2018‐07Umano02_絵本作家_お笑い芸人_西野様

「革命のファンファーレ」を鳴らし続けて
―新時代のネットワーク力を武器にするマルチタレントの発想の源泉

絵本作家・お笑い芸人

西野 亮廣さん

Profile
1999年、漫才コンビキングコングを結成。フジテレビのバラエティー番組「はねるのトびら」で人気を集める。その後、自ら描いた絵本「えんとつ町のプペル」幻冬舎が35万部以上の大ヒット、さらにマーケティングについて綴った著書「革命のファンファーレ」幻冬舎も15万部を突破。絵本作家、お笑い芸人、著述家、Webサービス主宰など、マルチに活躍する。
HARA'S BEFORE
お笑い芸人として若くして名を成した西野亮廣さんが、ビジネス界で多方面にわたって活躍する姿にとても興味を覚えた。タレントが知名度を生かして商売をやる図はこれまでも数多く見てきたが、西野さんの取り組みにはそれ以上のものを感じていた。ビジネスセンスというか、マーケティング感覚というか、卓越した何かが成果を上げ続ける原動力である気がする。それを聞くことができたなら、きっと多くの経営者やビジネスパーソンの前進につながるはずだ。

会員制オンラインサロンがビジネスの軸

原:今、世の中には「パラレルキャリア」という言葉が飛び交っていますが、西野さんご自身もマルチに活躍されています。現在、最もコミットメントが高い取り組みは何でしょうか。
西野:圧倒的に時間を割いているのは、オンラインサロンです。今、僕は絵本や映画のほか、Webサービスやスナックなどを展開しているのですが、すべては会員制オンラインサロンの「西野亮廣エンタメ研究所」が軸になっています。
  
サロンのメンバーは、僕が考えるエンタメの未来や、現在とりかかっているプロジェクトについて、野次馬的に見届けることもできるし、クリエイターとして参加することもできます。
言ってしまえばファンクラブのようなものですが、違うのは一方通行ではなく双方向ということです。僕がメンバーに情報を与えることもあれば、その逆もあります。 
 
月額1,000円の課金制で、現在は約7,000名が参加しています。デザイナーさんやエンジニアさん、弁護士さんや建築家さんなど、さまざまな職業の人が集まっていて、ちょっとした町みたいです。こういう僕を面白がってくれるような人たちなので、メンバーは濃いですね(笑)。僕がサロン内のコメントを見て、「あぁ、この人、いい感じだな~」なんて思えば、直接、連絡して、「次のプロジェクト、一緒にやりませんか」と声をかけることもあります。そういう意味では、やんわりとしたつながりで、いろいろな会社が集まっている感じですね。
原:そのネットワーク組織が、西野さんの活動の幅広さになっているのですね。そこで手掛けるプロジェクトには、どのようなものがあるのですか。
西野:サロンから生まれたWebサービスの一つに、オンラインギャラリー「プペル」があります。僕の絵本作品に特化したギャラリーですが、ここでは絵本のキャラクターおよび世界観をモチーフにした僕以外のクリエイターさんの作品を販売しています。 
 
その発想のキッカケは、多くの無名のクリエイターさんたちが、自分の作品を世の中から見つけてもらえずに苦戦されているのを知ったことです。光が当たる方なんてごく一部で、もっとチャンスがあったうえで判断されてもいいと思いました。どうすれば多くのクリエイターさんに光が当たるのだろうかと考えたときに、見つけてもらえる入り口を作ろうと考えました。 
 
僕の作品を題材にすることで才能に光が当たるのなら、僕の作品を使っちゃえばいい。
プペルの油絵やTシャツをデザインして販売してもいいし、プペルのぬいぐるみや編み物を作って販売しても構わない。そうすると、絵本のプぺルのファンの人がそっちに流れてくる。そこで、無名のクリエイターさんとプペルのファンの人を双方マッチングさせてあげるような仕組みを作っています。
  
それを可能にするために自分がやるべきなのは、絵本をもっと盛り上げて題材としての魅力を上げることのほか、すべての著作権をフリーにすることだと考えました。それにより自分の世界観を一人でも多くの人に届けることができるので、僕にも大きなメリットがあるんです。オンラインギャラリー「プペル」は、今年の夏前にはできる予定です。
原:そういったアイデアはご自身から生まれてくるのですか。それとも、ブレーンの方がいらっしゃるのでしょうか。
西野:自分でも考えますし、友だちと酔っぱらっているうちに「次はあれ、やろう」とアイデアが出てくることもありますね(笑)。

地方創生から考える

原:今はどういったことに興味があるのですか。
西野:僕は今、地元で絵本をテーマにした美術館を作りたいと思っています。そこで、光が当たっていないクリエイターさんや、おじいちゃん、おばあちゃんの雇用を作りたいんです。 
 
「地方創生」とはよく聞きますが、見ていたら失敗しているところが多いな、と感じました。その理由は大きく2つあると思っています。 
 
1つは、行政からの助成金をたやすく受け取ってしまうこと。地方でよく失敗しているのは、助成金だけもらって満足してしまう。ハコだけ作って人が来ない。大事なのはハコを作ることじゃなくて、作ったハコに人が来ることです。 
 
今、僕はクラウドファンディングをやっていますが、そこでお金を集めるのが主な目的ではなく、一緒に作る側の人を増やせば、思い入れのある人が増え、そのまま買ってくれる人が増えると思うからです。集金のチャンスは集客のチャンスになるので、それを逃すのはもったいない。僕が考えている美術館は、助成金などは受け取らず、民間の方々のカンパだけで作ります。 
 
2つ目は、僕の地元もそうなんですが、おじいちゃん、おばあちゃんばっかりで、「何とか若い人に来てもらって盛り上げてもらおう」といった考えに行きがちですが、それはあまり得策ではないと思っています。日本の若い人の数には限りがあり、かつ減り続けているので、A町が成功したとしても、その分、B町は苦戦することになる。若い人で町を回すという発想は、個別の町レベルではうまくいったとしても、国レベルではうまくいかないと思います。
  
そう考えると、引退したおじいちゃん、おばあちゃんに再度、第一線に立ってもらって、活性化の原動力になってもらったほうがいい。僕が考えている美術館も、その働き口にしてもらおうと思っています。

極端な才能は極端な環境ありき

原:芸人の枠から飛び出して、幅広く活動されている動機は何ですか。
西野:僕は、タモリさん、明石家さんまさん、ビートたけしさんが超好きなんですが、同じエンターテイメントをやっている身からしたら、いつか偉大なる先輩を超えてみたいという野心はあります。彼らを超えるにはどうしたらいいかと考えたんです。
僕は25歳くらいまで、先輩方が敷いてくださったレールを走ってきました。そこで1位になれたとしても、最初にレールを敷いた人をプッシュしていることになる。たとえば、テレビでは「踊る!さんま御殿」の番組で爪痕を残せば残すほど、さんまさんの需要が増えるだけなんです。こういうやり方では、先輩方を超えられないなと考えました。  

ファミコンで例えるなら、僕はソフトをずっと作っていたわけです。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」が売れれば売れるほど、ハードを作っている任天堂にもポイントが入る。任天堂を超えるにはハードとソフトの両方を作らなきゃダメ。皆がファミコンをやっているときに、プレステのような他のハードを作って、「こっちのほうが面白いよ」とやらなければ大きくは変えられない。それで25歳のときに舵を切りました。
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原:その後、芸人、オンラインサロン、絵本、著述など、すべてで成功されている印象です。
西野:いや、絵本も最初の3作はまったく売れなかったんですよ。でも3作目の後、「売ってやろう」と思うようになりました。それまでは「いいものを作れば売れる」と思っていたのですが、「ちゃんと売らなければ売れない」ことに気づきました。絵本でもビジネス書でも、「ちゃんと売るぞ」と覚悟を決めたんです。
原:その覚悟があったからこそ、ヒットを連発できたんでしょうね。『革命のファンファーレ』の中では「やりたいことをかけもちでやるべきだ」とも書かれていますね。
西野:僕たちのアイデアや哲学や運動神経は、環境が支配しているといわれています。たとえば、鳥は飛ばないと生きられないから羽が生えた。陸に上がった生物も、そこで生き延びなきゃいけないから手足が生えてきた。環境が先で、それに帳尻を合わせるように、後から能力や才能がくっついてきた。僕たちは生き延びるようにプログラミングされているはずです。できる、できないで考えていたら、才能なんて生まれてきません。 
 
元々、僕も絵本が描けるスペックがあったわけではなく、描くと宣言したからこそ、大急ぎで絵がうまくならないといけなかった。絵本で生きていこうと思ったから、大急ぎでどうやったら売れるのかと考えるようになった。Webやアプリを作っちゃおうって言っても、プログラミングなんてできないんですよ。でも、やるって言ったからには、できる人をつかまえてこないといけない。できるからやっているというより、言ってから身体の変化に期待する感じです。
原:やると決めたら、まず飛び込むと――。
西野:そうですね。基本的に、極端な才能は極端な環境ありき、環境が先、才能が後だと思います。やっぱり、やるっていうのが早いですね。 
 
前に、「ウォルト・ディズニーを倒す!」と言ったことがありましたが、ディズニーを倒せる見込みなんて最初からあるわけないじゃないですか。でも、言ったからには、目標として設定し、考えるようになる。そうなると、「ちょっと待てよ。この仕事や、あの仕事じゃ、ディズニーは倒せないぞ。この仕事に年間でこれだけ費やして、あれには何時間つぎ込んで……」と、時間割から見直していくようになりました。基本的には、自分を追い込むといいんです。
原:まずゴールを決めて、自分を追い込んで、後は行動あるのみ、と。そういったビジネス感覚はどこから学ばれたんでしょうか。
西野:本はある程度は売れないと認められず、次のチャンスをもらえません。そこに一度、体重を載せて活動してみて、やはり本は売らなきゃいけないんだなと気づきました。そこから、いろいろなことを試しましたね。自分が物販ブースに立って、本をどう並べて、動線をどう組んだら売れるんだろうとか考えました。
  
お客さんが何に反応するかを直に知るために、東京・お台場のビッグサイトでやっている「デザインフェスタ」のイベントに出店しました。自分でブースを設営し、商品を並べるのですが、やはり、商品の並べ方で、お客さんの並びが変わったり、出している点数でも売れ行きが変わることがわかり、面白かったですね。
原:自分で実践することの繰り返しで、西野さん流のノウハウができているわけですね。先ほどのクラウドファンディングについても、数字をクリアにされて本当に話題になりましたね。運営は難しくありませんでしたか。
西野:僕は結構マメなので、得意かもしれないですね。要は、一人ひとりに頭を下げてお願いをすることが得意なので、相性が良かったかもしれないです。
原:クラウドファンディングをはじめ、ビジネスの世界に大きな革命が起こっていますよね。それを感じて動いていらっしゃったのですか。
西野:基本的に直感なんですが、前にチームラボの猪子寿之さんに「西野さんはずっと考えている。直感の精度は考えている量に比例するから、どんどん鋭くなっている」と言われました。「これをやったら売れるな」、「これが次に来るな」と浮かぶのは、ずっと考えているからなんですね。それに子供の頃から実験が好きだった。「えんとつ町のプペル」を無料公開しようと決めたときは、すごく興奮しました。全部、実験なんです。理屈でも説明はできるけれど、無料公開したほうが絶対に売れると直感で確信していました。

「考えて実験する」それがビジネスの肝

原:本誌の読者はビジネスパーソンが多いです。これから起業をしようとしている方に向けて、西野さん流の成功術を教えてください。
西野:僕は、ビジネスも理科の実験みたいなものだと思っています。仮説を立てて、行動し、結果を見る。だから、理科が好きな人は向いているんじゃないですか(笑)。僕も理科は好きだったので。「これとこれを掛け合わせたら、こうなるだろうな」と思ってやってみたら、たまに予想と全然違う結果が出てビックリすることがあり、そのときは本当に興奮しますね。
原:面白いですよね。本の中で紹介されていた「スナック経営」や「しるし書店」のその後についても教えていただけますか。「スナック経営」はどうなりましたか。
西野:スナックは、飲食店なのに飲食を完全に無料にしました。これこそ、まさに実験です。無料にしても、家賃やスタッフのお給料は払わないといけない。じゃあ、どうするかってなったときに、スナックのファンクラブができました。月額500円で入会すると、非公開にしているお店の住所を知ることができ、オンライン飲み会にも参加できます。たとえば、北海道や鹿児島などで1人で飲んでいる人が、ここにアクセスしたら店に来ているお客さんたちと一緒に飲めるわけです。ほかにも、経営に口を出せる「株主ごっこ」もできるといった特典があります。
  
現在、メンバーは1,000人くらいですが、それだけじゃ、お金が回らない。無料なので、お酒をガバガバと飲んでゲロを吐く人もいます(笑)。この「お金が回らない問題」と「ゲロ問題」をどう解決するか。皆で考えて出てきたアイデアが、「1ゲロ罰金10万円」。今はゲロの売上で店が回っています(一同爆笑)。吐かれたら、皆でガッツポーズ、みたいな。飲食を無料にするという極端な環境にしたからこそ、出てきたアイデアですね。
原:「しるし書店」はいかがでしたか。
西野:しるし書店は4月にスタートさせました。誰でも古本屋を出店できるプラットフォームで、店主が読んでアンダーラインやメモなどの「しるし」を付けた本だけを扱っています。そこでは、1,500円の本が3万円で売れるようなことが起きているんですよ。つまり、店主に信用があれば、古本が定価より高く売れるわけです。 
 
そこで新たに生まれてきた職業が「読書屋」。古本を売って、その収益で食べている人です。僕が知っている限りでは、しるし書店の中で3人います。今後、読書屋さんは絶対に増えますよ。ロボットにも代替されないですからね。 
 
しるし書店では、店主は売れるし、お客さんは買えるしで、皆が得しています。次の手としては、出品した本にAmazonのリンクを張ってもらうことを考えています。しるし本は1冊しかないのですが、書かれてある説明を見て、その本の新品を欲しい人が出てくる。しるし本が売れてなくなってしまっても、Amazonに誘導することで、新品の本の売上にもつながります。 
 
今の出版業界が取りこぼしている問題は、本が古本市場で売られて、それを誰かが買ってどんどん動いているのに、そのお金が出版社に入っていないことだと思います。転売されればされるほど、出版社や著者にお金が入ったほうが業界全体が活発になるはずです。しるし書店では、たとえば、売れた古本の売上の0.5%がその出版社に入る仕組みなども考えています。そうすると、出版社も著者も得をする。 
 
三方良しと言っちゃうと「いい人」みたいに見られますが、実際、三方良しにしておくことが最大の防御策なんです。全員を得させたら、敵がいなくなる。「こいつを潰したら、あなたが損しますよ」という状況を作ったほうがいい。

信用とコミュニティを持つ人が次の時代を握る

原:オンラインサロンの会員は、どんな推移で伸びているんですか?
西野:今年1月にリニューアルしましたが、今の勢いだと年末には1万人くらいになると思います。起業家の方は、オンラインサロンをやったほうがいいと思いますね。これからは信用とコミュニティを持っている人が、間違いなく時代を取るでしょうから。
原:どうやってメンバーを増やしていったんですか?
西野:サロンは月額課金制なので、メンバーさえ増えてくれれば、僕の本の印税やタレントとしての出演料を宣伝費などに回すことができます。去年、著書の『革命のファンファーレ』を全国の図書館に無料で配布したら、ニュースになって「面白いことをやってるな」とサロンに入る人が増えました。本の印税が入らなくても、そっちが増えるなら問題ない。
原:その仕組みは面白いですね。ビジネスの世界での「革命のファンファーレ」が聞こえてきました。西野さんが人生で目指しているものって何でしょうか。併せて、これからのビジョンもお聞かせください。
西野:地球で一番面白くなる! これに尽きます。今のところ、目指すはウォルト・ディズニー。場合によっては、スティーブ・ジョブズですかね(笑)。
原:どうして、そう思われたのですか。
西野:女の子とディズニーランドに行ったとき、その子が「ミッキーだ、ミニーだ!」と騒いでいるのを見ていたら、だんだん悔しくなってきちゃって(笑)。それで、この嫉妬をなくそうと考えたら、それを超えるしかないな、と。なので、今は一番面白くなるために、やらなければならないことを片っ端からやっているところです。
原:これからの具体的なビジョンはお持ちですか。
西野:次にやりたいのは映画ですね。今、「えんとつ町のプペル」のアニメーションを作っているんです。絵本では「あきらめなければ、夢は叶う」なんて教訓めいたことを書いてしまったので、自分でやって見せたほうがいいと思っています。前に「ディズニーを倒す」って言ったとき、笑われて「アイツ痛いなぁ~」と言われているのを皆が見ています。でも、本当にできるということを、子供たちに見せたい。強い思いとしぶとささえあればできるということを、映画で見せたいですね。 

やばいっすよね! 映画も作り方を知っているわけじゃないのに、急に作るという(笑)。でも、僕は本当にしつこくて折れないんです。酷いくらいわがままで空気もよめない。絵本を描くのも最初は周囲の全員が反対したんですよ。「テレビ出てるのに、なんで急に?」って。でも、結局、最後には周囲が理解してくれるんですよね(笑)。
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HARA'S AFTER
西野さんはビジネス環境の変化を見据え、考え抜いた結果としての直感を生かし、直感を信じてまっすぐ行動し、レバレッジを効かせながら拡大している。優れたベンチャー経営者のような切れ味と突進力を感じた。もちろん、成果を出すのは一人では難しい。そのためのネットワークづくりにおいても、芸人の知名度を生かしつつ、世の中の流れをとらえた鋭さを感じた。巷間言われているような単なる炎上マーケティングや話題作りではなく、ビジネスとして仕組み化されたモデル性を感じた。

パラレルキャリアや兼業・副業などが政府からも提案され、組織一辺倒だった日本人の働き方が変わりつつある。西野さんは、その旗手ともいえるシンボリックな活動をしている。西野さんが考え、行動し、ネットワークを広げていく限り、革命的変化の時代を迎えたビジネスで、まだまだ目覚ましい成果を上げるだろう。キングコングのネタや、西野さんのMCも、もっともっと見たいけど。

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