一人ひとりの「なりたい自分」を実現する
教育事業、人材ビジネス、そして実業展開という独自のモデルで成長実現

2019‐04Umano11_ヒューマンホールディングス_佐藤様

ヒューマンホールディングス株式会社 代表取締役社長

佐藤 朋也さん

Profile
1963年、兵庫県生まれ。関西学院大学商学部卒業後、日興證券株式会社(現SMBC日興証券)、会計事務所勤務を経て、1991年、父親が創業したザ・ヒューマン株式会社(現ヒューマンアカデミー株式会社)に入社。会計や管理部門を整備し、成長企業の基盤づくりに注力する。教育事業から人材ビジネス、介護、ITなど実業に進出するモデルの経営基盤を盤石なものとした。2002年、ヒューマンホールディングス株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。海外展開などを成し遂げて、グループ経営での成長路線に邁進中。
HARA'S BEFORE
教育は社会において重要なイシューだが、これまでは義務教育や若者への教育が中心に語られてきた。しかし、人口減少社会を迎え、平均寿命が伸びた現在では生涯教育や学び直しという捉え方が求められている。
 
1985年の創業以来、教育事業に取り組んできた同社は、人材ビジネスにも進出、介護や保育、ITなどの実業も展開し、独自のビジネスを創り上げている。カリスマ的な創業者を2代目として支えてきた佐藤社長に、企業経営はもちろん、ベンチャー成長の過程、グループ経営、後継者としての組織づくりなどを尋ねてみた。

「いつでも人がまんなか」

原:人材関係のビジネスを広く手がけていますね。
佐藤:我々は教育を中心に、介護や保育など、さまざまな事業を展開しています。それぞれが単体の事業というだけではなく、「すべてが人や教育中心につながっている」、「いつでも人がまんなか」というのがコンセプトです。もともと、保育事業も人材教育のためにやっているんです。
原:まさに、「ヒューマン」という社名の通りですね。グループ戦略と位置づけて事業を展開されている。
佐藤:1985年の創業当時は教育事業から取り組み、その直後の1988年に人材関係の事業を始めました。創業者である父が、「教育事業とは教育を提供して終わりではなく、職業に就くところまで面倒をみるべき」と考えて、多角化が始まりました。
  
1997年に介護保険法が成立すると、介護事業にも着手しました。当時は介護という新しい産業に対して、世間からの注目度が非常に高かった。教育事業から介護という新しい商流ができると考え、対応していきました。 
 
ただ、介護講座や研修を終えた修了生をどう就職に送り出すか、という問題がありました。当初は他の介護事業者に人材を送り出していましたが、展開の荒い施設も少なからずあり、不安な面もありました。だったら我々が受け皿となって、就職するにふさわしい事業を起こしたほうがいいと考えたのです。そして同様に、保育、美容、ITと展開していきました。
原:教育、人材、介護、保育、美容、スポーツ、ITとまったく違う業界に進出する難しさはありませんでしたか。
佐藤:たとえば、保育事業にしても、事業プランをきちんと立てて、しっかりした経験者になっていただくことで、実現してきました。さらに実業を手掛けることで、優秀な保育士を育てることにつながるというメリットも非常に大きかった。 
 
日本には、労働人口の減少という大きな問題があります。我々はこれを、教育事業のシナジーで解決しようとしています。人材事業では国内企業に人材を紹介・派遣していますが、日本には十分な数の人材がいない。
そこで、海外の技術者に日本語を教育し、日本の企業で活躍してもらうビジネスモデルをスタートしました。 

インドネシアでは保育事業をやっているのですが、日本のノウハウを使って現地の方たちの教育に取り組んでいます。中国やタイ、インドネシア、ベトナムでは、日本語を教えて日本企業で働いてもらうという展開をし、インド、北欧などでは事業提携をしています。  

日本語講師養成講座は国内で行っていますが、そのシェアはトップです。外国人に対応する日本語学校経営でも国内トップクラスであり、この2つの強みを活かして海外展開をしています。
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教育事業という強みを活かす

原:教育と事業が、常に対になっているんですね。こうした事業展開をしている企業は他にもあるのでしょうか。
佐藤:分野に絞った単体ではありますが、複合的に行っているのは当社くらいでしょう。教育産業は国内で展開しているだけでは、少子化で生徒の確保が難しい状況です。当社ではさまざまな講座を展開しているため、規模の経済性の原理が働きます。
  
たとえば、介護の講座を受けたい方にも、それに関連した講座を紹介しています。現在、特に力を入れているのがITですが、就職・転職のためのキャリアスクール、資格のためのライセンススクール、趣味のためのライフスタイル分野という合わせて4分野で展開しています。
原:教育事業での強みと、それを活かした成長はどのように行ってきたのでしょうか。
佐藤:強みは、やっぱり全国展開しているところです。もう一つは、eラーニング(webRTC)の導入です。地方の人でも映像で授業を受けられたり、リアルな教室の中でもVODで授業を行ったりしています。 
 
当社がここまで伸びてきた要因は、やはり創業者の力量・営業力だと思います。創業者が営業出身で営業に注力しましたが、当時は教育分野で営業に力を入れているところは、あまりありませんでした。教育事業を始めてすぐに、人材ビジネスにも進出したことが大きいですね。 
 
人材ビジネスで差別化を図る部分は、実は「人材」ではありません。登録されているスタッフの方々は、複数の派遣会社に登録していることが多いので、差別化を図るポイントは営業力になります。 
 
あとはスタッフの方々へのイメージづくりです。当社の場合は教育事業から出発しているためイメージが良いのです。 
 
分野が多岐にわたってくると、目が行き届かなくなる部分が出てきがちですが、当社は教育事業中心にそれぞれの分野を展開しているので、シナジーを効かせることができます。教育事業で人を集めて、人材事業で企業で活躍してもらっています。

顧客の「なりたい自分」を実現する

原:教育を受けてから、仕事に就くことをサポートしてもらえるのはありがたいですね。
佐藤:「就職保証講座」みたいなものです(笑)。世の中、変化してきていると思います。たとえば、RIZAPさんの「結果にコミット」が受けた理由は、ほぼ24時間ついてくれるパーソナルトレーナーがいることだと思います。入会者がジムにいる時間は限られているので、家でやってもらわなければ結果は出ない。そこでトレーナーは、食事などについてのアドバイスをメールで送り、それをチェックすることで結果が出るのです。

もう一つ、面白い事例は「日本初!授業をしない」を掲げている武田塾さんです。入塾の際にテストで学力を調べ、それに応じてどの問題集を使い、どんなペースで勉強するのかといった学習設計をするんです。今の実力に見合った勉強をしてもらい、回答をチェックして、わからないところは教える。だから、授業がいらない。そういったサービスが重要で、授業だけでは差別化は効きません。
原:経営ビジョンとして、「SELFing」という言葉を掲げていますね。
佐藤:我々がやり始めているのは、「うちのブランドがバリュープロミスとして社会に約束していることは何か」ということの追求です。それを「SELFing」と定義しています。「自分自身(self)」に「ing」を付けて、「なりたい自分」を一緒に明確化し、そうなるためのプロセスを一緒に考え、我々がサービスを提供する。お客様の「なりたい自分」というものを明確にすることがスタートです。 
 
たとえば、ネイル講座を受けて、起業したい方がいるとします。独立のためには何が必要なのか、目標設定のためのマンダラチャートというものを使って、ネイルサロンを開くのに必要な接客、コミュニケーション、経営のいろは等を個人個人で明確化します。それを設計して、サービスとして提供するのです。

このマンダラチャートによる自己実現の取り組みは、4月から社員に対しても行っていきます。優秀な社員は、自分の目指す像を明確に持っていると思います。ただ、自分がどうなりたいかが明確でなければ努力しないし、失敗したり、大きなハードルがあったりしたときにくじけてしまいます。
原:「SELFing」という言葉はとてもしっくりきます。教育はコンテンツの質が勝負でしたが、個人にとってのバリューが勝負になるということですね。
佐藤:我々はいろいろな講座を作るスキルがありますから、ネイルサロンの開業を目指している方に簿記を教えることもできます。こういったことは他社にはできません。最終的には、「為世為人」(世の為人の為)という、当社の理念に帰結するものなのです。

2代目として管理部門で会社を支える

原:2代目として会社を受け継ぐまでの経緯を教えてください。
佐藤:父が会社を創ったのは昭和1985年で、僕は大学4年生でした。会社を継ぐといったことは考えていなかったんです。家に帰ると「資金繰りが大変だ」とか、「金が足りない」とか言っているので、こんなところに足を突っこんだらたまらないと思っていました(笑)。その一方で、自分も何か事業をしたいと刺激を受けていました。 
 
そして大学卒業後には、会社経営が覚えられそうだと思い、日興證券に入社しました。求められる成果も高く、5月に新入社員の研修があり、その半年後くらいに成功事例の発表会があります。預り運用資産で10億円以上を決めてくる同期もいて、「俺も頑張らなきゃ」と思っていました。
  
ところが、ある学校法人から毎月5,000万円の信託を決めて、プレッシャーから少し解放された頃に、父親から「手伝うか」と声がかかったのです。そこで会社を辞めたのですが、退職日が日経平均史上最高値の日でした(笑)。
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その一方で、自分も何か事業をしたいと刺激を受けていました。 
 
そして大学卒業後には、会社経営が覚えられそうだと思い、日興證券に入社しました。求められる成果も高く、5月に新入社員の研修があり、その半年後くらいに成功事例の発表会があります。預り運用資産で10億円以上を決めてくる同期もいて、「俺も頑張らなきゃ」と思っていました。
  
ところが、ある学校法人から毎月5,000万円の信託を決めて、プレッシャーから少し解放された頃に、父親から「手伝うか」と声がかかったのです。そこで会社を辞めたのですが、退職日が日経平均史上最高値の日でした(笑)。
原:その後、会計事務所に入られますね。
佐藤:父から「会計を勉強してこい」と言われ、1年半ほど会計事務所で働きました。  
その後、ザ・ヒューマンに入社し、さまざまな部署を経て、経理に配属されたのですが、会計事務所の経験はそこで生きましたね。資産表を見たら預金も現金もマイナスという、ありえない状態だったんです。伝票がきちんと発行されていなくて、帳簿と領収書が合わされていない。売上規模100億円ほどでしたが、内容はガタガタでした。 
 
そこで創業者が行ったのは、不動産の購入です。当時はバブルだったので不動産を買い、それを担保にして中央にどんどん展開していきました。創業者は教育に営業を持ち込んで、いろいろなマーケットに参入できました。バブルという時代が後押ししてたんですね。人材派遣という事業を選んだのも大きかった。その先見の明は、データに基づくものではなく、いわゆる嗅覚だと思います。 
 
男女雇用機会均等法が施行され、女性の社会進出がうたわれた時代でもありました。講座の受講生はほぼ女性で、インテリアコーディネーター、フラワーコーディネーターなど、新しい資格が一気に出てきました。女性活躍という時代の流れもあり、成長できたんだと思います。
原:創業者が偉大なだけに、葛藤もあったのでは?
佐藤:父は、勘や営業で勝負してきたのでしょうね。その勘の部分は、僕にはよくわかりません。むしろ、僕は主にデータを利用した経営スタイルです。
  
営業は大切ですが、それ以外でも売れる方法はあると思っています。いわば、マーケティングですね。それに注力していると、営業にはスポットが当たりづらいのですが、結局は営業力がある会社が勝つ確率が高いと思います。 
 
ただ、父と同じところでやると喧嘩になってしまうので、創業者と2代目が補完的にやらないといけませんね。バランスシートが課題だらけだったので、私はその内部固めをやってきました。 
 
教育機関は授業料や入学金を4月に受け取りますが、本来は授業の役務提供の都度、売上を上げていかなければならない。それを分割ではなく、一括で計上するものだから、売上の伸びが急成長でも資金的にはどんどん減って、税金も前払いしてしまうんです。 
 
資金繰りは厳しくなっていて、社員への給与の遅配も起こっていました。経理には業者から請求の電話がいつもかかってきていて、これはまずいと思いました。数年かけて立て直しました。

教育とITで「世の為人の為」に

原:今後の戦略としては、バリュープロミスを推進するということでしょうか。
佐藤:ビジネスモデルをしっかりと形にして、広げていこうと考えています。日本の抱える大きな問題は、労働人口減です。

一つの解決策としては、個人の生産性をいかにアップさせるか。そのためには、教育やITが必要です。当社グループでは、RPAツール「WinActor」のライセンス販売や、提供元でもあるNTTデータと協業し、有効活用のための教育支援などを行っています。IT事業を通じて個人の生産性を上げ、社会に貢献していきたい。また、海外の技術者に日本語を教えて、日本で働く人を増やしていきます。

海外戦略はジャパンプレミアムコンテンツの展開として日本語学校もその一つですが、ロボット教室も開講しています。ロボット教室は国内では1,451教室ほどあり(2019年1月末現在)、プログラミングもやっていますが、海外でも非常に人気があります。WebRTCを用いてオンデマンドでの講座を行っています。 

フランスではアニメの学校をやっていますが、日本のコンテンツでグローバルに価値があるものについては、どんどん海外展開をしていきたい。 

こうした事業を通じて、「世の為人の為」になりたいと強く思っています。
HARA'S AFTER
同社の成長を管理系を中心に支えてきたのが、佐藤社長の手腕である。カリスマ創業者と、バランス感覚ある2代目。技術進化が激しいだけに人間のあり方が問われるようになっている現在、人づくりをコアとした同社のモデルは最強と言える。「SELFing」というコンセプト、社員からスタートということもうなずける。 

教育→就職→実業という流れはとても自然な展開で、さまざまなモデルへの展開や、各方面との連携も可能だろう。これからどのように進化していくか、佐藤社長の経営に注目したい。

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