2014-01経営者128_ヴァリューズ_辻本様②1

ビッグデータを活用した新世代マーケティングで
企業の成長を支援する経営者

株式会社ヴァリューズ 代表取締役社長

辻本 秀幸さん

幼少期から社長になることを目指し、大学では企画会社を創設する。起業するための基礎的な力を身につけたいと、卒業後はリクルートに入社。最年少マネジャーに抜擢されるなどし、当初は3年ほどで独立する予定も、結局20年間在籍する。その後は、一部上場企業の(株)マクロミルで社長を務め、 事業拡大や新規事業創出に注力する。2009年に(株)ヴァリューズを創業し、代表取締役に就任。事業拡大や新規事業創出に注力する。20万人の会員と、独自のマーケティング分析システムを3年で構築し、2013年に本格的なスタートを切る。人を愛し、育てながら事業成長を目指す経営者に話を聞いた。
Profile
同志社大学工学部卒業後、リクルートに入社。情報ネットワーク事業、マーケティングシステム事業部長を経て、関連会社・(株)リクルートイサイズトラベルの社長に就任。2006 年、(株)マクロミルに転職して半年後に社長に就任し、ネットリサーチ事業を拡大。2009 年に(株)ヴァリューズを創業し、現在に至る。

当社のサービスは、ネット上の消費行動を把握するもの
従来のネットリサーチとは異なるモデルです

— まずは、現在のビジネスについて教えてください。
当社のコンセプトは「企業の成長支援会社」で、業績向上のサポートをしていますが、具体的な内容としては、ネット上の消費行動を把握するサービスです。20 万人の会員を確保しており、その方々に、「ツールバー」という独自のプログラムをダウンロードしていただいています。それにより、消費者のネット上の動きが自動的に送られてきて、その他のアンケート調査と併せて、マーケティングに活用できるデータとなります。

従来のネット上のマーケティング調査では、自社サイトのログ解析を行うのが普通でしたが、それだけでは広くマーケットを知ることはできません。私たちは、会員の皆様にご協力いただき、マーケットを俯瞰するデータの分析をできるようにしたのです。自社サイトだけでなく、競合やベンチマーク先のサイトなど自社を取り巻く状況について、ビッグデータの分析によるマーケティング戦略のサポートを行っています。

会員集めについては、自力で行うことも含め、随分と議論を重ねましたが、このような体制をスピーディに作るために、クレジット会社の(株)クレディセゾンと提携し、その会員を中心にデータベースを蓄積してきました。ですから、性別や年齢なども把握しつつ、バリエーションのある会員を確保できたのです。

このビジネスの基本は、モニターとなる会員を集め、データを蓄え、それを分析して提供する、というものです。会員やデータの蓄積が進むほど、より質の高い分析が可能となります。弊社には2年間分の蓄積がありますので、過去のことから現在・未来予測(兆し)までを分析できるようになりました。

消費者がどのような広告を見て、どのようなサイトへ行くのか、またどのような情報収集をしているのか、などを消費財別に分析できます。私たちはオンリーワンの存在ですが、その根拠は、消費者から許可を得た情報をいただいているモデルとしては、前例のない大規模な母数であることと、独自の分析メソッドを確立していることです。当社ではこのサービスを総称して、「eMark+(イーマーク・プラス)」と呼んでいます。

収集したデータとアンケート調査により
価値観や印象、判断基準などを補足する新たなマーケティング手法を確立

— クレジット会社とのアライアンスなどで、非常にスピーディにビジネスを創り上げたからこそ、現在のポジションがあるのですね。
ネット業界のビジネスは、良いものはすぐにマネされ、キャッチアップされてしまいます。ですから、「マネされても追いつかれない仕組みを創り上げてから、リリースしていこう」と考えていました。母数が充実し、自動集計ができるようになるまでは発表しないようにしていたのですが、2013 年6月に 20万人の履歴を取れるようになり、サービスを開始して2年後、ようやく発表に至りました。

従来のネットリサーチとは異なるモデルとしてご注目いただき、マスコミなどにも取り上げていただきました。従来のマーケティング手法は、F1 層(20 〜 34 歳までの女性)など年齢・性別によるデモグラフィックな分類でセグメントされていましたが、私たちの手法ですと、そのような分析はもちろん、年齢や性別に関係なく、特定の購買行動を行った人を集計・分析できます。

つまり、消費者がどのような広告を見て、どのようなコンテンツに触れ、どれくらい検討に時間を使い、どのように購買するかなどを、短期・長期に追跡・分析できるのです。たとえば、「ルイ・ヴィトンのバッグを買ってヨーロッパ旅行に行った人」といった特定の分類で、どのような購買行動をしているかを見ることもできます。
「ツールバー」から収集したデータと、属性のわかる 20 万人のデータベースから抽出したパネルに対するアンケート調査を行うことで、具体的な行動・価値観・印象などのデータを補強し、従来のマーケティング手法ではできなかった分析ができるようになりました。これは、価値観や印象、判断基準などを補足していく、新たなマーケティングモデルです。

当初は通販会社などが主体でしたが、徐々に拡大し、現在では多岐にわたる顧客と取引をしています。顧客の特徴としては、オウンドメディア(自社サイトなど)を強化していきたい企業が多いことでしょう。当社が提供する分析としては、競合サイトやユーザー行動に加え、キーワード対策や離反ユーザーの追跡といった特定目的別の3つのパターンがあります。
— 新たなマーケティングモデルに行き着いたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
リクルートに 20 年間勤め、IT を活用した売れる仕組みづくりなどに携わった後、後輩に誘われて、ネットリサーチの上場企業である(株)マクロミルに加わり、社長を務めました。もともと 50 歳で独立しようと思っていたのですが、一時期は退いていた創業者から「復帰したい」と相談を受け、予定より早い 45歳で独立に踏み切りました。

実は当初は、具体的なアイデアはなかったのですが、まずはこれまで行ってきた売れる仕組みづくりのコンサルティングから始め、IT 業界に絞って、中小ベンチャー企業数社の顧問や役員をしていました。そのような企業の成長を支援しながら、自分たちのビジネスモデルを考え続け、独立の1年後には、いくつかのビジネスアイデアが固まってきました。その中で、「これだ!」と思って勝負をかけたのが、「eMark+」のモデルです。

最初は1人で、企業のコンサルティングをしながら始め、別会社に勤めていた後藤(現・ヴァリューズ取締役)と土日にミーティングを行い、彼が持っているいくつかのビジネスアイデアを一緒に詰めていきました。その後、だんだんと仲間が増え、1年後に5人でビジネスの具体的な検討を始めました。最初に手がけたのは会員の募集ですが、ここは前述のとおり、(株)クレディセゾンと連携しました。スピードを重視するうえで最適のパートナーだったからで、Win-Win の関係で進めることができました。

約2年後には会員が 20 万人になり、並行して創り上げてきた独自の分析モデルも完成して、現状のモデルができ上がりました。当時は、苦労しながら調査分析の仕事を受託し、1週間ほどかけてマーケティング分析を納品していましたが、いまでは数分でできるようになっています。もちろん、その間も収入は必要でしたので、大手企業へ人脈を使った営業活動を行ってきました。そういったことは得意でしたからね(笑)。
— そうすると、約3年間で 20 万人の会員と新たなビジネスモデルを創り上げたわけですね。素晴らしいスピードです。しかも、営業・受注活動を並行してですから。
私自身が、ずっと営業の仕事をしてきましたので、飛び込みでも何でもできます。マクロミル時代は、社長をしながら飛び込み営業をしたほどです。一部上場企業の社長で飛び込み営業をしていたのは、私くらいでしょう(笑)。自身が先頭に立って、新規アポイントから営業・受注までを行ってきましたが、リクルート時代から培った人脈や信頼関係が非常に役立ちました。

ビジネスモデルをリリースしてありがたかったのは、多くのマスコミが注目してくれたことです。日本経済新聞や朝日新聞がニュースで取り上げてくれたほか、日経 BPの「デジタルマーケティング」というメディアでは、当社の調査・分析データを使った記事を連載してくれています。Facebook の活用やネット選挙に関する記事を、当社の名前入りで出してくれたのですが、これが良い宣伝になっています。世の中のスタンダードになるような質の高いサービスを創り上げたいと思っていますので、そういった広報は非常に重要なんです。

社員も 30 名を超え、事業も軌道に乗ってきましたので、組織的にもさらなる拡大を考えています。入社した社員がやりがいを持って頑張り、成長しているため、良い循環ができてきました。2013 年は1名の新卒社員を採用し、来春に向けては5名の内定者を確保しています。

ただ、収支をオープンにしたガラス張り経営をしていますので、社員は心配もしているようです(笑)。反対意見もありましたが、よく話し合って人財投資をすることにしました。独裁経営をするつもりはありませんので、メンバーとの対話を重視していますが、それが以前からやってきた私のマネジメントスタイルです。

子どもの頃から、社長になりたいと思っていました(笑)
食品会社を経営していた曽祖父の影響かもしれません

ー 長くリクルートに勤めた後、一部上場企業の社長を経験し、そこで培った知見を活かして起業と、1つのパターンになりそうなキャリアデザインですね。もともと、起業を考えていたのですか。
実は子どもの頃から、社長になりたいと思っていました(笑)。曽祖父が食品会社を経営していましたので、その影響かもしれません。大学生のときには、イベント企画会社を立ち上げたりもしました。留学生との交流会や、ミス同志社コンテストの開催など、スポンサーを探しながら、さまざまな企画を実施していたんです。飛び込み営業の結果、サントリーや JTB などの企業がスポンサーになってくれました。

いまで言う、学生起業家の走りのようなものですね。一度は、そのまま独立することも考えましたが、社会人としての基本を知る必要があると思い、リクルートに就職することにしました。3年間ほど学んでから独立しようと思っていましたが、結局 20 年間在籍することになります(笑)。

メディアづくりや編集などにかかわるイメージでいましたが、神戸支社に配属され、当時進出していた通信事業の回線の営業を担当することになります。朝から晩まで、電話での新規開拓や飛び込み営業の連続でした。

3年目には、ファクスを活用したマーケティング支援を行う FNX という部門に配属されます。
ファクスは当時、ニューメディアと言われる先進的なものでしたので、新規事業としての面白さや、メディアの企画やデータベースを扱う面白さを感じていた私は、「30 歳で独立すればよい」と思い、もう少し続けることにしました。

すると、26 歳のときにマネジャーに任命されます。社内では当時、史上最年少マネジャーということでした。その後、部長にも最年少で抜擢されるのですが、マネジメントの仕事を通じて、自分なりの組織、ミニカンパニーを創り上げる面白さに目覚め、さらに続けることにします。30 歳代半ばの頃には、関連会社のリクルートイサイズトラベルで社長をすることになり、赤字だった会社を黒字化させてホッとしたところで、また別の職場へ移ることになります。
次に任されたのは、求人情報誌 「タウンワーク」の赤字立て直しでした。厳しい上司の下、精神的にもキツい思いをしながら、新たな分野にゼロから取り組むことになります。単身赴任で大阪の代理店への3ヵ月間の常駐を命じられたのですが、それまで求人領域の仕事をしたことがありませんでしたので、最初は私が何を言っても、周囲は動いてくれませんでした。

そこで、初心に帰って飛び込み営業などを行っているうちに、だんだんと若手メンバーがついてくるようになり、周囲も聞く耳を持ってくれるようになりました。その大阪の代理店は、業績を回復してトップ代理店となり、私も本社に戻って事業全体の責任者になりました。この経験は、その後の起業へ向けての大きな糧となりました。

結果として一番良いタイミングで独立できたと思います
大企業と中小企業の双方を知ったうえで、経営にあたれていますから

ー 息つく間もなく、20 年ですか。独立する隙がありませんでしたね(笑)。そこから、(株)マクロミルへ移るきっかけは何だったのですか。

(株)マクロミルは、リクルートの後輩が立ち上げて一部上場まで成し遂げた会社ですが、経営陣にマネジメント経験のない人が多く、「再成長を手伝ってほしい」と頼まれました。リクルートで落ち着いてきて、独立を考えていたタイミングでしたし、ビジネスモデルにも興味がありましたので、独立は 50 歳くらいですることにして、参加しました。

私のミッションは、組織体制づくり、売り方の開発、新規事業創出の3つがテーマでした。入社して半年後には社長を任されるようになるのですが、現場を知るためにも、同行営業などに力を入れました。同行しながらメンバーと対話し、昼間はできるだけ、お客様など外部との接点にあてて、夕方からは社内ミーティングを行う、というスタイルで経営を遂行していきました。

上場企業でしたので、3ヵ月ごとに情報をディスクローズするなど、「もっと事業運営に時間を使いたい」というもどかしさを感じていました。また、顔も売れてきますので、自分を律する必要もありました。市場の評価とは難しいもので、自社の業績がいくら良くても、業界全体の動きなどによって株価が左右されてしまう、シビアな世界です。市場からお金を調達しながら経営するという責任の重さを、改めて感じました。

現在を含め、私は3社で社長を経験してきましたが、その体験は非常に役立っています。結局、45 歳で起業することになるのですが、結果として一番良いタイミングで独立できたと思います。大企業と中小企業の双方を知ったうえで、現在の経営にあたれていますので、知識や人脈を活かすことができています。新規開拓営業をする体力も、まだ十分にありますからね(笑)。
— 今後、考えていらっしゃることを教えてください。
起業当初は、エクセルでデータを提供していましたが、いまは手元で分析できるソフトウェアをダウンロードしてもらうことで、お客様がご自身で手軽に分析できるようになりました。大体、月 30 万円ほどの契約ですが、現在はご利用いただいている顧客の9割が大手企業です。今後は、自社でデータを解析するという文化を、中堅・中小企業にまで広げていきたいと思っています。

データを分析してマーケティング戦略を考えることに慣れていない業界や、規模の大きくない企業にも使っていただきたい。そのためには、会員数を増やし、誰もが気軽に解析できるメソッドとインターフェースを整備していく必要があります。当社は採用や育成に力を入れ、メンバーの成長を促進しながら、それを実現していかなければならないと考えています。

私が経営者として目指したいのは、日本で一番ネットマーケティングをわかっている会社にすることです。世の中では、多くのことがインターネットにつながっています。そうした環境の中で、老若男女が快適に楽しめる社会を実現するために、世の中の各種商品・サービスの創出から改善までを支援していきたいものです。当社は、各個人からパーミッションを取れたインターネット上の行動データの保有ではすでに日本一ですが、さらに深めていきたいと思っています。

目指すのは、日本で 一 番ネットマーケティングをわかっている会社にすること
システムを進化させながら、人も組織も進化させていきたい

— 最後に、辻本さんにとっての挑戦とは。
100 年続く企業グループを目指したいと思っています。これまで3社の経営を担ってきた中で、いまのベンチャー企業がもっとも、人に対する思いが強いと感じます。入社した社員たちが、「この会社に入って良かった」と思ってくれるような会社にしなければなりません。愛情を持って人を育てていく風土を根づかせることが、私がこれまで学んできた経営スタイルです。

社員が5人ほどになったとき、「100 年企業を創る」と発表し、そのための事業展開のシナリオを作成しました。経営者の代が変わっても進化し続ける会社を創るには、何と言っても人材の育成が重要です。新規事業に果敢に挑戦するような、チャレンジャブルなスタンスを組織に根づかせていきます。そのために、システムを進化させながら、採用・教育にも力を入れて、人も組織も進化させていきたいですね。

株式会社ヴァリューズ DATA

設立:2009年9月30日、資本金:3,000万円、事業内容:インターネットによる行動ログ分析事業、経営に関するコンサルティングおよび成長支援事業、IT先端技術を駆使した“売れる仕組み”構築事業
目からウロコ
ビッグデータの登場で、マーケティングの概念は大きく変わってくる。従来とは違う情報・分析を目指し、マーケターはデータサイエンティストとなることを要求される。その先頭に立ってビジネスを行っているのが、辻本社長率いる創業4年の(株)ヴァリューズである。インターネットの世界がいかにスピーディとは言え、新規事業立ち上げからわずか3年で20 万人のデータベースを保有し、新しいマーケティングの分析手法を提案できるのは驚きだ。それを成し得たポイントには、辻本さんのキャリアが挙げられる。

(株)ヴァリューズは創業4年だが、実は辻本さん、幼少期から社長を目指し、学生時代にはビジネスを立ち上げ、リクルートで多くの新規事業や関連会社経営を手がけ、(株)マクロミルで一部上場企業の経営を経験する、という長年の準備期間がある。そこで培った辻本さんの強みは、大きく3つある。まずは、マーケティング分析の先進システムを創り上げることができた、(株)マクロミルでの経験を活かしたIT・リサーチの知見である。次に、アライアンスでスピーディに 20 万人の会員を集め、同時に多くの大手企業クライアントを開拓したビジネス推進力で、これは主にリクルートでの経験で身につけたものだ。3つ目が、自ら先頭に立ちながらも独裁的にならず、メンバーを尊重し、愛情を持って育て、協働する組織を創るマネジメント力である。これは一貫して、これまでの経歴の中で築き上げたものだ。これらの強みは、多くの経営者に役立つ経営のコアと言える。。
(原 正紀)

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