2013-12経営者127_プルータス・コンサルティング_野口様

有価証券の評価という新しい市場で
オンリーワンのプロ集団を
作り上げた経営者

株式会社プルータス・コンサルティング 代表取締役社長

野口 真人さん

京都大学経済学部を卒業後、富士銀行、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部長に就任。ユーロマネー誌によるアンケートで、3回最優秀デリバティブセールスに選ばれる。2003年に独立し、プルータス・コンサルティングを設立して社長に就任。金融工学の強みを活かし、会計、税務、法務の専門家との連携でプロ集団を作り上げる。有価証券の設計・評価を専門的に行う戦略で、新たな市場の創出と、その中での認知獲得を実現し、大企業を中心に多くの企業から頼りにされる存在となる。プロ集団で新たな市場を創出する経営者に話を聞いた。
Profile
京都大学卒業後、富士銀行に入行。5年で退職してJPモルガンに転職し、ゴールドマン・サックスを経てプルータス・コンサルティング起業に至る。企業価値、有価証券の評価という分野に特化して事業展開を行い、新たな市場を生み出してきた。大手企業を中心に、幅広く有価証券の設計・評価を行う。

当社は、企業の資本政策のアドバイザリーという立場で
資産形成と、資本構成・資金調達をサポートします

— 野口さんは業界で独自のポジションを築かれつつありますが、まずは現在の事業内容を教えてください。
シンプルに言うと、企業の資本政策のアドバイザリーという立場で、バランスシートの左側の資産形成と、右側の資本構成・資金調達をサポートする仕事ですね。具体的には普通株式だけでなく、新株予約権・転換社債・種類株式などのエクイティファイナンス、M&A や組織再編におけるデューデリジェンス、ストックオプションなどのインセンティブプラン、国際財務報告基準対応の時価評価、第三者的見地からのフェアネスオピニオン、IPO、MBO、事業承継の支援などを、価値評価をベースに行っています。

有価証券の価値評価に絡む仕事や、適切な価格を判断する仕事は、従来の会計士や税理士といった方々の範疇にない仕事です。しかし、企業の資金調達の手法は多様化しており、かつそれに対する法的規制も厳しくなっているため、そのような評価ができるプロの存在が求められてきたのです。

たとえば株式の増資を行う際には、既存の株主などから、「株が希薄化して価値が下がってしまう」といった意見が出ることが多いものです。しかし、そうとは限らず、適正な発行であれば価値は下がりません。それを「良い希薄化」と呼びますが、企業価値を上げるために重要なことです。

インセンティブプランとしてストックオプションの相談を受けることも多くありますが、2008 年から会計基準が設定され、それまでのように簡単にはできなくなり、会計上の処理や評価が必要となりました。転換社債や新株予約権、種類株式なども同様です。

証券会社や投資顧問などの仕事は、投資家に対して投資商品を売ることがベースですが、当社は企業が資本調達をする際に適正な評価を行うことが仕事です。従来のように、ブラックボックスの中で行われる株式発行などに対して、近年は株主が積極的に発言するようになってきました。そうすると、経営陣としては善管注意義務を果たすために、第三者視点での適正な評価を参考にする必然性が出てきたのです。
— 具体的な事例についても、少し教えていただけますか。
では、いくつかの事例をご紹介しましょう。第三者としての評価を行うフェアネスオピニオンとしては、カルチュア・コンビニエンスクラブ株式取得価格申し立てで、会社と反対株主の間で争われていた裁判において、当社の評価結果を参照として裁定したケースがあります。MBO を前提として実施された公開買い付けに際して、いくつかの株式価値評価機関の中で、当社がもっとも中立的で信頼できると判断されたのです。

M&A の事例としては、USEN の連結子会社だったインテリジェンスの株式交換によって完全子会社とするのに際し、反対株主からの株式買い取り価格が裁判で争われたことがありました。当社は、株式交換比率の前提となる株式価格の算定を行ったのですが、東京高裁から当社が算定した株式交換比率の客観性・合理性が認められました。

需給のアンマッチがあった有価証券の設計・評価の分野を
一つの確立した市場にしてきたことが当社の実績です

ー ファイナンスの手段が多様化し、会計基準が厳しくなっている昨今、多くのニーズが見込まれるビジネスですね。
フィーはそれほど高くありませんけれどね(笑)。M&A の仲介や IPO のサポートなどは大きな収入につながりますが、それは大手証券会社などが狙っており、当社の規模ではなかなか太刀打ちできません。評価という業務は、地味でレピュテーションリスクなどもあるため、あまり「美味しくない」仕事なんです。

しかし、だからこそ差別化が図れると思いました。評価の仕事は、証券会社などが業務の一環として対応してきましたが、うまみが少なく、会計士や個人のコンサルタントなどでは、フィーは十分でも対応できないという、需給のアンマッチがある市場でした。そのような有価証券の設計・評価という分野を、1つの確立した市場にしてきたことが当社の実績だと思います。
その結果として、上場企業が発行する新株予約権、種類株式についての設計や評価の実績は、自社調べで 40%のシェアを獲得しています。有償で発行されるストックオプションは、以前は 95%ほどのシェアを占めていました。いまはフォロワーも増えてきて、少し低下していますが。

新たな市場を立ち上げると、それを狙って新たなフォロワーが登場しますが、この業界もそうなっています。しかし、プレイヤーが増えるほど市場も拡大しますので、その状況は歓迎しています。その中で自社の強みを発揮し、シェアを獲得していけばいいのですから。
ー たしかに、新たな市場ができた際は、それを拡大しながらシェアを獲得することが重要ですね。貴社がパイオニアとして発揮している強みは、どのようなものでしょうか。
当社には、3つの強みがあると思います。まずは金融工学、会計、税務、法務のスペシャリストを融合していることです。従来、企業の財務関係は会計士や税理士が扱っていましたが、その専門分野は BS や PL の作成であり、資産の評価は門外漢です。

しかし、そのような会計マインドは必要ですので、有価証券の設計や評価をできる金融工学のプロ、会計・税務のプロ、さらには会社法のプロがしっかりとチームを組むことが大事で、当社ではそのような組織づくりをしてきました。私自身は、金融商品や評価基準を作る仕事をしてきましたので、金融工学のプロとしてかかわっています。

当初は専門的な人を集めることが難しかったため、若手人材を育てて戦力化しました。実績を積んで認知されるようになってからは、レベルの高い人が集まるようになりましたので、目指してきたプロ集団を形成できています。

2つ目の強みは、完全なる独立性を有していることです。特定の企業と顧問契約を結ぶことはせず、オープンにどの企業とも付き合うスタンスで事業を進めてきました。独立性が担保されているため、多くの企業との取引を成立させることができ、その実績がさらに強みとなっています。

3つ目の強みは、最先端の有価証券スキームの開発力です。これは、私が長年取り組んできたことですし、多くの企業とのかかわりの中から、他社にないノウハウも構築できました。

これらの3つの強みをベースに、広く信頼される有価証券の設計・評価をできることが、当社における他社との差別化要因です。

プルータス・プラスは、無償での財務戦略のアドバイザリーサービス
既存顧客に、リピーターになっていただくことを狙っています

ー そのほかにも、独自のサービスを開発されているそうですが。
ホームページなどでも広報していますが、バリュープロとプルータス・プラスという2つのサービスがあります。バリュープロとは、金融価値(株式価値)の評価のためのデータ配信サービスです。価値評価には、グローバル・スタンダードとして収益方式が使われていますが、その基礎数値として、リスクプレミアムと呼ばれる割引率の算定が必要となります。

本サービスは、上場企業 3,000 社以上の膨大な株価データをもとに、割引率の算定に必要な各種データを提供するものです。中小企業庁から株価算定マニュアルの策定を頼まれたことが、このようなデータベースを作成するきっかけになりました。このデータを参考に、未上場企業でも株式評価ができるようになります。

プルータス・プラスとは、無償での財務戦略のアドバイザリーサービスです。先ほども言いましたが、当社では中立性を保つために、特定企業の顧問契約などは行っていません。すべてワン・オフ、つまり1回限りの取引という前提で契約しています。しかし、クライアント企業との関係性は維持していく必要がありますので、そこで投入したのがこのサービスです。

一度取引をした企業に会員になってもらい、電話やメール、面談による財務戦略のアドバイスや、最新情報を掲載したニュースレターの配信を行うものです。資金調達やインセンティブプラン、種類株式や公開買い付けなどの企業行動は、そう頻繁にあるわけではありません。検討することは時々ありますが、そんなときに弁護士などに頼むと、結構な費用がかかってしまいます。

そこで、当社では多岐にわたる分野の豊富な知見をもとに、気楽にご相談いただけるよう、コーポレート・アクションにかかわるアドバイスを行っているのです。無償である代わりに、検討中の案件を実施することになった際は、当社のサービスを活用してください、という考え方です。既存顧客に、リピーターになっていただくことを狙っています。

会計士と金融の世界は相性が良く、良いパートナーになれる
得意分野を組み合わせれば、多くの情報やニーズを把握できます

— 金融関連では、これまでにないビジネスモデルですね。起業に至るまでの野口さんのキャリアを教えてください。
バブル以前入社の、「半沢直樹」の少し前の世代です(笑)。大学のゼミからは、多くが金融機関か商社に就職しており、私もあまり迷わず、銀行への就職を決めました。当社にも新卒学生が就職活動で来ますが、企業のことをよく勉強していて、頭が下がります。私の頃は、面接に行けば内定が出るような時代でしたから。

このように、いい加減な気持ちで会社を選んでしまったため、入社してすぐにつまらないと感じてしまいます。性に合わないというか、保守的かつ減点主義で、規則もうるさく...。私は大雑把なほうが好きなタイプですので、上司とも合わず、5年で辞めて JP モルガンに転職することにしました。同期では、退職第1号でしたね(笑)。

当時は、外資系金融会社の日本進出が相次いでいた時期でしたが、米国の金融は景気が悪く、いまのように優秀な人材ばかりではありませんでした。
やればやっただけ評価される外資系の世界は自分に合い、全体的にも上り調子になってきたため、業積も良かった。そのうちに、今度はゴールドマン・サックスからスカウトされます。

結果的には、米国金融がどん底の時期に入社し、ピークの時期まで働くことになりました。逆に日本の銀行は、バブルのピークから業積が落ち込み、再編されていきます。頂点の時期に入社すると、あとは下がるだけですから、どん底で入社したほうがいいですよね。私は、JP モルガンに 10 年ちょっと勤め、ゴールドマン・サックスは3年ほどで辞めましたが、ある程度の蓄えができましたので、その後1年ほどはフリーの状態でいたんです。
最初は楽しかったのですが、すぐに退屈するようになりました。まだ、40 歳前後の働き盛りでしたからね。当時、誘われたグロービス経営大学院でファイナンスの講師をしていたのですが、とりあえず会社を作り、会計士の方と連携して、コンサルティングなどを行うようになりました。そのような中で、顧客のニーズを聞いているうちに、現在のビジネスに行き着いたのです。

会計士は過去の実績を分析する専門職、一方で金融の世界は未来の利益を追求する業界ですので相性が良く、とても良いパートナーになれます。会計士は問題点の抽出が得意で、私たちはその解決策を提案できる。それを組み合わせて仕事をする中で、多くの企業の情報やニーズを把握することができました。顧問やコンサルティングはどこでもやっていて、マンパワーも必要ですので、小さな市場の中で大きくやろうと、独自のビジネスモデルを考えたのです。
— とは言え、新しい市場を生み出すには、ご苦労も多かったのではありませんか。
普通株式以外を評価することは、企業経営者の善管注意義務を証明するために必要なアクションとなっていて、プロでしか受けることのできない世界です。これまでは、会計士の印鑑があればまかり通っていましたが、モノを言う株主が増え、株に関する訴訟事例も目立つようになってきました。

2007 年に、オートバックスセブンの転換社債の評価を請け負った際、それに対して差し止めを要求する株主が出てきました。外国のファンドでしたが、その件が裁判となってしまいます。そこで差し止めをされてしまいますと、本業の信用が失われますので、下手をすると会社の事業がストップしてしまうような、大きな岐路に立たされたわけです。

当社は初めてでしたが、同様の裁判はそれまでに3件あり、裁判所としても判断が難しいせいか、すべて差し止めをされていました。疑わしきは罰する、という考え方です。しかし、数日かけて裁判官に評価内容を説明した結果、当社の評価は合理的であると認められ、このような案件では初めて株主の訴訟を退ける結果となり、その後は多くの企業から仕事をいただけるようになりました。
— 災い転じて福、でしょうか。それはとてもよいお墨付きになりましたね。今後は、どのような展開を考えていらっしゃいますか。
そこが悩みどころですね。現在の当社の立場は、第三者的に有価証券の評価を行う機関であり、誰とでも付き合うポジションですが、これでよいのかと思うこともあります。M&A アドバイザーのように、もっと収益が上がるビジネスもありますので、食指も動きますが、それを行うと、パートナーである証券会社などからライバル視されてしまいます。

いまは評価に特化しているため、多くの会社からパートナーとされているのです。“良い花嫁候補”といったところでしょうかね(笑)。かと言って、格付け機関のように公的なものにするつもりはありません。私たちは、既存株主に対して情報発信をしているのであって、これからの投資家にしているわけではありませんからね。株の発行が既存株主の利益を守っているか、その1点を見るという、発行時における評価に特化しているのです。当面は、この市場の拡大と、その中でのシェアをさらに上げていくことを目指します。

限られたリソースで、どれだけ市場の認知と信頼を得られるか
こんなにエッジのとがった会社があることを、全国的に知ってもらいたい

— 最後に、野口さんにとっての挑戦とは。
改まって挑戦と考えたことはありませんが、限られたリソースで、どれだけ市場の認知と信頼を得られるか、ですね。いまはまだ、一部の人にしか知られていませんが、もっと広く知ってもらうことを目指します。もちろん、しっかりと収益を出してからですが、現在の市場だけに甘んずるつもりはありません。

こんなにエッジのとがった会社があることを、全国的に知ってもらいたいですね。先日、新刊「パンダをいくらで買いますか?」(日経 BP 社)が発売されましたが、このタイトルをつけた理由は、専門家だけでなく多くの人に読んでもらいたいからです。これまでに数冊の書籍を出版してきましたが、いずれも認知を広げるための活動の1つです。難しい専門書ではなく、とっつきやすい書籍をきっかけに、できるだけ多くの人に企業価値、株価の形成について知ってもらいたい。

企業は、商品を売って業績を上げればよいというものではなく、企業価値を高める経営を行うことが大事です。そのようなマインドを持った経営者を増やしていくことに、当社も役立ちたいと思っています。

株式会社プルータス・コンサルティング DATA

設立:2004年3月、従業員:25名、事業内容:上場会社および非上場会社の株式・新株予約権・社債などの評価・査定、資本政策に関するコンサルティング、上記各号に付帯する一切の事業、著書:「パンダをいくらで買いますか?」(日経BP社)、「ストックオプション儲けのレシピ」(同友館)ほか
目からウロコ
今回は、2つの視点での気づきがあった。1つは、ニッチトップという語り尽くされたセオリーの再認識である。これは、強い意志でやらないことを決めなければ実現しないが、私は苦手にしている。経営をしていると、さまざまなチャンスに目が行ってしまい、ついあれこれと手を出してしまうが、目先の利益に振り回されては、市場を育てることはできない。有価証券の評価という新しい市場を作り出し、圧倒的なシェアを握るという戦略は、非常に理にかなったものだが、限られたリソースで実現していくのは難しい。市場の創出には、チャンスを見出す感性、市場があると信じて集中する決断力、そして誘惑に惑わされずに実行し続ける忍耐力が必要だと改めて感じた。

もう1つの視点は、企業価値だ。企業の本質は、独自の商品・サービスを生み出して顧客を創造し、存続していくことであり、それを実現するための経営オプションは多様化している。M&A による資産形成、エクイティファイナンスによる資本調達はその最たるものだが、それを駆使するためには、企業価値を適正に評価しなければならない。企業は多くの側面を持つ多面体であり、かつ環境に合わせて変化する柔軟な存在だ。それを評価することは難しく、同社のようなプロが求められるのはよくわかる。そうしたプロの存在により、企業価値向上を目指す経営者も増えるだろう。中立的なポジションと、評価のプロという強みを活かした、同社の今後の経営の舵取りに注目したい。
(原 正紀)

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