2019‐07Umano14_ポジティブドリームパーソンズ_杉元様

ウェディング事業が起点の感動ビジネスで
21世紀の日本を「コトづくり大国」に

株式会社ポジティブドリームパーソンズ 代表取締役社長

杉元 崇将さん

Profile
1967年福岡県生まれ。大学在学中より起業を目指しそのために役立つ会社としてイトーキに就職。大型プロジェクトや会社再建などを短期間で経験さらにスタートアップ時のPlan・Do・Seeにジョインし30歳にして株式会社ポジティブドリームパーソンズを設立。ウェディングプロデュースやゲストハウスの企画運営に始まり複合施設の企画開発などに多数参画。現在はレストランホテルフラワーバンケットコンサルティングなど6つの領域に事業を拡大してきた。「感動で満ちあふれる日本を創ってゆく。」をコーポレートビジョンに掲げモノづくりだけでない日本の「コトづくり」の強みを再編集した感動創出企業を目指している。
HARA'S BEFORE
結婚式は現代の日本において数少ない「ハレの舞台」だろう。だが消費者感覚は変わってきており日常の延長的なフランクな形式が増えている。こうした環境変化の中でウェディング業界はどのような戦略を描いているのだろうか。 

比較的新しい業界のため短期間で成長してきた勢いのある会社が多い。ポジティブドリームパーソンズ(以下PDP)もその一つで創業以来順調に成長を遂げてきた。杉元氏は若手経営者の団体で代表を務めるなど強いリーダーシップを発揮している。市場変化に対する成長戦略をうかがうのが楽しみだ。

結婚式からレストランホテルまで

原:感動創出企業として独自の展開をされていますね。
杉元:メインとしてはウェディングビジネスをやっています。昔の結婚式はいわゆる披露宴で両家の結婚の儀式としておごそかでかしこまった宴会が多かった。それが徐々に結婚する自分たちが主役になって来ていただいた人たちをおもてなしするような結婚式に変えていきたいというニーズが強くなりました。ところがそうしたニーズを既存のホテルや結婚式場はなかなか取り込めなかったんです。旅行の企画商品のように1つのパッケージプランを金太郎飴のように販売していく形だった。我々はそれを二人らしい結婚式をカスタマイズし提案するところからスタートしました。  

ただ日本の人口が減少していく中で結婚式が済んでお客様との関係が終わってしまえばビジネスはどんどんシュリンクしていく。しかし特別な感動を創出するノウハウが我々にはある。企業のパーティやレストランで雰囲気のよいディナーを楽しみたいといったニーズにも応えられると思ったのです。結婚式の1回きりではなく連続的に生涯顧客になっていただきたい顧客関係性を長く保てるビジネスに変えていきたい結婚式ビジネスで養った感動を生み出す力を活かしたい思いが強くなりました。こうしてウェディング専門から「感動創出企業」へとテーマを変えていったのです。約10年前からホテルレストランイベントそして花を使ったギフトサービスへと多角化して現在のビジネスモデルに至ります。
原:その中で2本目の柱は何でしょう。
杉元:レストランですね。ホスピタリティ・レストランというかフランチャイズやチェーンストアのような形態ではなくランチもディナーもそれぞれ雰囲気を楽しめる時間を提供しています。単価は若干高めですがホテルの7掛けくらいの金額で楽しめます。かしこまった感じではなくアメリカのダイニングレストランのように活気がありますよ。
原:さらにフラワービジネスも展開されていますね。
杉元:プロポーズのシーンや母の日などではお祝いのお花をどう使うかどう演出するかが大事になります。「スタッフがこのタイミングで持っていってこのように渡すとサプライズの特別な感動につながる」といったことまでプランニングするんです。日本のお花屋さんはどちらかと言えばアレンジメントはナチュラルなお店が多い。一方で法人向けのパーティなどではもう少しモダンなお花の装飾や手土産が欲しいというニーズがあります。そうしたことに対応できるフラワーシステムが今まであまりなかったので参入しました。もらったお花がそのままボックスフラワーになっていて飾りやすいとか皆をドッキリさせたい時にちょっとおしゃれにポーターがサービスをするようにしています。フランス観光開発機構やエールフランス航空などが協賛・後援している「フラワーアートアワード」という日本のフラワーアーティストNo.1を決める大会で一昨年日本No.1になり世界大会へ出場もしています。
原:御社は演出を強みとして会場やレストランを活かしていくプランナーなのですね。
杉元:どちらかと言うと売りは汎用性や利便性の高さではなくてプランニング能力と結婚式で養ったホスピタリティの高さで横展開していくことです。レストランやイベントをしっかりと作ってウェディングのお客様がまた戻ってきていただけるような仕組みを持っていることが強みだと思います。

人を育てる─「会社はひとつの学校」

原:そのためには人材が重要になってきますよね。人の確保や育成はどのように行っているのですか。
杉元:レストランやウェディングの仕事は今は結構いっぱいあるんですよね。弊社で働く意味を提示しロイヤリティが高いメンバーをどれだけ育てていくかが大事になってきます。採用においては会社が目指すビジョンに対して共感度の高さが重要だと判断しています。またサービス業はOJTで学ぶことが非常に多い業種です。採用後は現場で学ぶ先輩の背中を見ながら学ぶことが多い。それに対し弊社では10年ほど前から社内大学として「PDPカレッジ」を設立し「会社を一つの学校」と定義して人材を育てていく方向に振り切っています。会社の理念や提供価値をしっかり理解し共感してもらうのです。  
メンバーと会社のトップである僕の価値観がズレないように会社の方針説明は「経営行脚」と称し社員が働いている現場に僕らが出向くようにしています。1か所に社員が集まって経営陣が高いステージから説明するといったことはしません。  

私が参加する社内の飲み会も年間36回くらいやっていますね(笑)。加えて現場の最前線で頑張っているメンバーをキャッチアップするために15~20名単位での飲み会も年に12~13回は開いています。取締役会が終わった後には経営チームと必ず食事をしてその月の慰労もしています。この3つの飲み会は10年間ずっと続けてきました。僕の仕事の1/3はこうした社員とのコミュニケーションなんです。
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原:「PDPカレッジ」ではどんなカリキュラムを行っているのですか。
杉元:3つの難易度に分かれています。一番簡単なレベルが「PDPビジネスカレッジ」。ソルブプレゼンテーションなどと題してロジカルシンキングを学ぶ場です。必要なスキルに関してはある程度OFF-JTの場でも教えていこうと考えました。  

その上の「PDPマネジメントカレッジ」ではマネジメントをする立場の人やこれから担う人が知っておくべきことたとえば「PL(損益計算書)をどう見るか」「なぜ企業理念を大切にしなければいけないのか」といったことを座談会で話し合うカリキュラムもあります。  
そして最も上のレベルが「PDP大学院」です。僕も10年ほど前大学院に入り直して経営の勉強をしましたが年に数名ほどを経営大学院に派遣しています。

企業再生からホスピタリティビジネスへ

原:学生時代から起業を意識していたと伺いました。
杉元:父親の家系が酒蔵を母親の家系が民宿事業をやっていたので商売感覚が幼心に芽生えていたんでしょうね。大学時代にはバーでアルバイトしたんですがそこのお客様が28歳で会社を作っていたことにも影響を受けました。  

28歳で起業するために役立つ会社に就職しようと大学卒業後はオフィス関連事業を手掛けるイトーキという会社を選びました。「アメリカではオフィスや研究所にすごく投資していて日本もそうすべきだ」という社長のビジョンに共感したからです。日本のそれまでのオフィスはグレーの机が並んでいるといったものでしたがアメリカは知的ワーカーの戦略的情報発信基地だと捉えていた。それを日本でも作っていくと社長がずっとおっしゃっていたんです。  
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配属されたのはプロジェクトを中心に担当する部署でした。電通本社の移転やフジテレビのお台場移転などに関わりました。社長がプレゼンするシーンに同席したり重要な意思決定の場に立ち会ったりという経験ができました。  

その後課長職として子会社に出向したところ「社長になったつもりで責任を持ってやってみろ」と言われました。26~28歳のこの2年間はいい経験と勉強をしたと思います。赤字の会社を黒字にするビジネスモデルを変えるという2つのミッションがありました。「何をやってもいいからお荷物の会社から脱皮をさせろ」ということです。全員年上の社員の中で経営計画の立案はもちろん銀行との交渉やリファイナンスそしてリストラまでやりました。
結果的には黒字になりビジネスモデルも変えることができイトーキに戻ることになりました。でも社会人として何がやりたいかと考えた時に自分で起業したいという夢が忘れられなかった。それでイトーキを退職したのです。  

とはいえ今までは目の前のことをやっていただけですから起業するにもネタがありません。それで前々から興味を持っていたホスピタリティビジネスをもっと勉強したいと考えました。1993年に設立されたホテルやレストランを展開するPlan・Do・Seeという会社の創業時にジョインし2年間スタートアップビジネスと業界について勉強しました。
原:そこで満を持してポジティブドリームパーソンズの創業となるわけですね。
杉元:当初は結婚式事業をなかなかうまくできない会社のコンサルティングをやったり結婚式事業で養ったホスピタリティでパーティをオーガナイズしたりしていました。その後は地方でうまく使い切れていない遊休資産を企画・運営するといった再生の仕事が増えていきました。次第にいただける案件も多くなっていきましたが同時に自分たちが抱える市場環境はいずれ人口減少というステージを迎える。このまま結婚式事業だけを柱にしていくのかもしくは一度関係性を築いたお客様にリピートしていただけるようなグラウンドを創っていくのかという分岐点でした。  

新たに注力する事業をレストランにしたポイントは結婚式事業の半分が食事に関することだからです。飲食を提供できるリソースを有効活用しようとするとレストランがベストになる。さらにレストランのビジネスはスケールアップだけでなくコストダウンにもつながります。
原:そこからホテルを展開していくわけですね。
杉元:今はホテルは1ヵ所のみですがレストランやウェディングの既存ビジネスを頑張りながら宿泊ビジネスをやっていきたい。ホスピタリティを発揮しやすい領域だからです。それにはデザインホテルがいいと思います。海外に行くとホテルに対してビジネスの利便性や価格の安さだけではなくアート性や音楽といった感性を求めるユーザーが増えている気がします。ウェディングで得たヒト・モノ・カネ・チエ・ノウハウをホテルにもつぎ込むことでホスピタリティビジネスを進化させていきたい。

感動で満ちあふれる日本を創る

原:感動やホスピタリティを提供しながら生涯顧客化していく長い付き合いのモデルですね。
杉元:そうです。ウェディングビジネスは顧客人口が減っているだけではありません。披露宴の実施率も52%にまで減ってきている。つまり残りの48%の人たちは籍だけ入れて終わりなんです。だからご縁をいただいたお客様にはできるだけ長く付き合っていただけるようにしたい。
原:そうしたプランを実現していくときの一番のポイントはどのあたりだとお考えですか。
杉元:ヒト・モノ・カネの中でもやはりヒトの部分が重要になってくるでしょうね。弊社では今「ネクスト10(テン)」というプロジェクトを掲げて次の10年を考えています。現在の年間200億円の売上をどう上げていけるか感動提供企業として本当になくてはならない会社になるにはどうすべきか。そのためには売上1,000億円ぐらいの企業規模がないと世の中に大きな存在感は示せない。経営チームやミドルの人たちも今までの延長線上でやっていたらダメで考え方を変えなきゃいけない。ミドルマネジメントに対して経営能力を高めるようなトレーニングや機会を与えてさらに決裁権限も付与していくべきでしょう。ビジョンを実現していくためには次の経営を担う人を作っていかなければいけない。顧客との最前線にいるメンバーにも「PDPを背負っている」という意識を持ってもらわなければいけません。社員たちがこの会社で頑張ることに誇りを持っているかが重要でそうしたロイヤリティをより高めていく仕掛け任せるべき人たちに任せることをやっていきたい。僕がやっていた「経営行脚」などでの説明やコミュニケーションの機会を他の人に任せていくことも考えています。  

「顧客感動度」という我々なりの指標があるんです。86点を超えるとお客様にもう一度来ていただける確率が高まる。ほかの方にも勧めてくださるんです。ところが80点ぐらいだと「うーんまあいいね」と言われる。だから86点を超えるホスピタリティを提供しなければなりません。「感動で満ちあふれる日本を創ってゆく。」というビジョンを実現するためにさらにチャレンジしていきたいと思っています。
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HARA'S AFTER
人口減少時代の日本の内需型ビジネスではみんなが成長できる時代は終わった。競争戦略を高めシェアを拡大し国内外の拠点展開などで商圏を拡大し新たなビジネスに多角化する……といった方向性が成長の道である。 

同社の戦略は時代をにらんでおり多くの内需型企業の参考になるだろう。「感動創出力ホスピタリティの高さ」という強みを明確に意識し結婚式という人生最大のイベントでの顧客関係を活かす経営書のお手本のような展開だ。生涯顧客を獲得していく戦略もマーケティングの王道戦略である。戦略が明確なだけにあとは実行力が勝負。社員とのコミュニケーションを最大限に取りながら一体感を創出し事業を前に進めるというやり方を推進している。 

サービス業が価値を生み出すのは顧客と対応するサービス提供の現場であり経営のイズムを理解し共感した現場のメンバーがその体現者となるからだ。杉元社長の経営とはセオリー経営であり人を活かすエンゲージメント経営でもある。同社が目指すようなホテルが増えることを願いたい。

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