2014-07経営者134_BCCホールディングス_伊藤様②1

IT営業アウトソーシングと
介護レクリエーションのモデルで
上場を目指す経営者

BCCホールディングス株式会社 代表取締役

伊藤 一彦さん

学生時代にベンチャー企業の仕事を手伝い、ビジネスに目覚める。3年で辞めると宣言してNECに入社し、予定どおりに退社後、ベンチャー企業で事業責任者として活躍。2002年、かねてより考えていたIT営業アウトソーシングで営業創造(株)を起業する。創業時の苦労を経て、地道な営業活動とベンチャーキャピタルの活用によって成長するが、リーマンショックで危機的状況に陥る。その危機を本業への集中で乗り越え、スマイル・プラス(株)に資本参加。さらに株式上場を目指し、ホールディングス体制に移行する。理論と直感のバランス経営で、 後進経営者の範となることを目指す経営者に話を聞いた。
Profile
大阪市立大学理学部卒業後、NECに入社。3年後にベンチャー企業に転職し、事業責任者として活躍。2002年に営業創造(株)を創業、IT営業アウトソーシングで成長し、介護レクリエーションのスマイル・プラス(株)に資本参加。株式上場を目指し、2014年にBCCホールディングス(株)として持株会社体制に移行する。

IT営業アウトソーシングにITソリューション、経営戦略支援事業
三つの事業を組み合わせて、一つのスキームを作っています

— ホールディングス体制に移行されるそうですが、現状のビジネスについて教えてください。
実は、ホールディングス体制に移行するのは 2014 年7月からで、それまでは営業創造(株)とスマイル・プラス(株)の2社を経営しています。今後の株式上場を目指してホールディングス体制に移行し、まずは営業創造(株)の経営を当社の役員に任せることにしました。

営業創造(株)では3つの事業を展開していますが、根幹にあるのは IT 分野での営業アウトソーシングです。大手企業を中心に、IT業界に特化した営業支援を行っています。特定派遣や業務請負といった形で、IT メーカーやベンダー各社に営業力を提供するものです。これまでに、NEC や日本マイクロソフトなど約 40 社を支援してきました。現在、社員は 60 名ほどですが、そのうちの 40 名ほどが各社で活躍しています。

併せて行っているのが、IT ソリューションです。これは、代理店としてインターネットやクラウドのサービスを提供するものです。3つ目が経営戦略支援事業(注)で、バランス・スコアカードを活用した経営戦略立案支援のサービスです。そのためのコンテンツなどを提供しています。

3つの事業は並行して行っているわけではなく、IT 営業アウトソーシングが中心で、IT ソリューションと経営戦略支援はその推進のために行う構造です。新規開拓営業を行っているのですが、競争の激しい IT 業界での新規開拓はとても難しい。だから、経営戦略支援として多くの企業に窓口を作り、そこから営業していくという仕組みにしています。

実際に、現在の主要取引先の3分の2は、バランス・スコアカードをきっかけに取引が始まっています。一方で IT ソリューションには、IT 業界未経験の若手社員の知識や営業スキルを高める人材育成的要素があります。つまり、3つの事業をつなげることで、顧客開拓の窓口を広げて若手人材を育成し、IT営業アウトソーシングでの成果を高める、というビジネスモデルになっているのです。

(注)2014年7月より、経営戦略事業はヒューマンリソース
事業に組織改編されています。
— 3つの事業を組み合わせて、1つのスキームを作っているのですね。人を育てる実習と、大きな取引の前のドアノック商品が見事にコラボしています。なぜ、競争が激しく、新規開拓も難しい IT 営業アウトソーシングで起業されたのですか。
私は新卒で NEC に入社したのですが、そこで営業をしている際、常に疑問を感じていました。担当企業で取引を拡大していたのですが、会社からは常に「新規が大事」と言われる。でも、新規開拓には時間がかかるし、決まったとしても受注金額が小さいので、新規を頑張ってもあまり高くは評価されないんですね。

若手にやらせようと思っても、それができるようにしっかりと育てる機能もありません。つまり、大事な新規開拓をやる人がいなかったのです。ですから、いつかはそれをビジネスにしたいと思っていました。NEC を退社後に、ある経営者から誘われて、アウトバウンド系マーケティングのベンチャー企業に転職したのですが、1年後に自ら起業しました。

当時、ソニーが法人向けのインターネットサービスを行っていたのですが、その代理店が起業のスタートでした。コツコツと企業訪問をしてサービスを拡大し、3年目で黒字化してからは、かねてより考えていた IT 営業アウトソーシングに取り組みます。実績を作り、人を育ててから始めたのです。
現在、古巣の NEC からも取引をいただいていますが、元の上司は「私1人が辞めても、20 名の優秀な営業マンを送り込んでくれるから」と喜んでくれています(笑)。

この分野でブレずに続けたことで、少しずつノウハウが蓄積され、当社ならではの優位性を築いてきました。最近では、メーカー本体の営業支援だけでなく、メーカーからの依頼で販売店や代理店などの営業活動を支援するケースも出てきています。この分野にはあまり競合がいませんし、このスタイルの営業に特化しているので、他社に負けないだけの営業ノウハウが蓄積されています。
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大学時代は先生になりたかったんです
ベンチャー企業でいきいきと働く皆さんを見て、ビジネスの道を志しました

— 伊藤さんは若くして起業されましたが、学生時代から起業家を目指していたのですか。
大学時代は先生になりたかったんです。大阪市立大学理学部という、ノーベル賞学者などを輩出した学校に通っていたのですが、そこでベンチャー企業のお手伝いをした際、皆さんがいきいきと働いているのを見て、カッコいいなと思ってビジネスマンになることにしました。実はいまでも、夢は学校の先生になることで、社員たちにもそう伝えています(笑)。

就職活動の際は、どうせなら大きな会社に行こうと、各業界のトップばかりを受けました。その中で、これからは IT 業界が伸びると思い、NEC を選んだのです。実は、当時はパソコンも持っておらず、入社すればもらえるものと思っていたのですが、あっさりと「日本橋(大阪)に行って、自分で買ってこい」と言われてしまいました(笑)。

そこで日本橋に行ってみると、売る人たちのセールストークが素晴らしいんですね。私は何軒も回って話を聞き、参考にしました。そのおかげか、研修中にパソコンの飛び込み営業をする実習で、本当にパソコンを売ってしまって...。度胸試しのためにやるようなプログラムで、実際に売る新人はいなかったので、話題になりました。現金で売ってきたのですが、領収証を発行できずに困ったのを覚えています。

入社の際、「将来は起業したいので、3年で辞めます」と宣言したのですが、それでも採用してくれた懐の深さには、いまも感謝しています。営業関係の仕事を3年間行った後、予定どおり退社するのですが、その際、テレマーケティングのベンチャー企業の経営者から誘われ、その会社に転職することにしました。

転職後、4ヵ月ほど経つと、部門長を任されるようになりました。そこでマネジメントを経験できたことは、現在の経営に役立っています。社員 25 名、アルバイト 100 名ほどの組織で、ほぼ全員が年上でしたが、NECでの経験を活かして現場に即した教育を実施できたことが、多くの成果に結びつきました。本当はもっと長くいたかったのですが、経営悪化でテレマーケティング部門を縮小することになってしまい、1年で辞めて独立することにしました。
— いよいよ、当初の宣言どおりの起業ですね。スタートは順調でしたか。
設立前後は苦労の連続でしたね。2002 年1月に会社を辞め、2月に入籍し、3月に起業、という過密スケジュールでした。入籍直前まで会社を辞めることを嫁に言えなかったので、結婚詐欺呼ばわりされてしまいましたが(苦笑)。しかも、4年間しかサラリーマン生活をしていなかったので、貯金もなく、起業資金も嫁や親から借りる始末です。6月に結婚式を挙げたのですが、当初はヨーロッパを予定していた新婚旅行も北海道に変更し、お金も嫁に出してもらいました。

そんな脆弱な資金力ですから、起業してからも経営危機の連続でした。当時の取引先だったソニーから、「株式会社にしてくれ」と言われてようやく用意した資本金 1,000 万円は、3ヵ月でなくなってしまいます。いきなり訪れた倒産の危機は、日本政策金融公庫の創業支援融資でしのぎましたが、手元にお金が 10 万円程度しかなく、借金が 3,000 万円近くあるような時期もありました。

当時は、経営を学ぶために中小企業診断士の勉強もしており、何とか1年目で合格するのですが、起業1年目かつ新婚1年目でもあったので、寝る間もなく働いていましたね。そんな状態でしたが、社員たちも頑張ってくれたので、翌年からは経営が好転します。その後は順調に伸び、2009 年には上場を狙うことを宣言しますが、その後にリーマンショックが起き、再び経営危機を迎えることになりました。

その頃、社員は 50 名ほどでしたが、売上が低迷し、2年連続で赤字決算となってしまいました。外部の出資者などからはリストラを勧められましたが、ともに苦労してきた仲間を切ることができず、役員報酬カットと社員の給与 10%カットで乗り切る案が出されます。でも、本当はそれもしたくなくて、決断できずに先延ばしにしていたのですが、最終的にはやらざるを得なくなりました。

そのことを社員に説明する際は、涙をこらえ切れませんでしたが、逆に社員から「給与が 10%くらい減っても、大丈夫ですよ」と慰められました。創業時の倒産の危機よりも苦しい時期でしたが、社員の皆に救われましたね。こうした危機以外は、楽しく経営していますよ。

経営には五つの道がある
前、後、左、右、そして動かないことだ

— 先憂後楽、初期の苦労が今後、実を結ぶのでしょうね。リーマンショック後、どのように業績を回復されたのですか。
当時は新しいことを一切やらず、愚直に本業に邁進しようという方針を打ち立てました。新しいことをやるべきという意見もありましたが、あえて本業に集中するという選択をしたのです。新規事業にはコストもかかりますし、成功させるには時間もかかります。私がいろいろと相談をしていたメンターの方から、「経営には5つの道がある。前、後、左、右、そして動かないことだ」と言われたのを思い出したのです。

とにかく徹底して取引先の開拓に努め、社員たちも私を信じてついてきてくれました。結果的にその選択が功を奏し、2012 年9月期からは業績が回復します。苦しかった時期を乗り越えられたもう1つの要因は、厳しくなりそうな時期に前もって、1億円近い融資を受けていたことでした。翌年の業績落ち込みが見えていたので、銀行と交渉して先に融資を受けていたのです。

診断士資格を取得するために勉強してきたことも役立ちましたね。バランス・スコアカードを見れば、先行指標の動向からある程度先のことは予測できますので。早めの資金調達は、経営危機を乗り越える重要な行動だと思います。

もう1つ、資金調達の戦略としては、ベンチャーキャピタルの活用が挙げられます。
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当社も創業3年目の 2005 年に 5,000 万円を出資してもらい、その後の増資も含めて合計で1億 4,000 万円ほどを調達しました。

これらの資金が当社の成長の源になっているのはもちろん、ベンチャーキャピタルの出資を受けることで、他の金融機関への信用力にもつながります。それだけでなく、人脈を広げていくうえでの支援も受けることができました。他社の経営者や顧客予備軍、さらには株式上場に向けて証券会社や監査法人なども紹介していただいたのです。ベンチャーキャピタルの活用については書籍(『ベンチャーキャピタルからの資金調達』、共著、中央経済社)にも記しましたが、企業成長には有効な手段だと思います。
ー もう1つの傘下企業であるスマイル・プラス(株)は、資本参加をされたのですね。どのようなビジネスを展開しているのですか。
2年前に出資したのですが、もともとは尊敬するデザイン会社の社長が創った会社です。介護レクリエーションを通じて、高齢者や介護関係者に貢献するビジネスとなっています。介護レクリエーションとは、介護事業所で行う対象・趣味・ゲームなどのレクリエーション活動のことで、それを通じて、日々の生活の中に生きる喜びや楽しみを見出していくさまざまな活動を指します。

介護業界では、「介護=入浴・食事・排せつ」といった考え方が一般的で、レクリエーションを十分に学ぶことなく活動している人がとても多い。そして、たとえ興味を持ったとしても、体系的に学ぶ機会がないのが現状です。でも、それを取り入れることで、介護を受ける方の生活の質は大いに向上します。スマイル・プラス(株)では、そのような活動を広げる、社会的に意義のあるビジネスを展開しています。

具体的には、介護レクリエーションに関する素材を無料でダウンロードできる介護ポータルサイト「介護レク広場」、介護レクリエーションに特化した成功報酬型の求人サイト「すまいるワーク」の運営を行っています。さらに新たな資格として、「レクリエーション介護士」も展開していく予定です。介護レクリエーションを通じて、高齢者が心豊かに生活できる社会を実現するために、学ぶための教育コンテンツの提供、働くための求人情報の提供、現場で使うための素材の提供などの支援を、トータルで行っていきます。

理論と直感のバランスを保つことが、自分流の経営かもしれません
それともう一つ、楽しく経営をすることですね

ー 介護支援の広まりに伴って、今後はその質が問われますね。ホールディングス体制に移行し、これから株式上場に向かう際に発揮される伊藤流経営は、どのあたりがポイントでしょうか。
以前に上場しようと思った際は、宣言までしたのですが、リーマンショックでそれがストップしてしまいました。しかし、今回は2期連続で黒字を計上し、スマイル・プラス(株)という新たなビジネス展開も始めたので、再度上場を目指すために体制を新たにしました。いまは、ホールディングス体制に移行するにあたり、内部統制を整えているところです。外部の方からは、「論理的に経営しているね」とよく言われます。結構、直感的にやっているのですけどね(笑)。そういった点では、理論と直感のバランスを保つことが、自分流の経営かもしれません。

もう1つ言うならば、楽しく経営をすることです。「デザイン思考」という言葉を聞くようになりましたが、私もデザイン会社との連携などを行っており、その感性は経営にもとても大切なものだと思います。戦略やビジネスモデルを考えることはとても楽しく、得意です。逆に苦手なのは、じっくりと人を育てることですね。私自身がハードに働いているので、人にもそれを求めてしまうんです。最近は、週に1日は休むようにしていますが。

もちろん、社員には同じことを強制はしませんが、じっくりと人を育てるようなマネジメントは得意な人に任せて、自分では直接の部下を持たないようにしています。今回のホールディングス体制への移行を機に、より全体経営にシフトし、上場準備や内部統制を具体的に進めます。

ホールディング傘下の営業創造(株)とスマイル・プラス(株)のビジネスは、分野は違いますが、私の中では同じイメージで見ています。それぞれメインとは言えないものの、業界にとって重要な職種を当社が引き受けているというモデルです。顧客を開拓して、それにかかわる人を育成し、ビジネスにつなげていくという点も同じですね。上場後は M&A などの手法も活用して、このモデルでの拡大を目指していきたいと思っています。

どうすれば起業し、会社を継続させていけるか
自分がやってきたことをオープンにして、後進の経営者を支援したい

— 最後に、伊藤社長にとっての挑戦とは。
当面の挑戦は株式上場ですが、それを成し遂げた後は、後進の経営者たちのために、どうすれば起業し、会社を継続させていけるかを伝えていきたいと思っています。書籍やメディア、講演での発信などを通じて、これまで自分がやってきたことをオープンにし、これから経営をしていく人たちを支援したい。

自分の経営を成功させるだけでなく、後進の経営者を育てることが私の挑戦です。もともと教師志望でしたから、そういったことにもチャレンジしたいのでしょうね(笑)。

BCCホールディングス株式会社 DATA

設立:2002年3月6日、資本金:9,800万円、社員数:63人(グループ合計)、事業内容:営業創造株式会社(設立:2014年1月20日、資本金等:4,800万円、事業内容:IT営業のアウトソーシングなど)、スマイル・プラス株式会社(設立:2010年8月6日、資本金等:2,000万円、事業内容:介護レクリエーションの展開など)2社のホールディングカンパニー
目からウロコ
若くして起業するアントレプレナーが増えているが、伊藤社長の起業はそのお手本となるものだ。大手企業でビジネスの仕組みや業界を知ると同時に自らの力をつけ、ベンチャー企業において、大手企業ではできない事業責任者などを経験したうえで起業することが、もっとも可能性の高い起業スタイルだ。

大手企業は事業モデルのアイデアが豊富で、取引先としてのキャパシティも大きい。一方、ベンチャー企業では経営の実態を肌で感じることができる。大手で3年、ベンチャーで1年というのもほど良い長さで、最短コースで起業するにしても、このくらいの助走期間は欲しい。「上場後は、後進の経営者たちに自身の経験を伝えていきたい」と語っているが、この起業経験は大いに参考になると思われる。創業時とリーマンショック時の2回の経営危機、M&Aでの新事業への展開、ベンチャーキャピタルの活用などの実体験も、後進経営者にとっては大いに参考になるアイテムだろう。

伊藤社長の経営スタイルは理論と直感のバランスだというが、ビジネスモデルや戦略には徹底してこだわるというロジカルな面と、社員の前で涙を流すようなエモーショナルな面を併せ持つ経営者だ。ハードに働くことを求めるドライな「要望性」は成長企業に必須であるが、明るく情を感じさせる伊藤社長のキャラクターがあるからこそ、社員は信頼してついて行ける。これが、経営者のリーダーシップの目指すべき姿ではないだろうか。
(原 正紀)

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