2016‐09経営者160_和える_矢島様

地域や職人の力で支えられた

日本の伝統を“和える”活動で

伝える感性の経営者

株式会社和える 代表取締役

矢島 里佳さん

中学時代より伝統に興味を持ち、子どもたちに日本の伝統をつなげたいという想いから、慶應義塾大学4年生時に株式会社和えるを設立。大学院に進学しながら経営を始める。その後、「0から6歳の伝統ブランドaeru」を立ち上げて、全国の伝統産業職人の技術を活かしたオリジナル商品の企画・販売を手がけ、ヒット商品の「こぼしにくい器シリーズ」ではグッドデザイン賞2013を受賞。世界経済フォーラム(ダボス会議)の「World Economic Forum-Global Shapers Community」メンバーに選出された。ホテルの部屋をプロデュースするaeruroom事業や、個人・法人向けのaeruoatsurae事業など新規事業も展開中。“和える”ことで多様な価値を創出する、感性豊かな経営者に話を聞いた。

Profile
慶應義塾大学在学中に株式会社和えるを設立し、大学院に進学。学業と経営を両立させつつ、「0から6歳の伝統ブランドaeru」を生み出した。全国の職人とともに、伝統を次世代につなげることをミッションに、販売・プロデュースなど新たな事業の開発にも注力している。

日本の伝統を次世代の子どもたちにつなげたい

— ご著書の『和える―aeru―』(早川書房)を拝読しました。現在の事業について教えてください。
日本の伝統を次世代の子どもたちにつなげたいという想いから、伝統産業の技術を活かした、赤ちゃん・子どもが大人になっても使い続けられる日用品の企画・販売を手がけています。

私は大学4年生のときに会社を設立し、その1年後に「0から6歳の伝統ブランドaeru」を立ち上げました。当初はオンラインショップのみで販売していましたが、現在は東京と京都に直営店も構えています。

商品はすべて、伝統産業の職人さんの手仕事によって作られており、成長してからも長く使えるもの、もしくは引き継いでいただけるものを中心に開発を行っています。ヒット商品の「こぼしにくい器シリーズ」は、ご家族でお使いいただくことも多い商品です。 

起業後、私は大学院に進学することにしたため、しばらくは大学院で学びながら経営するという状態でした。起業時には経営者の先輩から、「3年・5年・10年が特に大事だよ」と言われましたが、本当にそうだなと感じています。

3年目は、私自身がどれだけ頑張れるかを試されていたように思いますが、5年目は自分だけが頑張ってもダメで、チーム力や組織力を試される時期だと感じています。これから迎える10年目は何を試されるのだろうと考えていますが、まずは10年を迎えられるように頑張るしかありませんね。

— 10年目は、変革を求められるのではないでしょうか。
たしかに、社内の変革が必要になっているかもしれません。

当社はまだまだビジネスの確立期で、たとえば生産ロットなども商品によって違います。伝統産業とひと言で言っても、和紙、ガラス、陶器、漆器など、それぞれ異なる業種業態なのです。

また、それぞれの職人さんの状況に合わせて、物事を変えていくことが必要だと考えています。そのためには、先のことを話しておかなければなりませんので、職人さんとの対話を大事にしています。

地域とのつながりが強い職人さんには、各地のお祭りや行事とも深くかかわりながら仕事をしている方が多くいらっしゃいます。そのため、地域のリズムや暮らしのテンポを理解することも大事です。伝統産業は、地域に根差した産業なのです。

また今年からは、新規事業もスタートしています。これまでは、「0から6歳の伝統ブランドaeru」の事業に特化してきましたが、伝統を次世代につないでいくためには、伝統や先人の智慧と出逢える入口を、もっと日常の暮らしの中に増やしていくことが必要だと考えています。大人の方々にもぜひ、暮らしの中で伝統産業品に触れていただきたいですね。

ー 子どもへの展開だけで拡大されるのかと思っていましたが、良い意味で裏切られました。とてもしなやかに事業を展開されているイメージです。
伝統産業への理解について、赤ちゃん・子どもからだけでなく、さまざまな入口を作るために、新規事業への挑戦を始めているのです。先人の智慧を伝えることが私たちのミッションだと思っていますので、赤ちゃん・子どもに限定しているわけではありません。現在は、2つの新規事業を立ち上げているところです。

1つは「aeruroom」という事業です。これは、“地域が育んできた先人の智慧”と“ホテルの一室”を和えることで、次世代に伝統をつなぐ新たな事業です。「宿泊を通じて、その土地が育んできた伝統産業や文化、歴史に触れ、魅力に浸り、気づき、滞在を存分に楽しめるお部屋を」と考え、その地域に由来する伝統産業の職人さんの技を活かしたものや、触れることで滞在中の楽しみが高まるものを中心に設えます。また、ホテルで働く方にとっても、地域の魅力を改めて知り、お客様に伝えるきっかけとなることを願っています。


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最初にプロデュースさせていただく長崎県のホテルの部屋は、今年9月にオープン予定で、その後もいくつかの地域での展開が決まっています。

もう1つは「aeruoatsurae」(お誂え)で、オーダーメイドの注文を受ける事業です。当社はこれまでも、職人さんと相談しながらオリジナル商品を生み出してきましたので、個人や法人のお客様からのお誂え注文もお受けできると考えました。

また、職人さんの仕事も増やしていくことができれば、後継者の育成にもつながるため、応援してくださるお客様とともにこの事業を進められればと考えています。初仕事は、個人のお客様からは鞄のお誂え、法人のお客様からは玩具のお誂えを承っており、現在製作中です。

商品の背景にあるストーリーを伝える

ー 直営店を出されたと伺いましたので、今後は店舗拡大路線を行かれるのかと思いましたが、まったく異なる新規事業を展開されるのですね。
直営店をたくさん作るイメージはありません。東京直営店「aerumeguro」が、「和えるくん」のお家というイメージです。

私たちは会社を自分たちの子どものように考えており、「和えるくん」と呼んでいます。事業を考える際には、「和えるくん」がどのように考えるかをイメージするのです。ちなみに、2015年11月7日にオープンした京都直営店「aerugojo」は、和えるくんのおじいちゃん、おばあちゃんのお家というイメージです。100年佇む京町家に店を構えました。

今後、出店は多くとも、あと数店以内になると思います。当社の根底にある想いは、商品の背景にあるストーリーを伝えることで、幹になるのは全国の伝統産業です。出店については、小売業態で物販をしたくて始めたのではなく、伝えるための入口がたくさんあったほうが、出逢う確率が高くなると考えてのことでした。

ですから、先ほど述べた「aeruroom」や「aeruoatsurae」事業など、伝統産業に出逢える新たな入口を増やしているのです。「和えるくん」が20歳を迎える頃には、当社は10事業部くらいになっているのではないでしょうか。各事業部に10人前後のメンバーがいるとすると、100人程度の規模になっているかもしれませんね。少数精鋭で、メンバー全員の顔がわかる規模感が良いと考えています。

若い職人さんを育む環境の創出に貢献したい

— 「伝える」という中核コンセプトと、「伝統や先人の智慧」という対象が明確ですので、事業間の連携をとりやすいですね。
ホテル向けの「aeruroom」事業でも、お子様がいらっしゃる場合には子ども用の器を提供するなど、各事業は連携して展開していきます。一見異なる業態に見えるかもしれませんが、すべてが「伝える」ということに集約されているため、私は同じだと思っています。他事業や他の会社と関連性を持たせて、展開していきたいです。

「aeruoatsurae」事業の広がり方としては、当社の商品以外のお直しというニーズもあると思っています。お誂えやお直しは、各地の職人さんに依頼します。職人さんとのつながりは、数年前ですでに300人以上になっています。製作の各プロセスで多くの方との関係がありますが、職人さんの仕事の場を増やしながら、応援してくださるお客様を増やしていきたいと思っています。

いまの日本には、職人さんを育てていくという文化がなくなりかけていると思います。若い職人さんを育む環境の創出に、この事業で少しでも貢献できれば嬉しいです。そして同時に、私たちの事業も皆さんに育んでいただいているのです。

— 経営にあたっては、理想だけでなく、資金繰りなど現実の壁もあるかと思います。
そうですね。理想の状態を創出していくために、ビジネスモデルを仕組みとしてどのように組み立てていくかは、常に頭にあります。

資金については、自己資金をベースに、直営店など新たな投資の際には、信用金庫さんなどの金融機関にご支援いただいてきました。信用金庫さんの特に良いところは、地域密着型で、地域の人々とつながっていることだと思います。京都に出店する際にお世話になった京都信用金庫さんからは、地域の魅力的な職人さんをご紹介いただくこともあります。これは、新たな地域に迎え入れていただく際に、とても心強かったですね。

— ベンチャーキャピタルからの資金調達はされないのでしょうか。
イメージにありませんでした。特に日本のベンチャーキャピタルは、短期的利益を求める傾向が強いと感じています。この事業は、当初から中長期的な計画をしていますので、短期の回収を求められると難しいと思います。
— 起業された後に、大学院への進学を決められたのはなぜですか。
大学在学中にお会いしたある先生と意気投合し、その先生にぜひ教わりたいと思って、大学院への進学を決めました。いまでも仲良くさせていただいており、授業に呼んでいただいたりもしています。大学院での勉強は、それまで感覚的にやっていたことを論理的に考える機会となりました。
講義の中で印象的だったのは、ファミリービジネス論です。良い奥様がいらっしゃる会社は、やはり長く存続しています。また、婿養子さんもポイントで、優秀な人材を定期的に外から入れることも、ファミリービジネスの存続には大事なことです。

また、大学院で学んだことで、自分がやっていることの意味なども、後になって気づくことができました。学びながら事業をできるため、初めて勉強を面白いと思いましたね(笑)。それまでは、学んだことを何に使うかがわかっていませんでしたが、実際のビジネス現場と並行して学習していたため、会社の成長にもつながったのではないかと感じています。


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「ビジネスはシンプルな方がいい」

— ご著書では、「ビジネスはシンプルな方がいい」という言葉が印象的でした。
ビジネスは複雑であればあるほど、本質からズレてしまいがちな印象があります。シンプルであることが大事で、そのイメージは自然界に近いかもしれません。

たとえば、川の流れに逆らうと進むのが難しくなりますが、流れに沿うとスムーズに進めます。つまり、無理に利益を上げようとするとひずみができてしまい、誰かを悲しませてしまうのです。当社の商品価格は、かかわっている方々の必要な額を積算して決めています。私たちがいくらで売りたいかではなく、次世代につないでいくためには、継続できる状況を生み出すことが大事なのです。品物だけでなく、商品を入れる箱を作る職人さん、印刷会社さん、デザイナーさんなど、皆さんの必要なコストを合計して最終価格を決めます。そうすると、誰からも不満が出ず、悲しい状況にならずに済むのです。

さまざまな人がかかわっている商品ですので、その価格を販売する側が一方的に決めるのは不自然なことでしょう。自然の流れに逆らわないようにすると、ビジネスはシンプルになる。一方で、自分だけ利益を上げようとすると、無理が生じてうまくいかなくなる。作る人がいないと、お客様にお届けすることもできませんので、やはり三方良しを考えることが大事ですね。

— ご著書には「感性経営」という言葉もありましたが、これはどのようなものでしょうか。

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自分、社員、職人さんの感性などすべてのことです。経営では数字が大事といいますが、そこだけで考えると、どうもうまくいかない気がします。数字にとらわれすぎると、本質から逸れてしまうことも多々あるように感じています。本質を貫ける、感性豊かな会社でありたいと思います。

私たちが採用面接で大事にしているのは、素直で、粘り強く、感性が豊かであることです。たとえば、大谷焼の「こぼしにくい器」の場合、釉薬のたれ具合で商品が1つひとつ異なったものになるのですが、そのような表情を見て、かわいらしいとか、凛としていると感じられるかどうか。その違いをお客様に伝え、同じだけれど違うという魅力をお伝えできることが大事です。

想像力が豊かで、さまざまな気持ちに寄り添える人が育つと、社会は優しくなるのではないでしょうか。まずは、自分たちがそれを実践していきたいと思います。

— ブランディングについても、とてもこだわりを感じます。このお店(編集部注:取材は東京直営店で行われた)もそうですね。
本物にこだわることは重視していますが、対外へのブランディングはあまり考えたことがありません。外に向けてのイメージづくりを考えるというよりは、内向きのブランディングを重視しています。

自分たちの世界観を醸成していくため、かかわる人自身が一番の表現なのかもしれません。会社自体を「和えるくん」と擬人化することで、「経営者である私が」ではなく、「和えるくん」らしさを皆で考えるようにしています。

当社は、経営者にお伺いを立てるような体制ではなく、会社が一人歩きしていくような感覚を、社員間で共有できているのだと思います。これは、「和えるくん」の年齢に応じて変わっていくのでしょうね。

時には1週間で変わることもあります。子どもはすごく成長しますし、変化を恐れませんから。成長しながら、その時々にしっくりくる表現に変化していく―それが、ブランディングと呼ばれるようになるのかもしれません。

誰にでもわかるように言語化するやり方もあるでしょうが、言葉にならないものこそが感性であり、それをわかり合えることが大事です。それが、「和えるくんらしい」ということになるのだと思います。

何でも言語化しなければならないとなると、ただの論理的な会社になってしまうでしょう。感性と論理性の両方を持ち合わせることが大事で、そのあたりをバランス良く経営したいですね。擬人化することで、物事の本質も伝わりやすくなると思います。

文化と経済が和えられた豊かな社会を実現したい

— 最後に、矢島社長にとっての挑戦とは。
「和える」がさまざまなことを“和える”ことで、先人の智慧が暮らしの中で活かされ、社会に良い循環が生まれる。結果として、文化と経済が和えられた、本当の意味での豊かな社会を実現したいと思っています。文化が経済を育て、経済が文化を育む。これを実現できれば、心も豊かな人が増えるのではないでしょうか。
 
経済成長を前提とした資本主義社会において、その実現は一筋縄ではいかないと思いますが、今日生まれた子どもたちが、「日本人で良かった!」と思える日本を残すには、実現すべきことだと思います。これが私の挑戦で、しなやかに成し遂げたいですね。
 
社員にはいつも、「白鳥であれ」と伝えています。白鳥のように、水面下では一生懸命に努力をしながらも、水面上ではいつも余裕を持って優雅に。最後は、己との戦いですね。

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目からウロコ
矢島社長の、伝統・感性・つながり・自然さを大事にする経営は、従来型の経営へのアンチテーゼのようにも感じられるが、21世紀になってから経営の潮目が変わったとも思える。若手の経営者やビジネスパーソン、学生たちと話していると、同じような視点の変化を感じることがあるのだ。

いま、ソーシャルビジネスやエコビジネスが増えている。それは市場のニーズもあるが、価値があり、持続可能な仕事をやっていきたいという働き手のニーズでもあると思う。感性と理性の話が出てきたが、多くの経営者は感性の重要性に気づいてはいるものの、シフトすることはできず、依然として、数字を中心とした理性の世界で語り続けている。また、現状ではそのほうが伝わりやすいし、株主を中心としたステークホルダーたちは、経済合理性を強く要求するのも事実である。「20世紀は資本主義、21世紀は人本主義」などと言われるが、言い方を変えれば、20世紀は経済合理性の時代であり、21世紀は人間的感性の時代であるのかもしれない。多くの人が経済合理性に走るからこそ、感性の大事さが際立つのではあるが。
 
クラウドファンディングの成功事例も聞かれるようになってきたが、そこにはリターンの期待以上に、価値のあることや応援したくなることが大事という考えが強く働いている。働き手とステークホルダーともに変化している兆しがあるため、きっと市場もついてくるだろう。まだ評価は早いかもしれないが、「和えるくん」の未来に大いに期待したい。
(原 正紀)

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