2018‐04経営者179_アビタス_三輪様

「国際資格の専門校」としてグローバル化とIT化で
教育ビジネスの新たな分野を切り拓く経営者

株式会社アビタス 代表取締役

三輪 豊明さん

大学卒業後、大手の証券会社、通信機器メーカーを経て、海外勤務を経験。退社後米国公認会計士を取得する傍ら、U.S.エデュケーション・ネットワーク(現・アビタス)を設立。「国際資格の専門校」として資格取得コースを増やし、独自のグローバル展開で教育ビジネスの新境地に挑む経営者に話を聞いた。
Profile
東北大学在学中に米国に留学。卒業後、大手証券会社、大手通信機器メーカーを経て、米国公認会計士を取得。1995年、資格取得支援のU.S.エデュケーション・ネットワーク(2008年より現・アビタス)設立。資格取得のコースを増やすと同時に、人材事業、日本語学校など幅広く手掛けている。

米国公認会計士をはじめ複数の資格取得を支援する

— 米国公認会計士の資格取得支援を主とした事業を展開しているそうですね。
当社ではビジネスパーソンを対象に、欧米の専門資格や学位を取得するための独自のプログラムを提供しています。米国の専門資格に強いところが優位性になっていますが、その中心となるのは、創業時から取り扱っている米国公認会計士(U.S.CPA)です。それ以外には主に監査部門向けのプログラムである公認内部監査人(CIA)や公認情報システム監査人(CISA)を扱っています。
 
会計分野以外では、マサチューセッツ大学MBAをeラーニングで提供し、忙しい中でも効率的に学習してもらえるようなプログラムも行っています。米国の資格が中心ですが、受講生のキャリアデザインのニーズに応えるために、人材紹介の事業も行っています。主には、U.S.CPAを取得された方を「BIG4」と呼ばれる世界の4大会計事務所(アーンスト&ヤング、デロイト・トウシュ・トーマツ、KPMG、プライスウォーターハウスクーパース)の日本法人へと紹介しています。
 
つまり、教育事業と人材事業が2本の柱です。当社の特長は、U.S.CPA、CIAといった国際資格にフォーカスしつつ、複数の資格を網羅的に取り扱っている点です。複数の海外資格について、ここまで総合的なサービスを展開しているところはありません。
— 中国人留学生を支援するビジネスも最近始められたと伺いました。
海外の資格を取得するという「日本から外へ」の流れの事業をやりながらも、逆の視点でのインバウンド、つまり「海外から日本へ」という流れにも大きな需要があると考え、2011年には外国人向けの日本語学校を買収しました。このようにインバウンドとアウトバンド、双方向の取り組みを行っているのも当社の特長です。
 
また、中国人向け日本留学試験準備校として「シーダム」という会社を設立しています。外国人が日本に留学する目的は、実は国によって大きく異なっています。特に中国の方は、日本の一流大学・大学院に進学したいという明確な目的を持っていますから、留学生向けのセンター試験である日本留学試験(EJU)の対策にニーズがあると思いました。
ー 人材紹介事業のサービス対象は、あくまでも貴社で資格を取られた方々なのですか。
アビタスで資格を取得された方が6割程度で、残りの4割は外部の方です。経理・財務に強みを持った人材を紹介しているのですが、必ずしもU.S.CPA保有者というわけではありません。U.S.CPAを学習される方の中で、現在の勤務先で経理や財務を担当されている人も少なく、受講生全体の3割を切っています。むしろ、総合商社に勤めている営業部門の方などが多いですね。最近の商社はトレーディングよりも事業投資を行う傾向が強く、アカウンティングやタックスなどの会計知識が必要とされているからです。
 
「米国公認会計士」というと難しいイメージがあるかもしれませんが、全米での合格率は5割弱ほどに達しています。2011年から日本でも受験できるようになり、日本人の合格率は4割弱といったところですね。米国人と比べると、やはり英語のハンディキャップがありますから10ポイントほどの差はつきますが、日本の会計士ほどの難関試験ではありません。
ー 起業の経緯について教えてください。
大学卒業後は大手証券会社に就職したのですが、学生時代に留学した経験もあり、いずれは海外で働きたいと考えていました。証券業界を選んだのは、金融機関ならば、さまざまな業種の企業と接点があり、広くビジネスを知ることができるだろうと思ったからです。
 
証券会社には2年ほど勤めた後、早く海外へ出たいとの思いから、上場企業である大手通信機器メーカーに転職しました。
 
私が勤めた会社は当時、製品はアジアで100%生産し、米国、オーストラリア、ヨーロッパで販売するという独自のビジネスモデルを持っていました。日本の本社で経営企画的な部署に就いた後、念願の海外勤務になり、米国のダラスで営業管理の仕事をしました。その後は香港の中国工場向けの部品調達センターへ、さらに北京に転勤して、携帯電話の販売に携わりました。
ー グローバルというご自身のキャリアの軸をしっかり実現されましたね。いつかは起業するという意思があったのですか。
漠然と「自分で会社を作ってみたい」と思っていましたが、しっかりとした専門的な知識などベースになるものがなければ起業は難しいと考えていました。証券業と製造業でいろいろな業務を経験した一方で、自分の専門分野を持てていないという思いがありましたね。しっかりとした軸を持ちたいと、32歳の時に米国公認会計士を取ろうと決意しました。
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会社を退職してから4ヵ月間、家にこもって勉強に集中しましたが、当時は米国の会計を教える学校はほとんどありませんでした。国際会計基準が世の中で話題になっていたので、勉強しながら「U.S.CPAへの需要があるだろう」と感じていました。私自身も人にものを教えることは嫌いではなかったので、U.S.CPAを教える組織を作ろうと思って、実はこの時から会社の設立を考え始めたのです。
 
試験では4科目中3科目合格し、さらに半年、勉強して残りの1科目も合格しました。試験が終わったときには合格する手ごたえがあったことから、発表を待たずにアビタスの前身となる会社の登記を終えていました。パンフレットも作成して、事務所も借りて準備を整え、合格通知を手にした直後には、すでに営業活動を開始していました。
 
もっとも、最初は13坪の事務所で社員は私1人だけ、という状況でしたけど(笑)。

飛躍できたのはコンピュータ対応が早かったから

— 起業後は、どのようなことに苦労されたのでしょうか。
お客様を呼ぶ面では順調でしたが、むしろ社内のオペレーションがそれに追いつかなかったことが大変でした。成長の過程では試行錯誤の連続でした。今でこそ、eラーニングは一般化されていますが、昔はVHSが一般的で、それがDVDに変わり、さらにeラーニングへと、技術の進化に応じて教育サービスの提供手段も変わってきました。私たちは他社と比べて、より先進的なテクノロジーを積極的に取り入れていく必要があると考えています。
 
試験そのものも2004年からコンピュータ試験に変わりました。私たちのような学校のカリキュラムも、受講生のためにいち早くそれについていく必要があります。U.S.CPAだけを取り扱う競合他社もありますが、私たちが飛躍できたのはコンピュータ対応が早かったからだと思いますし、それが転機だったかもしれません。

U.S.CPA試験は2011年から米国外での試験が開始されましたが、具体的には日本、中東の数か国、そしてブラジルで実施され、さらに中国やインドでの将来の展開を見据えて調査が始まっている段階です。このように、米国公認会計士協会(AICPA)はU.S.CPA試験のコンピュータ化やグローバル化を積極的に推進しているので、その改革に追いついていくことが重要です。AICPAには「試験にもイノベーションがある」という価値観があるように思います。
 
明らかに日本の試験制度よりもIT化への取り組みが早いのです。試験では記述式で解答する問題もありますが、それもU.S.CPAでは機械が判定しているのだそうです。もちろん、人間のチェックと併用のようですが、その取り組みは先進的です。AICPAの人と話をしても、イノベーションが大事なのだという意識が私たち日本人よりも強く、そういった面では一歩進んでいると感じます。
— U.S.CPA試験のグローバル化やIT化が追い風になったのですね。
はい。主要国は独自の会計ルールを持っているわけですが、ビジネスのグローバル化に伴い、会計基準を収しゅうれん斂していく動きがあります。その中で、U.S.CPAもグローバルに展開し、世界中の人に資格を取得してもらおうとしているのです。会計ルールの変更が資格に与えている影響は大きいと思います。
 
日本の上場企業の中ではIFRS(国際会計基準)をすでに適用している会社は140社で、これから適用することを決めている会社は24社です。合計で164社が採用しているわけで(2018年2月時点)、今後はどんどん増えていきます。東京証券取引所を見ても、投資家の6~7割は海外投資家が占めているはずですから、IFRSで開示することの重要性は高いと思います。

診断士には英語で決算書を読める力も求められている

ー 上場企業でIFRSを適用している企業はまだその程度の数だということは、これから伸びていく可能性は大きいですね。
国際会計基準と米国会計基準は異なるものですが、実はU.S.CPAの資格試験ではこの両方が出題範囲となっており、両者の差異を問うような問題も出されます。米国公認会計士協会の言葉を借りれば、「これからのU.S.CPAは、国際会計基準と米国基準のバイリンガルにならなければならない。両方の知識が必要になる」ということです。会計の知識を持ち、決算書を読める力が求められると思います。
 
中小企業診断士などもそうだと思いますが、決算書を作れる必要はなくても、読み取る力は求められます。日本語だけでなく、英語でも決算書を読める力を持つことが、日本の企業が海外事業で利益を生み出していくために必要ですし、個人としても活躍の場が飛躍的に広がると思います。U.S.CPAを取った方は監査法人に所属することも多いのですが、活躍の場はいわゆる会計業界には限定されません。ビジネス言語としての会計知識は、より幅広い分野で求められているのです。
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グローバルに対応し、中国本土での展開も視野に

— 今後の戦略についてお聞かせください。
重要なのは、IT対応とグローバル対応だと思っています。ITについては教室への通学とeラーニングの双方を用意して、併用できるようにしています。最近はeラーニングを使われる方が半数を占めるようになっており、さらに増加しています。電子テキストを導入して、紙を使わなくても学習できるようにしていますし、近い将来には問題演習をオフライン環境でもできる演習アプリもリリース予定です。
 
グローバル対応という点では、現在、U.S.CPAの生徒の6~7%が中国の方になっています。戦略系コンサルやメガバンクで働いているような優秀な人たちで、U.S.CPAという英語の資格試験対策講義を日本語で受けているのです。それだけ資格というものに敏感なのでしょうね。
 
従来からインプットは母国語で行うべきと考えて日本語で講義を行っているので、今年の1月からは中国の方々に対しては中国語の教材を作成し、中国人講師を養成してサービスを提供し始めています。
 
ニッチな領域ではありますが、これから日本で働く中国の方は確実に増えていくでしょうし、U.S.CPAなどの資格を持ってBIG4で働きたいと考える方も増えていくと思います。
 
中国本土への進出はまだまだハードルが高いですが、その第一歩として日本国内で立ち上げ、次に米国などの中国以外にいる中国人、いわゆるOverseas Chinese向けのオンラインコンテンツを提供し、いずれは中国本土への展開も視野に入れています。
— 中国を柱とした展開をお考えだから、M&Aなども行われたのですね。
日本語学校の東京中央日本語学院は2011年に買収したのですが、当時は震災の影響で外国人の多くが帰国してしまうという状況でした。学生数は当時300名を切っていました。それが、今では約900名、そして1年後には1,000名を超える予定です。
 
中国人向けの大学受験予備校であるシーダムも関連会社です。中国は日本以上に受験戦争が激しく、学生は厳しい競争環境に置かれています。希望した大学に入れなかった人が日本の一流大学を目指すというケースもあります。このような方々を支援するために受験予備校を設立しました。これからも中国からの留学生は増加していくでしょうから、一定の需要を見込んでいます。
 
対面の座学の世界だけでは、ビジネスとして限界があります。新しいテクノロジーを利用して新たな学びの場を提供すると同時に、マーケットの規模としても海外へサービスを提供していくことを考えなければ企業として成長できないと思っています。
 
ただ、国ごとに資格取得のための勉強や考え方については、同じ面、異なる面、両方あるようです。資格試験を見る限りは、米国では会計士も弁護士も人数を絞るという考え方は日本に比べて薄いと思います。米国ではある程度の知識レベルがあれば合格させ、その後に競争があるのは当たり前という考えに立っているようです。それに対して中国の資格試験は日本に近く、会計士の試験も1%程度の合格率しかありません。このように、米国とアジアでは資格に関する考え方に違いがあるかもしれません。

需要をゼロから作り出し、世の中の役に立ちたい

— 最後に、三輪社長にとっての挑戦とは。
アビタスの前身となる会社を1995年に作ったときには、U.S.CPAを日本人が取得することは極めて例外的な、米国に駐在されている方だけが考えるような特殊なことでした。まさか日本で受験できるようになるとは思ってもみませんでした。
 
世の中に存在していないこと、世の中に認識されていない需要を自分の力でゼロから作り出していき、少しでも世の中の役に立っていけることができればいいと思っています。 

そういった意味では、「日本人のU.S.CPA取得」という当時なかった需要を作り出しました。「中国人向けのU.S.CPA資格取得講座を日本で行う」というモデルも、ほかにはないものだと思います。今まで世の中になかったものを新たに開発し、新しい道を作っていく。それが仕事として楽しいですし、やりがいも感じますので、今後も続けていきたいと思っています。
 
社会人が勉強するうえでの最大のハードルは、学習時間の確保でしょう。隙間時間をいかにして確保し、活用していただくか。さまざまなテクノロジーを駆使して支援したいと思っています。
 
教育のIT化への取り組みは、米国、アジア、日本のそれぞれが同じ土俵で新しいものの開発を進めているのが現状です。私たちは従来から、いち早く米国のオンライン教育の動きをキャッチアップするためにウォッチし続けていますし、これからも負けないものを作っていきたい。国境を越えて情報を収集し、フォロワーではなく、自らが最先端の取り組みをしていきたいです。
P21-52 後記Ph@
目からウロコ
グローバル化とIT化は間違いなく時代のキーワードだが、日本企業で双方にしっかりと取り組んでいるケースは、実はあまり多くないのではないか。しかも、日本人の国際化であるアウトバウンドと、外国人の日本化であるインバウンドの両方を行うビジネス展開もユニークだ。創業時より独自のマーケット展開で成長してきた三輪社長らしい戦略と思える。
 
「会計とはビジネスの共通言語である」とされているが、実態としては国ごとの基準の差があり、特に日本では「含み資産経営」や「株式持ち合い」といった独自の経営論がまかり通ってきた。そのような環境下で、米国公認会計士の資格取得支援というビジネスを立ち上げ、新たな市場と個人の選択肢を創出することができたのは、三輪さんの慧眼である。それは自らがキャリアデザインの一つとして資格を取得した時の経験から生み出されており、さらに新しい市場の確立へとつながっていったものだ。
 
資格取得を支援するビジネスは従来から数多く存在したが、グローバルとIT化への対応の早さが同社の成長につながった。まさに「ニッチトップ」という新興企業のセオリーを先進的に実践したわけだ。そして、米国とともに三輪社長が着眼したのは、もう一つの大国・中国である。日本に強い影響力を持つ米中の両大国をクロスさせているところにも独自性がうかがえる。今後どのような展開につながるか、注目していきたい。
(原 正紀)

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