2014-06経営者133_クラウドワークス_吉田様②1

クラウドソーシングの
トップランナーとして
共感経済時代のビジネスを
創造するリーダー

株式会社クラウドワークス 代表取締役社長

吉田 浩一郎さん

兵庫県神戸市に生まれ、学生時代は演劇に打ち込む。大学卒業後は電気メーカー、イベント会社、ベンチャー企業などに勤務し、マザーズ上場など多様な経験を積む。自ら経営に携わるために独立し、ベトナムでの事業展開などを行うが、信じていた幹部がクライアントを奪って退社するという挫折を味わう。ゼロから事業を立ち上げるべく、投資家を探す中で、クラウドソーシングと出会う。自身の強みを活かせる分野と考えてクラウドワークスを創業し、周到な準備の後に、サービス提供を開始。2年間で90億円近い取引を生み出した、共感経済の新たなビジネスを創造するリーダーに話を聞いた。
Profile
東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグジビションジャパンを経て、ドリコムの執行役員として上場を経験する。その後独立し、ベトナムでの事業展開などを行うが、他者の資本を入れて事業づくりを行うためにクラウドワークスを創業。クラウドソーシングの代表的企業として、2年間で急成長を遂げる。

クラウドソーシングとは、ネットで不特定多数の人に業務を発注できるサービス
当社は、クラウドソーシングで世の中を良くする視点で取り組んできました

— 日本にもクラウドソーシングがずいぶん根づいてきた感がありますが、まだ起業して2年だそうですね。事業の現状を教えてください。
クラウドソーシングとは、インターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注できるサービスです。個人から見れば、フリーランスや在宅勤務など、働き方の多様化を促進する仕組みとも言えます。当社は、日本最大級のクラウドソーシング「クラウドワークス」を運営しています。

サービスを2年間続けてきましたが、利用総額は 90 億円近くになり、クライアント数は3万社以上、登録ユーザーも 15 万人を超えました。クライアントは、TBS や日経 BPなどのマスコミや、ヤマハや伊藤忠などの日本を代表する大手企業、ヤフーやクックパッドなどの先進企業、さらには経済産業省など官庁まで、多岐にわたっています。

この業界には大手企業も進出していますが、数千円程度の利幅が小さい仕事を数多く紹介するモデルのビジネスですので、大手企業は注力しづらい分野だと思います。たとえば派遣会社などは、1人のスタッフを派遣すれば月間 60 万円ほどの売上になりますが、クラウドソーシングでは数千円を積み上げていかなければなりません。

コスト構造についても同様で、営業などを極力省き、ネットで完結するモデルにして、少額でも取引が成り立つようにしています。ネット証券会社のモデルと似ているかもしれません。共通点は、従来は営業が仲介していたものを、少額取引を可能として、ネットで完結するようにしてきたところです。

先ほど例を挙げたとおり、当社の特徴は、大手企業や公共関係のクラウドソーシングの仕事が多いことです。大手企業の場合、与信の問題から個人に対して仕事を発注することは難しく、法務などとやりとりをしなければなりません。一方で、私たちはこの市場を作り上げていく視点からサービス開発を行ってきましたので、大手企業の開拓は非常に大きなテーマと捉えていました。

これまでもクラウドソーシング的なサービスを行う会社はありましたが、多くはアマチュアを対象とした小遣い稼ぎ程度のものでした。それをプロの世界に引き上げていくことで、市場が拡大してきたのです。小規模なクライアントが、家庭の主婦などに発注するだけだったものが、大手企業がフリーのプロ向けに仕事を出せるようになり、企業と個人双方のメリットが大きいビジネスとなってきました。

当社は、クラウドソーシングによって世の中を良くするという視点で取り組んできました。ソーシャルゲームが全盛期を迎え、開発エンジニアやデザイナーが不足してきたことも、市場拡大の追い風となりました。IT やクリエイティブの分野はクラウドソーシングに合いますので、まずはその分野から取引が広がっていきました。

一年間しっかりと準備をしてからサービスをオープンしました
おかげで、スタート時には一、 三〇〇人もの登録者が集まりました

— 短期間でのスピーディな展開ですが、そのポイントは何でしょうか。
スタート前が一番大事だったと思います。どのようにダッシュするかをしっかりと考え、準備して始めたのがスピード成長のポイントでしたね。私は以前、イベント会社に勤めていましたので、数日間のイベントのために1年以上準備し、開催に向けて盛り上げていくような活動に慣れていたのです。

世の中のサービスには、とりあえずオープンして、それから盛り上げていくような考え方のものも多いですが、サービスの生死を分けるのは、オープン時のにぎわいだと思います。当社は、アイデアの発想からサービスリリースまで、1年間しっかりと準備をしてからオープンしました。その間ずっと、発注者・受注者の双方に向けた盛り上げ策を行ってきたのです。

事業のスタートにあたってまず行ったのは、出資者の獲得です。過去に起業した際は、自己資本 100%で行ったのですが、それでは事業の拡大に限界を作ってしまいます。経済は大きなシステムで、企業と企業がつながりながら連綿と続いてきたものですので、出資してもらうことでその流れに乗ることができると気づきました。このとき、著名なエンジェルや企業関係者などと直接交渉して出資を取りつけたため、そこに着目した日本経済新聞などで紹介され、面白い会社として注目されたことも、サービスの認知拡大につながりました。

次に考えたのが、登録してくれるクラウドワーカーを集めることです。対象層が集う場を作ることが必要で、場として活性化するには、多様な利用者が集まることが大事です。そのために、多方面で活躍する著名なエンジニアの顔写真などを、1人ひとりに了解してもらったうえでトップページに掲載するようにしました。
集めるのには2ヵ月間もかかりましたが、そのおかげで、ソーシャルネットなどで拡散し、スタート時に 1,300 人もの登録者を集めることができたのです。

その次のステップで必要なのが、クライアント(発注者)集めでした。個別に営業し、事前に 30 社ほどから発注予約をもらいました。そこまでの準備を行い、満を持して 2012年3月にサービスを開始したのです。サイトを訪れた方々は、そのにぎわいや仕事の充実ぶりに驚かれたと思います。
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当時はさらなる工夫として、できるだけ豊富な仕事量に見えるように、1ページあたりの仕事掲載量を少なめにして、なかなか全貌が見えないようにしていました。小出しにすることでにぎわい感を演出し、また見に来たくなるようにしたのです。いまはまったく必要のないことですが(笑)。

リアルの店舗では、オープニング効果を狙って、行列ができるような仕掛けをしますよね。私たちは「ガヤ感」と呼んでいますが、にぎわい感を出すためには、Web サイトをただ作ってオープンするだけではダメです。Web も、リアルの商売とノウハウが似てきているのではないでしょうか。

また、プレスリリースも月2回ほど打ち続け、こちらでもにぎやかさを伝えるようにしました。仕事の登録者やマッチングの情報などを伝えることで、さらににぎわい感を演出したのです。
— 仕事でも「段取り八分」と言いますが、まさに周到な準備がスピード展開を実現したのですね。
当社の事業は、実はビジネスモデルそのものの優位性は高くないと思います。仕組みそのものよりも、どのような人や仕事を集めるかが大事なのです。ネットの世界では「レガシー」と言われるような分野、つまり単純に人を集めて、仕事とのマッチングを図るといったものですから。

私が起業したのは 37 歳と、一定年数の経験を積んだ後でしたので、夢だけでなく、現実もしっかりと見ている点が強みだったと思います。だから、事業の優位性を冷静に見ることができたのでしょう。仕組みの新しさにほれ込むのではなく、しっかりとにぎわい感を演出していかなければならない、という危機感を持っていました。

私は最初の起業で挫折を味わいましたので、その反省から、人がついてくるためには大きな夢が必要であることを痛感しました。夢の大きさによって、どれだけの人がついてくるかが決まると思います。

クラウドワークスを起業する際には、自分の強みの先に夢を描こうと思い、テーマを求めて考え続け、聞いて回りました。その中で、ある社長からクラウドソーシングのことを聞いたのです。

話を聞いてからよく調べてみて、その概念の新しさに惹かれました。20 世紀は、国や企業が情報を提供してきましたが、クラウドソーシングは人にフォーカスしていて、誰もが発信できます。これは、社会の再構築とも言えると感じました。

たとえば、通勤時の事故情報などは、ツイッターなどで知ることも多いですよね。現代は、国や企業よりも速く、個人がつながる時代と言えます。たとえば、企業に所属するデザイナーの場合、自分の使いやすい機材は自宅にあり、高額な物をそろえていますが、会社組織には稟議があり、勝手にそろえることはできません。ですから、家と異なる機材を使わなければならず、やりにくいため、自宅に持ち帰って作業をしたりしています。

このような時間や機材の制限の状況を考えると、いったい誰の得になっているのかと疑問を感じます。何のために、通勤を強要するのでしょうか。このような働き方は、9時5時で人が集まる時代の産物です。いまは、個人から見た社会の再構築という夢を持ちつつ、現実の戦略を語っていますが、地に足をつけながら夢の実現を目指したいと思っています。

働き方の増加は、企業にもメリットが大きい
仕事に合わせて人材を柔軟に手配できることが、企業の負担を軽くします

— 日本の労働界には“正社員神話”のようなものがあり、さまざまな制度が正社員中心のものですが、今後は崩れそうですね。
明らかに変わってきていると思います。2015 年には、正社員比率が 50%を切るという調査もあるほどです。最近、厚生労働省などから講演依頼を受けるのですが、在宅勤務や柔軟な働き方を支持する方向性が明確です。

ただし、非正社員が半数を超えるとすれば、そのインフラはあまりにも未整備と言わざるを得ません。正社員は仕事の内容、受ける教育、社会保険などの処遇といった3つのメリットが顕著なのですから、非正社員のインフラも整備すべきです。

3.11 も1つのきっかけになったようです。六本木でさえ、インフラがストップしましたからね。確かなものは自分自身と、家族や友人とのつながりです。
お金や会社のためよりも、家族や地域のために頑張りたい、つながりを大切にしたい、という人が増えていますね。

こうした働き方の増加は、実は企業にもメリットが大きいのです。オフィスや不動産も、最初は所有することを良しとしていましたが、賃貸が主体となり、やがては従量課金(スペースの時間貸し)になっていくのではないでしょうか。人材も同様で、仕事の都合に合わせて人材を柔軟に手配できることが、企業の負担を軽くします。そのモデルが、クラウドソーシングなのです。

かかったコストに比例してモノが売れる時代ではない
すべてを持つような経営は、変わる必要があります

— 個人にとっても、自身の志向に合わせて活躍の場が広がることになりますね。
そうです。誰もが、フリーランスや専門職になりやすくなっていきます。一例を挙げると、Excel でマクロを組めるような PC スキルを持つ主婦が、1社2万円で 10 社と契約し、20 万円を稼ぐようなケースも出てきています。企業と個人が、対等の関係になっていくのです。

クラウドソーシングによって、企業における仕事のやり方も変わります。もちろん、非対面でのコミュニケーションや、考え方や文化の違う異民族とのやりとりも必要となりますが、グローバル化とはそういうものです。「...みたいな」といったあやふやな日本的コミュニケーションは、やがて通用しなくなるかもしれません。仕事や取引の進め方も、今後は変化していくはずです。

業績に苦しむ日本のメーカーは、資源を社内に抱え込む傾向があります。現代は、かかったコストに比例してモノが売れる時代ではありません。たとえば、今後日本にやってくる Spotify は 1,000 円で 20 万曲が聴き放題、Hulu は映画が見放題、Amazon の Kindle は書籍を$9.99 で統一など、マーケットに対応する経営でなければ通用しなくなっています。従来のすべてを持つような経営は、変わる必要があります。
ー たしかに、クラウドソーシングを取り入れることで、企業も進化できますね。ここに至るまでの吉田さんのキャリアについてお聞かせください。
学生時代は演劇に打ち込んでいたのですが、「音」について非常に興味を持っていました。空気の振動という、目に見えないもので人を感動させることに、不思議な感覚を覚えたのです。そういったこともあり、大学卒業後の就職先にパイオニアを選びました。当時は、面接だけで採用が決まる点にも惹かれましたが(笑)。

自宅は新興住宅街にあり、自営業に触れる機会もあまりなかったため、当時は、起業など特別な人のすること、というイメージでした。その後、パイオニアを辞めてイベント会社に転職するのですが、さらに会社の枠組み全体を知りたいと思うようになり、会社の立ち上げにかかわるため、ベンチャー企業のドリコムに移りました。このとき、株式公開を経験し、上場企業の役員となりましたが、やがて業績が悪化し、社員のリストラまで味わうことになります。厳しい体験でしたが、この経験を経て、自身の判断で経営したいという思いが強まり、起業に踏み切ることにしました。そして、ゾーイという会社を立ち上げ、それまでの経験を活かして、コンサルティングやベトナム向けの事業などを行いました。

そこでは、お金はある程度稼げたのですが、残念ながら事業を作り上げるまでには至りませんでした。また、信じていた役員が、クライアントを奪って辞めてしまったことなどもあり、会社を整理することにしたのです。経営破綻したわけではありませんので、資金はあったのですが、守りに入っている自分に気づき、思い切ってゼロから新会社を創業することにしました。そして車も売り払い、残っていた 2,500 万円を投じて、クラウドワークスを起業しました。

私は、スタート時の気持ちを維持するために、いまでも物を持たないようにしています。スーツも買い換えていませんので、社内のプレゼンテーションの際に、ズボンが破れているのを指摘されてしまったこともあります(笑)。サンクコスト(埋没費用)を気にする方も多いですが、自分のリソースにこだわりすぎると、衰退が始まってしまうのではないでしょうか。
ー 今後の事業展開については、どのようにお考えですか。
3つの取組みを考えています。第一に、大手企業の経営改革のサポートです。大手メーカーなどから声がかかることも増えてきましたが、クラウドソーシングの活用が注目されてきたのでしょう。今後は、新しいリソースの調達方法を提案していきます。

次に、海外展開です。毎年、シンガポールで行われるクラウドソーシングのイベントに参加し、海外でのパートナーを増やしてきました。クラウドソーシングの世界は国内にとどまりませんから、グローバルにビジネスを仕掛けていきたいと思います。

そして3つ目が、業界団体での活動です。クラウドソーシングは便利で面白い世界ですが、働くインフラとしてはまだまだ整備されていません。業界他社と共同で、社会にインフラを作り上げていきたいですね。市場規模としては、10 年後に1兆円を想定しています。IT・サービス業の非正規雇用者の5%である50 万人に月 20 万円の収入をもたらせば、1年間で 1.2 兆円になる計算です。それほど高い数字ではないと思っています。

当社のサービスを通じてコミュニティが生まれ、人がつながり、笑顔になる
人中心の経済のあり方を追求することが、私の挑戦です

— 最後に、吉田さんにとっての挑戦とは。
20 世紀はお金やモノが中心の時代でしたが、21 世紀は人が中心の経済になると思います。当社のスローガンは「働く人を通して、人々に笑顔を」というものですが、当社のサービスを通じて新しいコミュニティが生まれ、人がつながって、笑顔になっていく社会をイメージしています。今世紀における人中心の経済のあり方を追求することが、私の挑戦です。

当社のサイトには、「ありがとうボタン」という機能をつけています。良い仕事をして「ありがとう」がたまっていくと、ある部分ではお金がたまる以上にワクワクする——そのような働く人々の喜び、感謝、共感などが見えるサービスが理想です。共感経済の時代と言えるかもしれません。

クラウドソーシングの世界では、評価が高い人に多くの会社から仕事が殺到します。これは、取引としては正しい姿です。こうした人中心、共感性主体の経済実現に貢献していきたいと思っています。

株式会社クラウドワークス DATA

設立:2011年11月11日、資本金:74,184万円、事業内容:エンジニア・クリエイターのクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」の運営
目からウロコ
吉田社長はクラウドソーシングという時代の波に乗り、創業2年で大きな成長を遂げた。その裏には、資本政策からサービスレベルの設定まで、夢と現実を見据えた実に周到な準備があった。

時代の波には誰もが乗りたい。大手企業をはじめ、多くの競争相手が名乗りを上げたが、その中でトップに躍り出たのがクラウドワークスだった。大手メーカー、中堅サービス、ベンチャー企業でのビジネスマンとしての経験や、経営者としての起業、海外展開、幹部の裏切りによる挫折など多様な経験を積み上げた吉田社長の経歴が、余すところなく、今回の躍進につながっている。クラウドワークスを起業する際に行った資本の獲得、サービスの準備、大手企業への提案、スタートダッシュ、夢と現実での組織マネジメントなどの活動は、いずれも自らの体験の産物で、“吉田流経営術”と呼ぶにふさわしい。

特に注目したいのが資本政策だ。経済の大きな流れに乗るためには資本家の獲得が重要と考え、著名な投資家やビジネスパーソンに積極的にアタックした。結果的に、クラウドソーシングでの事業アイデアも、サービス開始の際の盛り上げにも、そのような活動からつながった投資家の力を活用している。このように、自らの知見に合わせて外部の力を利用できる経営スタイルは、今後のさらなる飛躍を約束するものだろう。私自身も含め、クローズな経営になりがちな“日本的経営者”は、大いに参考にしなければならない。
(原 正紀)

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