2017‐08経営者171_ビザスク_端羽様

人の知見をスポットで活かすビジネスを創出
母として、起業家として、
大車輪で活躍する女性リーダー

株式会社ビザスク 代表取締役CEO

端羽 英子さん

外資系企業勤務、専業主婦、MBA取得など、劇的なキャリアチェンジを20代で経験。すべての働く人が、自分の強みを意識しながらキャリア構築できる社会を志向し、スポットコンサルティングサービスを展開するビザスクを起業。経済産業省の採択事業選出も経て、知見活用を広げる女性リーダーに話を聞いた。
Profile
東京大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。退社後、専業主婦、米国公認会計士資格取得、日本ロレアル株式会社勤務を経て、マサチューセッツ工科大学にてMBA取得。ユニゾン・キャピタル株式会社にて企業投資に携わった後、独立して株式会社ビザスク設立。

スポットコンサルティングで世界中の知見とつなげる

— まずは、ビジネスの現状について教えてください。
ビザスクは、スポットコンサルティングを通じて、企業や個人を世界中の知見とつなげるためのプラットフォームを構築しています。Webベースの個人間取引の「ビザスク」と、当社がフルサポートする「VQ」の2つのマッチングの方法を用意して、現状で約3万7,000人を超えるアドバイザーが登録されています。 

依頼者は、ビジネス課題を抱えた企業や個人の方です。アドバイザーの方が1時間単位で相談に乗り、課題解決のヒントを提供するビジネスモデルになっています。アドバイザーの登録は、創業当初は1日に1~2人くらいでしたが、現在は1カ月に2,000人くらいにまで増えています。 

登録者の属性は、年齢的に35~45歳の方が中心です。Web登録というサービスの特性から、創業当初は高めの年代の方の登録は少なかったですが、最近は特にセカンドキャリアを考え始められた方、50代手前や企業を退職された方に広がりつつあります。その約7割が現職世代の方たちで、残りが退職されたりフリーランスなどで独立されたりしている方たちです。 

アドバイザーには報酬が発生しますが、就業規則などで受け取れないのであれば、それを放棄して寄付することもできます。「いまの社会の枠組みの中で、まず何ができるか」というところから始まったのが、ビザスクです。 

スタート時、この事業には2つの壁があると指摘されました。一つは、副業禁止の壁です。もう一つは、日本人はシャイだから、先輩を差し置いて「自分はこれができます」などと実名では出てこないだろうという、いわば組織の壁です。
— 実際に、そのような壁はありましたか。
事業を始めたばかりの頃には、やはり多少は壁を感じたため、かえって寄付の仕組みをつくるなどの工夫が出てきました。Webサイトで、どのようなニーズがあるかを見えるようにして、「自分の知見が役に立つことがある」と気づいてもらえるように設定したこともあって、段々と変わってきたと思います。マッチングをフルサポートする「VQ」では、かなりニッチな内容のご依頼であっても、ほぼすべてのご依頼に対してアドバイザーのご提案ができるようになってきました。 

アドバイザーの方には、ご自身の強みを登録してもらい、依頼者はそれをWeb上で検索することができ、気に入れば「あなたに教えてもらいたい」というオファーが送れるようになっています。 

どのような強みや知見があるのか、具体性が乏しいとなかなか見つけてもらえません。公開されるタイプの案件もありますが、件数としては指名のほうが多いため、できるかぎり自身の経験や知見を具体的に書くことがポイントです。
ー 活用の可能性があるのに埋もれている知見と、ニーズのマッチングですね。
自らの知見を生かすためには、自分の強みが何かを自覚することが大切です。たとえば、会社内にいて、人事部に次のキャリアを考えてもらうのではなく、強みは自分で作っていくものだと思います。自分の強みを能動的に作って発信していけるプラットフォームが、ビザスクの理想です。 

意欲があっても、わかりやすい専門性がないから登録は難しいと思われている方もいらっしゃいます。そのような方にも強みを書いてもらえるよう、私たちは改善と工夫を繰り返してきました。たとえば、私たちはキャリアは掛け算だと捉えているため、タイトルが1行だったものを2つに分けて書けるようにしました。そうすると、「◯◯業界における◯◯」のように、キーワードが2つになって発見されやすいのです。
ー 当初とは、仕組みが変わってきているのですか。
そうですね、常に改善を重ねてきています。現在は開発陣を10人以上配置して、かなり気合いを入れて作っています。 

最初は、Web上でのマッチングだけを考えていました。それから、1対1ではなく、クラス型でもよいかもしれないと考えた時期もありました。一貫して変わらなかったのは、「ビジネスの経験を共有する」ということです。
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ビザスクのスタートは、知人のエンジニア2人と私の3人だけです。先ほどの「副業の壁」や「組織の壁」、そして「世代の壁」を越えてこのビジネスを成功させるためには、1時間など短時間でのマッチングであるべきだと考えました。そのモデルで、壁を越えて会ったこともないような人に話を聞くためには、テクノロジーの力が必要だと思い、エンジニアと組みました。しっかりとマッチングするためのプラットフォームを作るのはエンジニアの仕事、企業回りなど足で稼ぐのは私の仕事、という分担でした。 

そのうちに、資金を得るために経済産業省の事業に応募して、受託することができました。この取組みを事業として検証させていただけたことは、意義としてとても大きかったですね。プロジェクトの内容は、新しい人の活躍の仕組みについて、実証実験しようというものでした。そうして、「多様な人材活用を支援するための事業を受託しているビザスクです」とうたって多くの企業にヒアリングできたことが、現在の私たちのビジネスの根幹になっています。また、その事業のおかげで、私たちのお給料が初めて出るようになりました(笑)。

ビジネスモデルは「もったいない知見」の活用

ー これだけ事業の礎ができて、ビザスクで多くの雇用や起業支援が実現しているため、国の事業としても良い委託先選択でしたね。 
経済産業省からお金をいただいた1年目は、ひたすらヒアリングの日々でした。大きな会社に話を聞きに行けるようになって、Webサービスだけではマッチングしきれないニーズがあることに気づき、フルサポート型も必要であると思い始めました。 

実は、最初はもう少し女性向けのビジネスを考えていたのです。育児などでフルタイムの仕事を離れた女性が、「もったいない知見」を活かせるモデルです。しかし、事業を進めれば進めるほど、「もったいない知見」を有しているのは、男性が多いのではないかと考えるようになりました。2013年10月末に正式にサービスをスタートしたのですが、その時にはすっかり男臭いサービスになっていましたね(笑)。 

サービスを始めた当初は、人と人が出会うことに貢献できているだけで、面白くて仕方がありませんでした。そのうち、人の知見が大変貴重なデータであるとわかりました。いままでなかった知見のデータを我々が集積して、たとえば業務委託に近いイメージで、1時間よりもう少し長いプロジェクトタイプのマッチングを提案するなど、もっと人の活躍の幅を広げていけると思いました。会社側にしても、フルタイムの雇用でなく、1時間だけといったプロジェクト単位で知見を借りることができるのです。 

そうやってコラボレーションが生まれてくると、学びの機会も生まれてきて、働き方や事業の創り方、取り組んでいるテーマの大きさに気づきました。最初は「IPOを目指したいです」などと言わず、もっと緩く小さく始めたのですが、やっていることの意味に気づいてくるにしたがって、野心もチームも大きくなってきました。 

いまでは、社会に貢献できるサービスを、世の中にインパクトを与えるくらいにまで拡大していきたいと思っています。
— 2つのサービスでは、Webのほうがグロスは大きくなりそうですね。
Webでのマッチングもフルサポートでのマッチングも、どちらも大事な仕組みです。そもそも、1時間のスポットコンサルティング自体が新しいサービスだったため、最初はフルサポートのほうが先に伸びました。したがって、顧客も中小企業より大手企業が多かったですね。

フルサポートでは、あらゆる手段でアドバイザーを探すため、その過程でさまざまな人たちが集まってきます。その影響で、Webのサービスも花が開き始めた印象です。Web上の取引では、中小企業のオーナーやこれから起業したい人たちが主な依頼者となっています。たとえば、北海道で新しいコンセプトのアパートを建てようとしている方が、入居者の募集方法についてアドバイスを求めていたり、お弁当の宅配事業を始めた女性が、経営のアドバイスを求めていたりしています。私も時々アドバイザー役になり、資金調達やWebサービスの相談に乗っています。 

スポットコンサルティングは、これから先もさらに拡大していくと思っています。仕事を変えることなく、現在の自分の知見を広く活用したいというニーズも、着実に増えてくるでしょう。
— 新しい有望市場だけに、他のWebサービス会社との競争が激しいのではないですか。 
たとえば、Web上でやりとりされる匿名性のQ&Aサービスなどは、ライバルとは認識していません。ビザスクは、ビジネスの課題の解決を目的とし、その詳細をWeb上で公開するわけではないですし、クローズドであることが重要です。アドバイスの信頼性においても、実名であることの良さがあると思います。これだけのアドバイザーのデータベースを作るのはとても難しく、高い参入障壁になると思います。 

現在、明確なライバルはいませんが、当社が業界のトップである間に、どこまで圧倒的になれるかにこだわっています。真似は簡単にされるため、どこまでも先に進んでいなければならない。事業展開の方向性も、これと決めているというよりは、依頼者の課題をヒアリングして、アドバイザーができることを伺いながら進めているところなので、面白くもあり大変でもあります(笑)。
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いまの仕事に役立つ形で、二歩先の働き方を示したい

— あくまでも、メインはスポットなんですね。それでも、さまざまなニーズがふくらみそうですね。 
当面はあくまでも1時間のスポットをメインにマッチングしますが、それを5人のアドバイザーにお願いしたいという声もあります。多角的な意見を入手したいというセカンドオピニオンのニーズですが、新規事業の初期検討段階にある方に多いようです。もちろん、同じアドバイザーに何度もお願いしたいというニーズもあります。これはアドバイザーの3割を占める企業OBの方やフリーランスの方が生きてくる領域です。 

世の中が働き方改革の中で変わってきたら、本当に面白いことが起きるはずです。私たちは働き方を劇的に変えるというよりは、皆さんが受け入れられるような新しさをどう作っていくのかを考えています。あくまでも、いまのお仕事に役立つ形で、二歩先ぐらいの新しい働き方を示せればよいですね。 

働き方を大きく変えたい人に限らず、まずはビザスクに登録してもらいたいです。キャリアの棚卸しになりますし、現在の仕事の中でステップアップするためにも役に立つはずです。 

2年前に出た厚生労働省の『働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために』の提言書の中でも、2035年には人々の特技や知見のプラットフォームができていると予測されており、正にビザスクはそういう存在になれると思っています。 

定年退職になった瞬間に、「働き方が変わったから頑張ろう」と考えても、何の準備もしていなかったら、なかなか難しいものがあります。定年前から準備しておきたい人のために、ビザスクが支援することができたら良いと思っています。

自分の強みを意識し続けてきたことが、ビザスクにつながる

— 端羽さんのこれまでの軌跡を見ていくと、20代でのキャリアチェンジがとても劇的ですね。
東京大学在学中に結婚し、卒業後はゴールドマン・サックスに勤め、すぐに出産しました。退職後、米国公認会計士試験に合格し、日本ロレアルに勤めた後、アメリカのマサチューセッツ工科大学に留学してMBAを取得し、ユニゾン・キャピタルに入社しました。 

その時が28歳でしたから、そこまで20代での出来事ですね。しかし、その時々の目の前のことに一生懸命に取り組んでいただけで、自分で劇的に20代を過ごそうと思っていたわけではないのです(笑)。 

新卒でゴールドマン・サックスに入ったのは、配属部署を明確にしてくれたからです。当時からプロフェッショナルでありたいと思っていましたので、現在はその通りになった感じです。スティーブ・ジョブズさんのスピーチではないですが、振り返ってみると、これまでのすべてが点と線でつながっていると思います。 

先日、ビジネススクール卒業10周年の同窓会があって、ボストンに行ってきました。10年前を振り返ると、面白いと思ったことにチャレンジし続けてきたと、たまには自分を褒めてあげようという気持ちになりました(笑)。10年後に現在の私を振り返った時にも同じような気持ちでいられるよう、これからも全力で目の前のことに取り組んでいきます。 

計算し切る人生じゃなくてよいと思っています。その時々に、何がベストなのかを判断し、選択することが大切ではないでしょうか。幸い、私は自分の強みを意識する選択はできていたと感じています。 

結婚後、主婦になる選択肢もありましたが、英語と会計ができたら仕事が見つかると思い、資格を取ったらロレアルに就職することができた。アメリカに留学してMBAを取得したら、ユニゾン・キャピタルの仕事につながった。長く現役で働くために、自分の強みをずっと意識し続けてきました。そして、目の前のベストを選び続けてきた結果、現在のビザスクのプロジェクトにつながっています。

挑戦とは、毎日の成長の積み重ね

— 最後に、端羽さんにとっての挑戦とは。
私は、特に大きな挑戦をしようと意識していたわけではなく、その時々で自分のしたいことをしよう、そして、それにベストを尽くそうという気持ちでやってきました。挑戦とは日常的なものであり、毎日が挑戦であると思っています。 

夜、寝る前に一日を振り返って、「今日はよく頑張った」、「昨日より賢くなったような気がする」と感じられたことの積み重ねが、良い挑戦になっている気がします。 

しかし、時々は遠くを見ないと、何を目指しているのかがわからなくなります。私は、チームや友人とワイワイと話し合って、自分がどこに向かっているのか、考える時間を大切にしています。それ以外にも、本を読んだり、他の経営者・起業家の方たちと話をして刺激を受けたりして、最後には自分で考えます。 

たくさんのインプットの中で何かを決めるけれども、決めたこと自体が挑戦ではなくて、それに向かって毎日やっていくことが挑戦ではないでしょうか。毎日、毎日が小さな挑戦です。
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目からウロコ
とても時間的パフォーマンスの高いインタビューだった。限られた時間の中に、多くのことが凝縮されていた。質問に対して的確に、無駄なく、理路整然と語っていただけたからだ。スポットコンサルティングにおいて、1時間の中で多くの知見や情報を含めることが可能であると納得させられた。 

話の中で何度も強調されていたが、人は自分の強みを生かす挑戦を自ら選択していくことで、振り返ると自分らしい充実したキャリアが実現しているという、実体験からの言葉にはとても共感できる。ビザスクというサービスそのものが、そのような自律的キャリアデザインを目指す人々にとって、有効なサポーターとして機能するものだ。 

端羽さんの経営スタイルに、しなやかな中にある芯の強さを感じた。その時の環境・条件に対応して、着実に努力を積み上げて前進している。大きな構想にがむしゃらに突き進むのではなく、現状のベストをやり続けながら、未来を見据えて経営を行っている。 

実は、同じ感覚を抱いた経営者がいた。本シリーズで10年ほど前にインタビューしたテンプスタッフ創業者の篠原欣子社長(当時)だ。やはり、しなやかな強さを持つ女性起業家で、着実に事業を前進させ続けて、人材ビジネス業界で日本を代表する企業グループに成長させた。 

端羽さんが経営するビザスクが、どのような会社になっていくかも大いに刮目して注視していきたい。
(原 正紀)

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