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笑顔あふれるリストラなき会社で
世界に展開し
就労困難者の20大雇用に挑戦

アイエスエフネットグループ代表

渡邉 幸義さん

学生時代に起業家との出会いで刺激を受け、自らも起業することを決意する。大学卒業後は外資系IT企業に勤め、その経験を活かして、成長産業であるIT分野での起業を実現。創業当初は人材採用に苦戦するも、就労困難者をゼロベースで採用し、育成することで貴重な戦力としていく。その未知の可能性に気づき、 就労困難者の「5大採用」を掲げた。事業は発展してIT分野を越え、海外展開も実現。いまでは採用の幅を広げ、 「20大雇用」を標榜する。世界に通用するビジネスモデルとして、海外への多拠点展開を目指す、社会課題へのチャレンジャーに話を聞いた。
Profile
武蔵工業大学を卒業後、いずれは起業することを目指して、外資系 IT 企業に就職。ドライなリストラなどに疑問を感じ、雇用を守る会社づくりを決意する。2000 年にアイエスエフネットを設立し、現在は障がい者、引きこもり、ニートなどの積極雇用を行う「20 大雇用」を掲げ、従業員 2,000 名を超える企業グループに成長させた。

多くの就労困難な方々の雇用を生み出すという思いで
「20大雇用」を掲げています

— 大きな方針として、20 大雇用を掲げていらっしゃいますね。内容を拝見すると、就労困難な方々を雇用するという意義あるものですが、なぜそのような取組みが生まれたのでしょうか。
私はもともと、大卒しか採用しない外資系企業で働いていたのですが、厳しい競争の中で、評価されなければ辞めるしかないという経営のあり方に疑問を感じていました。学生時代から、いつか起業しようという思いがあり、外資系企業時代に出会ったインターネットの分野で始めようと思っていました。

2000 年に起業したのですが、インターネットの世界はまだスタートしたばかりで、お金、知識、人脈が不足した「3ない状態」。人材確保はとても難しい状況でした。だから、技術などがゼロの人たちを採用して力をつけてもらい、経営していくしかありませんでした。そのような中、就労困難な方が応募してくださって、採用するようになったのが取組みのきっかけです。

当初は「5大採用」と言っていました。「シニア、ワーキングプア(働く時間に制約のある方)、障がい者、フリーター、引きこもり」の方々を積極的に採用するということです。いまはそれに加えて、難民、ホームレス、感染症、中毒経験者、犯罪歴のある方など、多くの就労困難な方々の雇用を生み出すという思いで、「20 大雇用」を掲げています。

たとえば、障がいを持った方々にはある種、天才的なところがあります。単純な作業に集中して長時間続けるなど、健常者にはできないような仕事をしてくれるのです。当グループではそういった力を結集して、事業を伸ばしてきました。ゼロからスタートして成長し、大手企業に引き抜かれるような方も出てきました。どんなに能力があっても、地道に努力したり継続したりができなければ、良い仕事はできません。
— まさに逆転の発想で、採用に苦労された状況から、他社が見送る就労困難者を活かす道に至るのですね。
加えて大事なのは、人のため、社会のためという利他精神です。起業当初は途中で挫折する方も多く、4割くらいが辞めていきましたが、残ったのはまっすぐで、利他精神を持った方々です。でも、楽な世界ではありませんよ、受けに来てくれる方には、「入ったら大変ですよ」と伝えます(笑)。大変というのは、努力が必要ということです。努力の仕方は、私がしっかりと教えてあげます。

アルコール中毒、失語症、ホームレスなどの支援団体が、噂を聞いて見に来てくれました。そういった方々と実際にお会いして話をしてみると、「これは十分に働ける」と思うことが多かったのです。これまで、ユニークフェイスと言われるような、顔にあざがあるなど一般の方と見た目が違う方や、小児がん経験者で成長が止まってしまった方などは、とても働くことができないと思われていました。でも、実際は働けるんです。顔が違っても、背が低くても。

見た目にはわからない HIV 患者なども、なかなか仕事がない状況です。最初は、そういった方を積極的に採用するという申し出をしても、怪しまれることが多かったですが、本を出して、セミナーなどで話をしていくうちに、だんだんと信じてもらえるようになってきました。それで、20 大雇用という概念を打ち出したのです。

カフェの業態を始めたのは、「選択と集中」の逆の展開ですね(笑)
企業にとって大事なのは、まず雇用ですから

ーE&E(エコ&エンプロイメント)を理念に掲げていらっしゃいますが、それを企業のあるべき姿と見据えているのですね。
エコを重視したのは、ネットワークの世界にエコの概念を導入したいと思ったからです。以前勤めていた外資系企業では、通信機器などを再利用したりといったことがなく、ネットワークの世界はエコとは縁遠いと思っていました。だから、エコを重視した事業展開が大事だと思ったのです。

もう1つのエンプロイメントは、インターネットの事業で全世界に展開していこうと思っていましたから、そのために雇用することは必須であり、それを重視しました。いまは、IT の分野だけではなくなっています。この分野は9割が男性で、ある意味では差別的な世界なんですね。だから、従事者の8割を女性が占めるカフェという業態を始めたのです。

マネジメントの世界でよく言われている、「選択と集中」の逆の展開ですね(笑)。米国などの経営の本によると、コアコンピタンスである会社の中核事業に優れた人材を集中配置し、それ以外の人材は非正社員などにしていくようなメリハリが大事だと書かれています。でも、それはおかしいと思うんです。そんな話をすると、「それは NPO か社会福祉法人の考え方だよ」と言われますが、企業にとって大事なのは、まず雇用です。

私はよく、障がいなどを持つ子どもを抱える親御さんとも話します。ある日突然、子どもが障がい者になってしまうこともあるんです。皆さん、泣きながら「そうなった瞬間に、この世の中がいかに冷たいかがわかった」と語ります。そして、当グループを「とても優しい会社だ」と言ってくださいます。でもほとんどの方が、そういった世間の状況に気づかない中で暮らしているんです。

当グループが対象とする 20 大雇用の就労困難者は、日本全体で約 2,500 万人もいるんですね。それだけ多くの方々が、どこかで忘れ去られてしまっているのが、いまの日本の雇用の現状です。多くの方は、夜の会食などで政治や経済の話はしても、メンタルヘルスや脳性まひの話はしないでしょう。これからはもっと多くの方が、そういった話題も意識していくべきだと思います。
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ー20大雇用を行っていくためには、事業を成長させなければなりませんよね。事業拡大は、どのような強みで実現できたのですか。
IT の分野で起業したのが良かったですね。業界も成長しましたし、この分野のプロセスには、シンプルな作業も多くあります。たとえば、アプリケーションの動作テストや、バグと言われる不具合を取り除く作業などは重要な作業ですが、多くの会社はこれらの仕事を軽く見ています。当グループではこのような仕事を受けて、ゼロベースで入社してきた方々に担当してもらったのです。

単調な作業は誰にでもできますが、上手、下手はあります。そのようなシンプルな作業の質にこだわってきたのが評価され、当グループの強みになってきました。こういった仕事は結構範囲が広く、それが5大採用の成功につながっていったのです。さらに、IT以外にもこのような仕事が数多く存在することがわかり、取り組むようになりました。現在、当グループには約 250 人の障がい者がいますが、とても足りないくらいです。

たとえば、美容室などでは暖かいタオルを使いますが、健常者にその準備をさせると皆辞めてしまうと、経営者から相談を持ち込まれました。当グループでは、その事業を継承することにして、重度の知的障がい者を 10人入れてやってもらったのですが、タオルを巻いたりする作業は健常者よりも早いくらいで、しかも嫌がらずにやり続けることができるという、とても高い適性を示してくれました。

しかも、公共機関が月に1人あたり5万4,000 円を、賃金補助として支援してくれます。生産性は 120%に高まった一方、コストは 60%に下げることができ、いまでは黒字経営となったため、営業を雇って事業を広げています。何より、重度の知的障がい者にとっては仕事のやりがいを得ることができ、さらに社会にとっても納税者が増えるという良い循環になったのです。

シニア、障がい者、引きこもり、健常者などが一緒に仕事をできる場を
どんどん増やしていきたいと思っています

— 私の知る優れた経営者は、1つの活動で同時に、いくつもの価値を生み出していることが多いものです。渡邉さんもそうですね。
こういった事例は他の業態にも適用できるので、ドーナツ屋、ようかん屋、オムライス屋などからも相談が来ています。買収すると言うよりは、経営的に行き詰まって相談に来るので、事業を継承する形で引き受けています。今後3年間で 100 社を継承し、それによって障がい者の雇用を生み出していきたいと思っています。

高齢者雇用についても、新しい取組みを考えています。シニアの労働力をもっと活用するためには、生きがいを持って働く場を提供できるかどうかが大事です。佐賀県にシニア向けの PC スクールを作る話も出ていますし、シニア、障がい者、引きこもり、健常者などが一緒に仕事をできる場を、どんどん増やしていきたいと思っています。
— 渡邉さんはこれまで未経験の方を雇用し、ゼロから育てて事業を拡大してきました。これを実現するためには、高い人材育成力が必要ですが、どのようにして教育するのですか。
私はまず、人として正しいこと、心の指導を徹底して行います。ノウハウや技術は、後からついてくるものです。多くの会社では、リーダーになると権力を持つようになりますが、権力を使うのは、力ずくで白を黒にするようなときです。そんなことをしなくても、倫理という軸で働きかけると、皆頑張って仕事に励んでくれるものです。

そのためには、自身が矛盾のないように行動しなければなりません。そうすると、皆ついて来てくれます。だから、倫理など本質的に大事なことに意識を置くべきなんです。当グループでは、社員が家族だったらどう対応するだろうかということを常に考えています。形式的ではなく、本当に家族だったらどうするかという発想です。

相手目線になることも大事で、これも徹底して教えています。お客様は商品を買うときに、厳しくこちらについて見ています。その目線にこちらの意識を合わせることで、自身もレベルアップしていけます。現在は、メンタルヘルスで悩む方たちなども、なかなか受け入れてくれる場がありませんが、「当グループに来たら受け入れてもらえる」といった場を作っていきたいと思います。

私のイメージでは、「一流ホテル」ですね。誰もが快適に過ごせる場、そんな会社でありたいと思います。でも、勘違いしないでほしいのは、そういう場には厳しさも必要だということ。そうでなければ、会社は存続できません。厳しさを持って家族のように接すること、そして倫理や人としての正しさなど、大切なことをしっかり教えること。それが、当グループの人の育て方です。
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また、自己啓発の促進にも力を入れています。これからは、自己啓発をしない方には、す。これからは、自己啓発をしない方には、給料を払えなくなるのではないでしょうか。ワーク・ライフ・バランスというのは、努力する方が少し休ませてもらいたいというもので、努力しない方には必要ないと思います。私自身も、社員の見本になろうと日々努力しています。

『「未来ノート」で道は開ける!』(マガジンハウス)という本を書きましたが、私がずっとつけているノートを見本に、社員も書き始めています。人は結果しか信用しないもので、結果を出すには努力を重ねるしかない。だから、本も読まず、ノートも書かず、何の努力もしないでワーク・ライフ・バランスを求めるのはおかしいと思います。

いまやるべきことをすべてやっておきたい
「あの会社がつぶれたらかわいそう」と思われるくらい、努力することです

—人の活用において独自の経営をされていると思いますが、ここまで来るには山あり谷ありだったのでは。
人から非難されたこともありました。給料が15万円しか払えないときもあり、インターネット上で非難されたこともあります。でも、借金して給与を払いながら、夢を捨てずにやってきました。変革のプロセスでは批判されることが多いものですが、やり続けることで理解されるようになり、やがてそれが認められて、事業として成り立ったときの達成感は最高です。

このたび、第6回ワーク・ライフ・バランス大賞を受賞することができました。少し前までは評価されなかったのが、やがてノミネートされ、賞がいただけるまでになってきたのです。

夢を追っていると、5年後、10年後にはもっと良くなります。特に変わったことをやっているわけではありません。やるべきことをやってきた積み重ねです。明日死ぬかもしれないのですから、いまやるべきことをすべてやっておきたいと思います。

私はあまりストレスを感じないタイプで、いまはストレスゼロでやっています(笑)。でも、一度だけストレスを感じたことがありました。4年前、銀行から5億円の融資をしてもらった直後に、「審査基準が変わったから、これまでの融資分も含めて引き揚げる」と言われたときです。9億円を引き揚げられ、これはもうダメだと思いました。

でも、「渡邉さんの会社をつぶしてはいけない」と支えてくれた方々のおかげで、その後の3ヵ月間で12億円の融資を得ることができたのです。ダメだと思ったこのときでも会社がつぶれなかったことで、「未来ノートを続けていれば、会社はつぶれない」と確信しました。いまは、そのとき以上にファンがいてくれますから、安心です(笑)。
「あの会社がつぶれたらかわいそう」と思ってもらえるくらい、努力することです。私は、1日6時間はノートを書いています。24年間で2週間だけ、どうしても書けなかったのですが、それ以外は毎日書き続けています。夜9時に寝て朝3時に起き、それから7時まではノートを書いたりしていますね。
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— これからはグローバル展開も計画されているようですが、今後については。
起業した頃は、インターネット関連で世界展開を目指しました。現在は6ヵ国で展開していますが、来年は9ヵ国にする予定です。ビジネスモデルとしては、全世界で20大雇用を行っていくプランに変更していますが、この事業は世界で通用するものだと確信しています。いまは社員の 36%が就労困難者ですが、いずれは 90%まで高めていきたい。「笑顔が絶えない、リストラしない会社」を、世界で展開していきます。

そのほか、0円で生活する空間づくりにも取り組んでいます。衣食住を自ら作り出したりして、お金がなくても生活できるという取組みです。国も親も支援できない状態の方がいらっしゃいますから、そういった方が自立できる仕組みです。地域によっては、人が流出して使っていない土地や建物があるので、そこでビジネスモデルを構築していこうと思っています。メンタル不全の人などが、都会から移り住んで納税者になれば、地域も潤いますから。

目の前にある誰もやらないことを、一つひとつクリアしていくこと直面する課題を乗り越え続けること、それが私の挑戦です

— まさに新しい価値づくりへの取組みですね。最後に、渡邉さんにとっての挑戦とは。
最近、重度障がい者を、その親御さんと一緒に採用しました。私のセミナーに来た方から、「この子と私を一緒に雇ってください」と頼まれたのです。その障がい者は、身体が動かないくらい重度だったので、そばで世話をする方がいないと勤められないからです。

私は、「これだ!」と思いました。3年ほど前に、重度で指くらいしか動かせない方を雇いたいと思い、在宅でやってほしいと提案したところ、辞退されてしまったことがありました。オフィスで働いてもらうことは無理だと思っていたのですが、親子で来てもらうことで乗り切れるだけでなく、その方が他の重度の方の世話もしてくれるので、新しいモデルを作ることができたのです。

このように、私にとっての挑戦とは、目の前にある誰もやらないことを、1つひとつクリアしていくことです。直面する課題を乗り越え続けること、それが私の挑戦だと思います。そうすることで、最終的にはどのような方でも働ける環境を作りたい。ハードルを1つひとつ乗り越えて、さらに大きな夢を実現していきたいと考えています。
2NOV0650

株式会社アイエスエフネットDATA

設立:2000 年1月12 日,資本金: 2億850千円,従業員:1,667 名(グループ全体2,190 名),事業内容:情報システムの設計・施工・保守およびコンサルタント業業務,コンピュータのソフトウェア・ハードウェアに関する諸業務,経営・投資に関するコンサルタント業務,労働者派遣業,有料職業紹介業務,電気通信事業,古物商,損害保険代理業,生命保険の募集など
目からウロコ
21世紀は、「志本主義」の時代だ。崇高で明確な「志」には、人と資金が集まってくる。 経済社会で生きる企業にとって、利益や効率を追求することは存続のために不可欠だが、その根底に「志」や社会的価値があるべきだ。

今回のインタビューでは、非常に迫力を感じた。 人のパフォーマンスに迫力があふれるのは、目指すべき高い目標にコミットしているとき、そしてそれを達成する自信があるときだ。いまの渡邉社長には、その両方が備わっている。私も公的な雇用の事業にさんざんかかわってきたので、20大雇用の重要性と困難さはよくわかる。それは公的機関の各所で行われているが、民間企業がこれほど積極的にその受け皿となるビジネスを展開している例は、ほかに思いつかない。あらゆる就労困難者を対象として、空前のボリューム感で採用を目指すアイエスエフネットの試みは、世界的にも大いに注目されるのではないか。

なぜ、このような組織を作り上げることができたか。ポイントは、「未来ノート」にありそうだ。 24年間書き続けたノートには、重要なことが整理され、びっしりと書き込まれている。目指すものやなすべきことなどを、余すところなく行動に結びつけることができたのだろう。「 選択と集中 」がセオリーとされる企業経営の世界で、これだけ幅広い許容
性を持った事業を展開し、かつ社員育成にもきめ細かく取り組むことが、よくぞ可能だったと思う。 24時間という限られた時間も使いよう、経営者はこれを肝に銘じるべきだろう。
(原 正紀)

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