2013-11経営者126_銀座セカンドライフ_片桐様

「ゆる起業」でシニアの起業を支援
3本柱のビジネスで全国展開を目指す経営者

銀座セカンドライフ株式会社 代表取締役社長

片桐 未央さん

高校の頃から法律に興味を持ち、大学卒業後には法務の仕事を志して花王に入社。事業支援にかかわるうち、法律以外に会計の重要性を感じ、それを学ぶために大和証券SMBCに転職し、公開引受業務を経験。その後、起業するために同社を退社し、行政書士、ファイナンシャル・プランナーの資格取得を目指す。公的な創業セミナーにも参加し、シニア起業支援のビジネスモデルを計画、資格取得とともに銀座セカンドライフを創業。コンサルティング、レンタルオフィス、交流会を3本柱とするビジネスを確立し、全国主要都市への展開を目指す経営者に話を聞いた。
Profile
学習院大学を卒業後、法務の仕事を希望して花王に就職。事業展開のサポートをする中で会計の重要性を知り、大和証券SMBCに転職し、その後独立。行政書士などの資格を取得し、シニアの起業支援ビジネスを創業。コンサルティング、レンタルオフィス、交流会の3本柱のビジネスモデルを作り、全国展開を目指す。

大好きだった祖母が認知症になり、グループホームに入ることに
シニア起業支援を志したきっかけは、この出来事だったと思います

ー その若さでシニア起業支援ビジネスというのは意外な印象もありますが、まずは片桐さんのキャリアをお聞かせください。
大学を卒業するときは、起業は考えていませんでした。大学では法律を学び、司法試験の勉強もしていたのですが、結局試験は受けず、法律知識を活かして企業法務で働きたいと考えました。そこで、職種別採用をしていた花王に就職し、希望どおりに法務の仕事に就くことができたのです。仕事内容は、新規事業などの法的なアドバイスを行うものでした。

そんなとき、大好きだった祖母が認知症になり、グループホームに入ることになりました。子どもの頃からおばあちゃんっ子で、とてもお世話になったのに何もできないことがつらく、夜中に目が覚めて悩んだりもしました。シニア起業の支援をしたいと思うようになったきっかけは、この出来事だったと思います。

仕事では、会計部門の方と一緒に事業展開の相談に乗る機会が多く、事業立ち上げに不可欠な会計分野にも興味を持ち始めました。また、父がシニア起業を行ったことも刺激になり、いつかはその支援ビジネスを立ち上げたいと思い、大和証券 SMBC に転職しました。そこでは引受審査部に配属され、企業の株式公開支援をしながら、行政書士資格取得のための勉強も始めました。そして、法的知識と会計知識を活かした起業支援ビジネスの立ち上げに踏み切ったのです。
ー 計画的に進めてきた部分と偶然の出来事を活かして、自ら機会を作り出されていま
すね。多くの方の参考になるキャリアモデルです。
起業したのは 27 歳でしたが、「3年やってダメなら、また就職しよう」と考えていました。30 歳くらいなら、就職の可能性はまだ十分にあるでしょうから(笑)。あまりビジネスを大きくするつもりはなく、自分が食べていければいいと考えていました。退職後に行政書士とファイナンシャル・プランナーの試験を受けて合格し、さらに公的機関で起業のための講座を3ヵ月間受け、具体的な起業プランを考えました。

起業を意識してからは、銀座にワンルームマンションを購入して住んでいました。起業後は、住まいを替えて事務所にしようと思ったのです。まずは、行政書士の資格を活かしてコンサルティングを始め、起業4ヵ月目からは、交流会を開催するようにもなりました。
もともとは設立記念パーティを行ったのですが、会場が満員で入れなかった方に「次はいつ?」と聞かれてからは、毎月開催しています(笑)。もうすぐ 60 回になりますね。

内容はビジネスマッチングが主体で、1時間は参加企業のプレゼンテーション、その後の2時間は交流といった形です。スタートして半年くらい経つと、メディアの取材が来るようになりました。参加人数が多いからでしょうね。さらにシニア起業が注目され、その効果もあって、毎回盛況のうちに行われています。

弊社が行っているのは、起業支援のワンストップサービス
コンサルティング、レンタルオフィス、交流会が三本柱です

— 起業というものは華やかな半面、とても厳しい部分もありますよね。どのような支援活動を行っているのですか。
起業をする方は多いのですが、支援を必要とせず、独自でやりきることができる方は、ほんのひと握りだと思います。大多数の方には、起業のための支援が必要です。シニア起業をされる方の場合、経験が豊富で能力は高いのですが、起業に関する知識や、起業後に必要となる経営や会計などの知識をすべてお持ちの方は少ないと思います。それを独自に手に入れることにも、限界がありますからね。

弊社が行っているのは、起業支援のワンストップサービスです。具体的には、起業に関するコンサルティング、レンタルオフィスの提供、交流会やセミナーの開催の3本柱です。利用者はシニアの方だけではありませんが、全体の 70%が 40 歳以上の起業家です。傾向としては、大手企業の出身者が多いですね。
— 3本柱の事業における強み・特徴は、どのような点ですか。
まずは、領域としてシニアの起業支援に特化した点ですね。そのような取組みはこれまで、行政しか行っていませんでした。起業のためのレンタルオフィスは多拠点展開していて、銀座、東京、横浜(予定)の3拠点を設けていますが、会員の方はどこでも使っていただけます。

さらに、事務支援やコンサルティング、交流会を通じて事業展開の支援を行う点も挙げられます。場所を提供するだけでなく、ソフト的な価値も同時にもたらす点が強みだと思います。オフィスの形態も、個室よりフリースペース活用を主体とし、交流や情報交換が自然にできるようにしています。立地が銀座で、価格がリーズナブルな点も、起業する方にとっては魅力でしょうね。
— 世の中の交流会には私も何度も参加しましたが、自分を売り込みたい方ばかりで、辟易した記憶があります(笑)。その点はいかがでしょう。
交流会では、目の前の方に売ろうと思わず、その方と知り合うことで、その人脈を活用できるかもしれないと考えたほうがいいですね。つながること、つないでいくことを考えるアプローチです。W in −W in の関係を目指して、まずは自分にできることはないかと考えることが、実りの多い人脈形成につながるようです。

特にシニアの方は、多様な人脈をお持ちです。それを活かすためのパートナー探しと考えてはいかがでしょうか。せっかくの人脈を活かさないのはもったいないですし、それを他人と分かち合うのもいいのでは。また、保有する強みも、それぞれのフィールドがあります。それをつなげることも、大きなメリットをもたらすと思います。

たとえば、紙メディアに強い方と Web メディアに強い方がパートナーになれば、お互いのビジネスフィールドが拡大します。弊社がそのようなビジネスマッチングの仲介的な役割を果たすことも、結構ありますよ。
— シニア起業の特徴とは、どのようなものでしょうか。若手世代などとの違いはありますか。
求めるものが違うように思います。規模拡大より事業の緩やかな継続、収入よりやりがい、組織化より自分1人で自由にやる、といったことを重視しているのではないでしょうか。起業する際に、家族に「無理はしない」、「迷惑はかけない」といった約束をしているケースも多いようです。

まさに自分のペースでゆったり取り組む「ゆる起業」が向いているんですね。人を雇わずに自分1人でやるというのも、自由にやりたい面もありますが、将来的に体力が減退して事業縮小となった際、従業員の人生を左右したくないという気持ちもあるようです。

これからシニア起業を増やしていくことで、経済の活性化に貢献できるのではないでしょうか。もともと能力や人脈はある方々なので、きっかけさえつかめば自然に増えてくると思います。でも、普通にサラリーマンをしていると、きっかけを作るのが難しいですよね。メディアの影響もあり、起業を考える方は増えていますが、先を見通して準備している方はまだまだ少ないと思います。

企業にいるうちから起業のための活動をすることに、後ろめたさを感じる方もいらっしゃるんですね。組織への忠誠心が強い、日本人ならではのメンタリティかもしれません。

シニアの方のセカンドライフの選択肢は広い
起業以外の選択肢を選んだ方も応援していきたい

ー 決して華やかとは言えないシニア起業の支援をするやりがいは、どこにあるのでしょうか。
起業すると、その方の顔色が変わってくる。いきいきとしてくるんですね。私が接している中で一番元気な方は 60 〜 70 代で、皆さんと接していると、こちらも元気になります。そういった方々は皆さん、とてもやりがいを感じているんです。

「皆さんのやりがいが私のやりがい」と言ってもいいかもしれません。お金ではなく、日々仕事をして社会とつながっていることの充実感と、それによって自分を高めている実感が何よりのやりがいのようですが、私も同じです。

ある方は、子どもさんから「少しは自分のことを考えたら?」と言われたそうです。皆さん、これまで家族のために一生懸命に働いてきたんです。子育てもローンの支払いも終わり、「やりたいことは?」と問われても、すぐに答えられる方は少ないかもしれません。交流会に参加したり、弊社のレンタルオフィスに通って、同世代の方々と交流したりしながら、やりたいことを探している方もいらっしゃいます。
弊社がかかわることで、セカンドライフでの仕事を見つけていただきたい。やりがいを感じ、会社のために働くのではなく、自分のために働いていると感じられる仕事は、見つけるのは簡単ではありませんが、セカンドライフの起業ではそれを目指していただきたいと思っています。

また、仕事の対価としてお金をいただくことも、自分が社会のために役立っている実感がするようで、皆さん、喜んでいらっしゃいます。
ー よくわかります。ビジネスの世界は戦場ですから、自分のことを考える余裕はなかなかありませんよね。一方で、この仕事の難しさは何ですか。
社名を「銀座セカンドライフ」としたのは、起業以外の人生の選択肢もある、ということです。弊社の事業は起業支援ですが、セカンドライフを送るうえで、シニアの方の選択肢はもっと広い。起業以外の選択肢を選んだ方も、弊社は応援していきたいと考えています。リスクが大きいと感じるときなどは、事業内容の変更や、場合によっては準備期間が必要で、いますぐ起業しないほうが良い、といったアドバイスもしなければなりません。そのあたりが難しいですね。人による向き・不向きもあります。幅広く経営がわかる方は起業に向いていますが、あまり多くはいらっしゃいませんね。

起業する際、不足していると感じる部分はパートナーシップでカバーすることもできますし、営業が苦手な方なら営業代行を活用する手もあります。1人で起業した場合、大部分は自分でしなければなりませんが、スムーズな起業には、アウトソーシングをうまく活用することが必要だと思います。
ー 経営者としてのご自身を、どのように評価されていますか。
私は会社員時代、法務と引受審査の業務を経験しましたが、どちらも上司に見てもらいながらすることが多くて...。マネジメントや人材の採用・育成といった経験は、まったくありませんでした。そこで勉強の必要性を感じて、創業支援の講座などを受けました。

起業後も、専門家を派遣してくれるような公共の制度を、積極的に利用しています。経営セミナーなどにもよく行きましたね。もちろん、すべてそのとおりにするのではなく、不足している知識を補って、自分なりのやり方を作り上げてきました。ですから、経営者としての自己評価は、まだまだ発展途上といったところでしょうか。

ビジネスプランコンテストに応募することも多いのですが、それも自社の経営の質を向上させるためにやっています。事業計画をブラッシュアップしたり、審査員から指摘を受けたりすることで、さまざまなヒントをもらっています。頭の整理にもなりますしね。これまでにたくさん応募しましたので受賞も多いですが、その分、落選したこともたくさんあります(笑)。

コンテストでは、他社のプレゼンテーションも見ることができて、とても勉強になります。審査員は、上場企業の経営者や著名なコンサルタントですから、その指摘はとても鋭く、自分のレベルも上がると思います。よく「他社との差別化ポイントは?」などと聞かれますが、それに対してソフト面での強みなどを挙げる中で、経営について改めてしっかり考えることができました。

ひと言で言えば、努力家タイプの経営者
マネジメントに専念するのでなく、現場で模索しながら経営を行っています

ー 片桐さんの経営スタイルは。
ひと言で言えば、努力家タイプの経営者でしょうか。まだまだ現場に入りながら、一メンバーとして活動している面も多いんです。事務や営業としても最前線にいながら、経営をしている感じです。経営者だからマネジメントに専念する、といった形ではなく、現場で模索しながら経営を行っている。

私が最前線で働くことは、銀行や行政の方からは、組織として動いていないという点で、弊社の弱みと見られがちです。でも、いまはそれでいいと思っています。これまで、お客様のニーズに合わせてサービスを作り上げてきましたが、それは現場の第一線にいるからできたことなんです。現場にいると、やりたいことがたくさん出てきて、次はどのサービスにするかを常に考えています。

やりたいことはまだまだありますが、実は創業当初と比較すると、随分サービスを絞り込みました。一時期は中古 PC の販売や、職業訓練学校としてパソコンスクールなどもやっていましたから(笑)。私自身でやれば、いろいろと対応できる自信はあるのですが、社員がそれをできるかどうかは別です。そうした試行錯誤の中から、絞り込んで戦力を集中することの重要性を知りました。
ー 今後の展開をどのようにお考えですか。
このままでも安定して成長できると思いますので、数字や業績を過度に気にしたり、起業促進をゴールと考えて無理をしたりといったことはしたくありません。目標は、セカンドライフを支援する会社であること。まずはレンタルオフィスを、日本全国の主要都市に拡大していこうと思います。大阪や名古屋、その他の政令指定都市などですね。フランチャイズの形態も視野に入れています。

現在、助成金申請の支援サービスも行っていますが、弊社自体も活用しています。レンタルオフィスを展開する際の大きな壁は、初期投資です。軽く数千万はかかってしまいますので、資金力がないと展開できません。弊社は銀座に3ヵ所、その他都内に1ヵ所、合計4店舗のレンタルオフィスを開設していますが、その際や、今後展開予定の横浜でも助成金を活用しています。今後は、レンタルオフィスの全国展開を戦略の主力に置いています。

これまでで最大の挑戦は、レンタルオフィスの展開
身の丈に合わせながらも精一杯背伸びすることが、私にとっての挑戦です

— 最後に、片桐さんにとっての挑戦とは。
私にとって最初の挑戦は、起業でした。リスクの大きさを感じていましたので、「3年でダメならやめよう」と、思い切って飛び込んだんです。結構慎重な性格ですので、あまり困難な挑戦はしてきませんでしたね。これまでで最大の挑戦は、レンタルオフィスの展開だったと思います。

起業して2年半でレンタルオフィスをスタートさせたのですが、当時の投資としてはとても大きなものでした。でも、一度始めてしまうと、多くの方々に迷惑をかけてしまいますから、ダメだから閉鎖、というわけにはいきません。その意味でも、気合を入れましたね。身の丈に合わせながらも精一杯背伸びすることが、私にとっての挑戦なのでしょうね(笑)。

銀座セカンドライフ株式会社 DATA

設立:2008年7月、資本金:1,000万円、事業内容:主に起業および起業後の法律・会計を中心とした支援(レンタルオフィス運営、会社設立・個人開業支援、許認可申請支援、助成金申請支援、事業計画策定支援、起業家交流会およびセミナー開催、契約書作成、会計記帳業務代行、電気通信事業)
目からウロコ
筆者も、『人生二毛作社会を創る』(同友館)を共著で書いており、シニアのセカンドキャリアについてはとても興味がある。シニアの活性化は、いまの日本の多くの問題点、たとえば労働力減少、年金や医療保険などの社会的負担増大、消費の縮小などを解決する有効な一手だと思う。新しい日本のイノベーションは、シニアによってもたらされるのでは、とすら考えている。そのような中、シニア起業支援を行う片桐さんのビジネスは、非常に社会的意義が大きい。

若い女性経営者が、海千山千(?)のシニア世代と渡り合えるのか、と思う方もいらっしゃるかもしれない。しかし、片桐さんの起業スタイルは、自らの経験を活かし、資格を取得し、創業セミナーに通ってビジネスモデルを作り、身の丈に合う形で事業を着実に進めてきたもので、教科書どおりのモデル的起業と言える。だからこそ、企業に長く勤めてきた方々のスタイルにマッチする。そして、自信を持って支援するからこそ、信頼感を勝ち得ているのだと思う。

多くの経営者は、自らの経営をクローズにしたがるが、他人から指摘されて快いことはあまりないからだろう。

シニア起業の活性化は、誰もが認める経済活性化策で、多くのマスコミや公的機関が同社に注目しているが、片桐さんはオープンソース経営と言っていいほど、あけっぴろげに自らの経営を公開し、他者の意見などを参考に経営力を向上している。その柔軟性、合理性、率直な向上心が“片桐流経営”で、多くの方の参考になるだろう。
(原 正紀)

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