。
比較検討する場がネット上にできると、切磋琢磨して、安くて良いサービスを提供しなくては生き残れなくなります。サービス業の生産性については、日本はアメリカの半分ほどの数値で、かなり差がある状況です。ホワイトカラーの生産性の低さもよく指摘されますが、全体的にものづくりのほうが生産性は高いですね。
 
もう一つ、違った話をさせていただくと、いままでの話はBtoCといった企業が提供するサービスを個人に紹介するモデルでしたが、さらに新たなマーケットとして期待できるのは、CtoCという個人間での売買です。その背景にあるのは、上がり続けている消費税で、個人間取引だと消費税がかからなくて済むからです。 

中古自動車なども、最近はヤフオク!さんなどでも売られるようになってきました。車は昔のように簡単に故障しなくなってきており、安心してネットで買えてしまいます。中古自動車販売業では、20~30%くらい利益を乗せていますが、これに今後は10%になる消費税が乗ってくると40%くらい違ってきてしまうため、個人間での売買が伸びてくると思います。 

最近は、フリーマーケットのアプリケーションソフトウェアが流行しており、そこで洋服などを買っている若い人たちが増えてきています。個人売買のマーケットはかなり大きくなると思いますが、その中でも一番大きいのは、実は不動産なんです。中古のマンションなどは個人対個人の取引で、日本中にある小さな不動産屋が仲介しているわけですが、それも間もなくネットに置き換わるようになるでしょう。

少子高齢化や地方創生のカギは雇用革命にあり

— もともとの取引は個人間で行われていたのですから、これは原点回帰ともいえますね。個人には有形無形のさまざまな資産がありますから。 
個人が持っている最大の資産は、実は労働力です。しかし、雇用関係の中で一企業にしか販売できていません。これからは雇用ではない形で販売していくことになるでしょう。アメリカでは約30%の人が、個人事業主として複数の企業と契約しています。日本の場合は、そういう自営業者は1%くらいではないでしょうか。 

私たちがインフラとして機能することで、持っている労働力を個人が売るケースが増えるようになるでしょう。何でも屋さんのように育児や介護をサポートすることは、まさにCtoCですよね。知り合いに手伝ってもらうような感覚で、ネットを通して取引されることが進んでくると思います。 

時間を提供するのではなく、知識を提供するような仕事、たとえば個人が結婚式の招待状作成をネット上で発注して、それを個人デザイナーが受注するようなケースも出てきます。CtoBとして、企業が雇用契約ではない形で労働力を買うようになると、雇用革命に近いことになりますが、それを当社は率先してやろうと進めています。
 
現在、約1,000人の社員が東京と愛媛県の松山におります。東京でオペレーションするコストに比べて、松山では半分くらいで済みます。今後は全体の75%の仕事を、雇用ではなく個人へ外注していこうと決めています。そうやって考えていくと、在宅でできる仕事がとても多いことがわかり、東京で行う必要がないと気づきました。 

具体的な例として、福利厚生の営業は去年までは正社員が外勤で行っていたのですが、今年からインサイドセールスという組織を創りました。電話でアポイントメントを取り、先方とのテレビ会議で提案をして、契約まで一回も会社訪問をしないという実験を始めていますが、対面での営業対応にわずらわしさを感じる会社に好評のようです。営業だけでなくすべての業務を分析していくと、ほとんどは自宅でできてしまいます。 

そのような雇用革命により、少子高齢化問題や地方創生の問題は連動して解決に向かうと思っています。消費する時間も増えるでしょう。産業構造が日本と似ているドイツでは、夏休みなどは大体4週間くらい休むように、法で定められています。日本人は長く休んでも1週間です。ドイツは休みをしっかりと取ったうえで生産性を上げていますが、それは日本でも可能だということです。

どうしたら必要とされるのか、自然界の掟を考え抜く

— 近未来のとても刺激的な話を伺いましたが、それに向けての白石さんの挑戦とは。
現状維持を考えた瞬間から衰退していきますから、挑戦はマストだと思います。少しでも前に進まないかぎり、結局は後退していきます。企業30年説などがありますが、ほとんどの企業が現状維持に走るからだと思っています。企業は常に環境の変化を認識したうえで、どうしたら必要とされるかという自然界の掟を考え抜かなければなりません。これは生き残る企業の大原則です。 

変化の速度がとても早く、特にテクノロジーの発達は異常ともいえる領域に来ています。携帯電話が出た頃は、ガラパゴス携帯から10年くらいかけてスマートフォンに進化してきましたが、以降はそれまでの10年の変化が半年で起こるようになっています。そのスピード感を誤ると、取り残される感覚があります。 

海外展開などもそうです。ハッと気づくと、ライバルの会社が生産拠点を移しています。少し前までは、中国だと騒いでいましたが、その後、カンボジアやミャンマーなど、次から次へと熱いところに出て行っていますよね。そのような変化の一歩先を行くようなビジネス展開をしていきたいと思っています。
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目からウロコ
通常のインタビューと違い、壮大な構想や未来予測を聞き続けた時間だった。トップインタビューでは、現在の事業推進や課題解決といった話を中心に将来構想も聞くことが多いが、白石社長は並大抵ではない情熱で未来を見据えている。 

もともと大学時代から自らビジネスを立ち上げることを志し、構想を練ることが好きだったそうだが、その若き情熱をずっと持ち続けている経営者だ。親会社のパソナグループ社は人材派遣のビジネスだが、その領域をもはるかに凌駕するような視野でビジネスを考えている。見据えている市場はネットにおけるサービスの流通化であり、BtoCだけでなく、CtoB、CtoCといったこれまで未開拓の領域も含まれる。サービスの流通化を目指しながらも人事ビジネスの業態でやってきたため、雇用革命の視点を持ち得ている。 

そこにはサービスの流通化と併せて、企業の生産性向上という課題解決の要素も含まれるため、さらに大きなビジネスチャンスとなる。加えて、地方創生や少子高齢化対策という効果も視野に入れており、卓越した構想力といえる。 

大きな構想を実現していくことこそ企業経営の醍醐味であるが、白石社長はどのような経営の舵取りを行っていくのか。これまで培ってきた企業の福利厚生を介した個人会員というベースをどれだけ拡大させられるのか、メニューとして扱ってきたサービスをどれだけ拡大できるのか、展開スピードと守備範囲の拡がりがポイントになるだろう。
(原 正紀)

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