2013-07経営者122_新井学園_赤門会日本語学校_新井様トップ

日本の誇るべき文化を世界に発信し、
日本と世界、教育と就業の
架け橋として活動する経営者

学校法人新井学園 赤門会日本語学校 理事長

新井 時賛さん

留学生を増やすという国の政策に機会を見出し、予備校の昼間の校舎を借用して日本語学校を開校。最初は数名の学生を自ら教えていたが、生徒が誰も来ない日もあったという。政策の流れによって留学生が順調に増える中、業界に先駆けて海外に募集拠点を設置し、積極的な経営を展開した。その効果もあって留学生は増え続け、1,000人を突破、業界を代表する日本語学校に成長した。日本語だけでなく、学生の幅広いキャリア支援を行う姿勢で、日本と海外の架け橋となっている経営者に話を聞いた。
Profile
東大赤門前にある予備校の昼間の教室を借りて、自ら留学生に日本語を教える形で赤門会日本語学校をスタートさせた。当初は韓国を中心に学生を募り、中国から東南アジアへと海外拠点を広げてきた。日暮里に本校を移転して学生寮を設置し、就職支援の会社も設立。1,000 人を超える学生を有する学校へと成長させた。

本校はただ日本語を教えるだけの教育サービスではなく
留学生の入口から出口までを考えています

— グローバル人材の時代、日本語学校の存在はとても大事ですね。まずは、学校やグループの現状などについてお聞かせください。
赤門会日本語学校の設置母体は学校法人新井学園で、本校と日暮里校の2校舎からなっています。東大赤門前に、いまも赤門会という予備校がありますが、そこの教室を借りて日本語学校を始めたのが、そもそもの始まりです。東大が事業をやっているわけではありません(笑)。予備校赤門会の塾頭さんが東大文学部のご卒業で、昼間の空き校舎を借りて始めたご縁から、いまだにその名前を名乗っているわけです。

ちょうど、当時の中曽根首相から、いわゆる留学生 10 万人計画という構想が出された時期でした。東京で初めてサミット(先進国首脳会議)が行われ、G 7首脳が一堂に会する中で、「日本が世界に誇れるものは何か」という議論になりました。当時はバブル期で、経済的には GDP 世界第2位の堂々たる国でしたが、カルチャーは世界にあまり知られていない状況で、相変わらず日本人はまだ頭にちょんまげをしているんじゃないかと言われていた時代です(笑)。

先進7ヵ国の中で留学生が一番少ないのがフランスで、当時 10 万人でした。一方、日本はわずか2万人で、それもほとんどが国費留学生で、私費留学生はあまりいませんでした。そこで、「2000 年までに 10 万人に増やそう。そのためには日本の文化を世界に発信し、世界の先進国として国際貢献していこうじゃないか」という発想で、この計画がスタートしたわけです。
— 日本語学校は、他の学校機関とは少し違う成り立ちなのですね。
当時は、日本に来ても日本語を話せなければどうにもならない時代でした。大学の中で日本語教育を行う発想もなかったので、留学生が来ても日本語の授業を受けられない状況でした。日本語は、非常にマイノリティな言語です。国費で日本に来る留学生はしっかりと勉強して来るわけですが、日本語教育のインフラがまったく整備されていない状況で、一般の私費留学生が 10 万人も来られるわけがない。

大学という高等教育機関に入る人は、留学生なのでビザ番号を与えられますが、日本語学校に来る学生は、いわゆる特定活動となりますので、法務大臣が特別に認める学校という形で日本語学校はでき上がってきたわけです。いまは約 14 万人の留学生が日本におり、当校には 28 の国・地域から約 1,000 人の学生が在留しています。割合としては4割が中国、3割が韓国、その他が3割です。
ー そのような日本語学校の中で、リーダー的存在である貴校の特長を教えてください。
本校が他の日本語学校と違うのは、ただ日本語を教えるだけの教育サービスではなく、留学生の入口から出口までを考えているところです。彼らは、平均年齢 20 〜 25 歳の間に日本に来ているわけですが、この時期は各自の一生を決める大きな岐路であり、そこで日本を選んでくれたわけです。1〜2年間、日本語を勉強した後に、専門学校や大学に進学するのですが、母国の高等教育機関を卒業した人が、日本語を学んで日本の企業に就職するケースが最近、増えているのです。
大事な時間を投資して日本を選んでくれたことに対してどう応えていくか、私たちの課題として常に模索しています。彼らの目的を達成させるために、人材紹介を行うヒューマンパワーという会社を立ち上げました。外国人に特化した人材派遣と職業紹介ですが、ビジネスというより、学生たちの出口を考えようというスタンスです。

外国人留学生は日本の学生と違って、ただキャンパスがあって学校で勉強できればいいというわけではなく、宿舎を確保することも重要な課題です。アパートを借りるにしても、連帯保証人や礼金が必要ですし、家賃7〜8万円のワンルームを借りると、初期費用が40 〜 50 万円もかかってしまいます。それを解決するために、寮を4ヵ所保有し、約 350人の学生が入れる形をとっています。

母国と日本の文化、特に企業文化はかなり違いますので
それをしっかりと教えなければいけません

ー 貴校の教育は、どのようなものですか。
教育は3本立てで行っています。国公立をはじめ、有名大学に入るための日本語教育を行うクラス、一般会話を学ぶクラス、ビジネス就職クラスの3つです。留学生に対するセンター試験のようなものがあるのですが、留学生同士で競合し、相対評価で大学に入る制度で、成績順に振り分けられていくため、その対策が必要です。

ビジネス就職講座では、社会人的素養といいますか、日本企業で通用する戦力としてのノウハウを教える必要があります。母国と日本の文化、特に企業文化はかなり違いますので、それをしっかりと教えなければいけません。なぜ朝礼をしているのか、「ホウ・レン・ソウ」の言葉の意味は何なのか、チームワークはなぜ大事なのか。おかげ様で現在、就職希望者の 90%以上が企業に就職しています。
— 日本の企業から見た外国人留学生の評価は、どのようなものでしょうか。
非常に評判が良かった点は、モチベーションが高いところです。人生の中でもっとも貴重な時間を、あえて日本に来て過ごしているわけですから、当然です。実績を上げたい、成果を出したいという意欲が非常に高く、ハングリーです。日本の賃金水準が高いことも、覇気につながるわけですね。何となくその企業に入った日本人社員と、目的を持って入ってきた外国人社員では、感性がまったく違います。

彼らは目がギラギラしていて、経営者にも非常に良い刺激を与えています。とは言え、最初は企業開拓に非常に苦労しました。本当に外国人としっかりしたコミュニケーションが図れるのかと、経営者は恐れていました。それがいまは、外国人をどんどん入れていこうという発想に変わってきています。
— 日本語は非常に難しい言語だと思いますが、どのように教えているのですか。
基本的には直接法で、まずは絵などを使って教えていきます。易しい日本語から教えていきますが、幼児教育のように「これが鳥ですよ」といったことから始めます。文法は、その後に学んだほうが習得も早いですし、正確な日本語を覚えられます。専任・非常勤合わせて約 100 名の講師が在籍していますが、単に日本語を教える能力だけでなく、教師としての資格も要求しているため、日本語教師検定試験に合格した人を採用しています。

日本語学校は全国に約 400 校あり、そこに通う外国人は約4万人と言われています。1校あたり 100 人の計算ですが、それでは事業としてなかなかペイできません。中には50 人規模の所もあるわけですが、果たしてしっかりとした日本語教育ができているのか、少し心配になります。業界がもっと整備されるべきだと考えています。
— 貴校の強みは、どのような点でしょうか。
日本の良さが十分に世界に理解されていない状況で、いかに日本の魅力をアピールし、外国人留学生が来やすい環境を作っていくかが大事です。海外に拠点を作っていく必要性を感じて、本校では 20 年以上前から韓国のソウル、釜山に直営の事務所を設置し、中国の上海にも 10 年前から事務所を作り、募集活動を行っています。今年は、ベトナムのホー・チ・ミン市に募集事務所を作りますし、ミャンマーにも拠点を1つ作る予定です。

海外拠点を置いて募集に力を入れていることが、本校の強みです。業務提携ではなく、社員を常駐させることで、日常的に募集活動・面接を行えて、留学生の確保ができます。さらに、その強みをデジタル化し、拡大していこうというのがこれからの構想です。いまは、ネットで世界中がつながる時代ですから、ネットによる募集活動のための仕組みづくりに取り組んでいるところです。

日本に興味がない人たちにも、積極的にアピールしていこうと思っています。日本のアニメや日本食が好きな人たちに、まずは日本に来てもらい、そこで人生設計を立ててもらえばよいわけです。日本語をしっかりと学んだら、国に帰ってもらってもよいと思います。それでも、日本の良さの認知は、さらに広がりますからね。

日本人の持っている親切心・礼儀正しさ・丁寧さ
その三つが、日本の大きな魅力だと思います

— 伝道師的な立場から伝えていきたい日本の魅力とは、具体的にどのようなものでしょうか。
いつも外国人と接していますが、よく聞くのが、「日本は治安が良いから、安全・安心」ということです。もう1つは、非常に清潔であることですね。どんな下町や裏道に行ってもゴミがなく、非常に清潔で住みやすい。それから、日本人の持っている親切心・礼儀正しさ・丁寧さですね。その3つが、大きな魅力だと思います。留学生が日本にいればいるほど、そのような魅力にひかれていきます。

特に親切心や丁寧さは、海外で学ぼうと思っても学べない部分です。このようなカルチャーは、日本に来て初めて感じられる部分と言えます。留学生が母国で日本に対して持っているイメージは、経済大国や GDP世界3位といったことですが、そこにカルチャーへの理解が加わってきて、非常に新鮮な感動を覚えるわけです。このような美点をもっとアピールして、海外から学生を集めていけたらと思っています。

本校ではこれまで、1万5千人以上を卒業させてきましたが、日本が嫌になって帰った学生は、ごくわずかです。1%いるかいないか、ではないでしょうか。経験上、そのことは自信を持って言えますので、日本全体としても、もっと誇りを持って世界に訴えかけるべきだと思います。
— 私たちは当たり前と思っていても、それは大きな日本の価値なのですね。日本人の学生との交流の場を設けるような活動もされているのでしょうか。
「ピース登山隊」という会があって、「富士山に登ろう」を趣旨に活動しています。設立
経緯をかいつまんでお話ししますと、皆さん、ご記憶のことと思いますが、2001 年、新大久保駅でホームに転落した男性を助けようとして死亡した韓国人留学生がいました。その李秀賢(イ・スヒョン)君は、本校の在学生だったのです。兵役を終えて高麗大学の貿易学科を休学し、日本に来ていたのですが、目的は日韓の架け橋になることでした。

韓国の貿易系の会社に勤めて、両国間の貿易の第一人者になりたいと考え、そのために日本語を知ろうということで、本校に来たわけです。非常に立派な青年で、彼も日本の良さにひかれていきました。そこで彼は、自分の人生を軌道修正し、復学して韓国系の企業に勤めるのでなく、日本でも活動したいということで、マウンテンバイクを担いで富士山頂まで登るなどしていました。
そんな彼が、日本人を救うために事故死した後、彼を見習おうということで、「ピース登山隊」が結成されたのです。ボランティア団体と一緒になって会を作り、韓国の留学生と日本の若者が青年の家に泊まり、富士山に登ろうという取組みです。これは毎年、恒例になっていますが、ここで結ばれた国際結婚のカップルも3組ほどあるらしいですね。

彼の行動は、非常に大きな社会的反響を引き起こしました。本校で葬儀を行いましたが、全国から 2,300 通を超える手紙が寄せられました。多額の寄付も集まり、ご両親にお伝えしたところ、日韓の架け橋になりたかった息子の遺志を継ぐということで、アジア奨学会を作り、約 500 名に対して奨学金を交付しています。これは、彼が残してくれた足跡です。
— 大変痛ましい事故で、いまでも鮮明に記憶が残っていますが、その遺志が脈々と受け継がれているのですね。最近では、留学生30 万人計画というものもあるようですが。
最初の 10 万人計画と、今回の 30 万人計画では、質がまったく違います。前者は、世界に日本の文化や情報を発信していこう、日本で勉強してもらうことで世界に貢献していこう、といった目的が根本にありました。後者はそうではなく、最終的には日本の企業に就職し、定着してもらいたいという、人口減少社会への対策が根幹にあるわけです。しかし、単純に人材の輸入のように考えてもらうのは、少し考えものですね。

もちろん、留学生に対する手厚い支援が必要とは思います。30 万人という数字は、他の先進国を意識しているようですね。フランスやドイツの大学で学んでいる留学生は、全体の 10%強です。日本では、大学で学ぶ学生が約 300 万人いるわけですから、その10%で 30 万人となったようです。アジアの優秀な留学生をどうすれば受け入れられるか、という点に重点を置いて、官民問わず、もっと考えるべきじゃないかと思っています。

私たちが最近、現場で感じる傾向として悲しいのが、日本に来る人が“セカンドベスト”の傾向になってきたことです。いわゆるトップレベルは皆、欧米に行きます。中国に行く人も増えてきて、日本は下手をすると“サード”になっている。このまま何も政策をとら
ないでいると、「仕方ないから、日本にでも行くか」とか、「日本しかないか」などといった「でもしか」の状況になってしまいかねない。そういった危惧を、私たちは抱いています。
— 世界から求められる日本像とは、どのようなものでしょうか。
日本の文化や情報で高く評価されているのは、アニメくらいのものです。これからは、日本の食文化が、もっと注目されるのではないでしょうか。一方で、日本のものづくりのレベルの高さにひかれて、日本を目指す層も確実に存在します。反日活動家が、日本製のカメラを持って活動している、などといった話もあるくらいです(笑)。でも残念ながら、将来は母国で一流企業に勤めたり、指導者を目指したりといった層は、ほとんどが欧米に行ってしまっています。

内なるグローバル化というか、日本人もやはりグローバル化しなければいけないでしょう。英語が通じないことも問題ですが、積極的に異文化交流をしていく姿勢を持つべきです。企業も同様で、そのためには日本語教育だけでなく、ビジネス日本語や、場合によっては英語を教えていくことも必要と考えています。

日本の良さを発信し、 外国人を受け入れ
共生していくためのお手伝いをすることが、 私たちの使命です

— では最後に、新井理事長にとっての挑戦とは。
多角化経営は考えていません。少子高齢化で人口減少になるから、外国人を入れなくてはいけない、という次元の話ではなく、日本という国を守るための発想が必要です。たとえば、農業や林業などですね。日本の良い点は、新幹線などに乗っているとわかります。田畑が広がり、民家がポツンポツンとあって、少し行くと大都会がある、といった点だと思いますが、その日本の原風景が壊されていくことを懸念しています。

担い手がいなくなっていくのは非常に悲しいことですので、日本の良さを発信して、外国人を受け入れ、共生していくためのお手伝いをすることが、私たちの使命だと思っています。留学生の入口から出口までの需要をすべて満たすことで、より優秀な学生に来てもらい、魅力ある日本を世界にアピールできるよう、最前線で頑張っていきたいです。

学校法人新井学園 赤門会日本語学校DATA

日本語教育開始年月日:1985年7月1日,認定機関:1990年4月1日〜2013年9月30日,教員数:100名(うち専任:23名),収容人員1,250名,学校教育法上の位置づけ:各種学校(正規課程),入学時期:1,4,7,10月
目からウロコ
ビジネスや教育の現場で仕事をしていると、グローバルという言葉を聞かない日はない。しかし、日本のグローバル化は、どの程度進展しているのだろうか。ソーシャルネットワークの世界では、外国人とのやりとりも多くなってきたが、全体的にリアルな場でのグローバル化の進展は、とてもゆったりしている気がする。増え続けてきた外国人留学生も、リーマンショック・大震災と続いたマイナス要因で、ここ数年は減少傾向にある。

私の会社でも留学生のキャリア支援事業を行っているが、その肌感覚から、近年の留学生減少の真因は、アジアにおける日本離れの傾向の表れではないかと危惧している。新井理事長も、留学生の質的低下を心配されていたが、日本の強みであったものづくりやアニメなどでも、韓国や中国の台頭が著しい。その差が明らかに縮まっているだけに、早くから海外に拠点を設置し、日本の良さを発信しながら留学生の誘致に努めてきた赤門会の活動は、とても重要だ。まさに日本と海外の架け橋的な活動で、それによって日本の良さを理解し、渡日してくる留学生が増えれば、若手世代を中心に日本の内なるグローバル化も進展する。

少子化時代の日本の成長戦略は、アジア地域との関係性を抜きにしては語れない。国策としても力を入れるべきだ。本インタビューの1つの収穫は、安心、清潔、丁寧といった日本の良さの再認識だ。「当たり前」と思っていた点は、誇るべき日本の武器であり、磨きをかけていきたい日本の美点だった。
(原 正紀)

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